ピンポーン。
朝の寒さの中、コタツに入ってウトウトとしていると、玄関のチャイムが無機質な音を奏でていた。その音にビックリしてハッと目が覚める。どうやら僕は一度起きて布団から抜け出した後に、コタツで暖を取っていたら眠っていたようだ。
冬場はコレがあるからあなどれない。
朝なんかはあまりの寒さのために服を着替えるのが辛い。だから目覚めて布団から出た後にコタツで暖まる。そしてコタツの中で着替えを行うと寒さを感じずに外出する準備が整うのだ。これも生活の知恵。
けれども、ただの着替え場と呼ぶにはあまりにも温暖で心地よいコタツの中の世界は、目覚めたばかりの僕を簡単に再度眠りの世界へと誘ってくれる。コイツのせいで何度会社に遅刻したことか。
誰が訪ねて来たのか知らないが、とても良いタイミングだ。危うく二度寝して会社に遅刻するところを救ってくれた。チャイムの主に感謝しつつ、いそいそとコタツから出て玄関へと向かう。やはりコタツから出ると寒い。
「どちらさんですかー?」
ドア越しにチャイムの主に話しかけるが返答はない。ただただ一定のリズムで「ピンポーン」とチャイムを鳴らすだけだった。
不審に思いながらも玄関の鍵を開錠し、そっと扉を開ける。その瞬間にドアの隙間から外の冷気が一気に流れ込んでくる。その一瞬、「今日も寒いな、こりゃあ出勤が大変だぞ、ズル休みでもしてやろうか」という怠けた考えが頭をよぎったが、今はそれどころではない。チャイムの主を確かめるのが先決だ。
ドアを開けると、そこには小汚い小さな子供が立っていた。朝もやの中、汚らしい偽ブランドのジャージを着た子供がポツンと立っていた。なんだかどこかで見たことがあるような子供。誰かの面影を有しているような気がしなくもない子供。
誰か知り合いの子供だっけ・・・・?
と頭の中の記憶を探るのだが、どうしても出てこない。そもそもこんな小さな年の子供に知り合いなどいない。だいたい、いたとしても何の用事でこんな子供が僕の部屋まで訪ねてくるのだ。
「どうした?何か用かい?」
優しく問いかけるのだが、子供は下を向いたまま答えようとしない。それどころか、僕の姿を見るや否や目に涙を浮かべて今にも泣きそうな表情になっている。
「どうして・・・・どうして・・・・」悲しみの中必死に声を振り絞るその子供は、何か憎しみのようなものを身に纏っているように感じた。
「どうした?何か用か?泣いてちゃわからん」
少し苛立ちながら問いかけると、その子供はやっとこさ重い口を開いた。
「どうしてこんなになってるのさ!パイロットになってるはずじゃなかったのかよ!それがこんなボロアパートに住んで面白くない仕事をやったり休んだり!そんな未来じゃないうだろ!」
目に沢山の涙を浮かべて少年は言う。
「はあ?」
自分としてそんなことを急に言われても意味不明だ。何のことやら分からない。
「人違いじゃないのか?それより君は何処の子だい?」
少年の勢いに押され、少し優しく問いかける。それでも少年は僕に対する追及の手を緩めない。
「それになんでそんなにダサいんだよ。なんでそんなにカッコワルイんだよ。失望した!僕の未来は真っ暗だ!」
そう吐き捨てると少年は小走りにアパートの通路を去っていった。
「なんだったんだ・・・・?」
不思議に思いながらも、ドアを閉めコタツに戻り再度暖を取る。少し少年のことが気がかりだがコタツの暖かさに触れているとウトウト眠くなってくるから不思議だ。またもや眠りの世界に旅立とうとしていると
ピンポーン
またもや玄関のチャイムが鳴る。
またさっきの子供化か。イタズラしやがって、叱ってやると思いながら勢い良くドアを開けるとそこには小汚い老人が立っていた。見るからに汚らしく貧しそうな老人。ヨボヨボと小刻みに震え、品のなさそうな茶系統の服装をしている。それでいて、どこかで見たことあるような老人だった。
老人は僕と目が合うと突然
「喝!!」
と怒り始めた。その体を支えていた小汚い杖を振りかぶると、僕に向かって怒りをぶちまけ始めた。何がなにやらわからず
「な・・・なんですか・・!?一体!?」
と聞くと、老人は
「貴様のせいじゃ、今のワシが不遇なのも貴様のせいじゃ!」
などとさらに怒り始めた。何のことかわからず
「何が僕のせいなんですか?アナタと僕に何の関係があるんですか」
と両の腕で必死に杖を防御しながら尋ねると、少し落ち着いた老人は語り始めた。「若い頃のお前が、仕事をサボって日記を書いたりパチンコしたりで遊んでるからこうなったんだ。若い頃にもっと頑張っていればここまで惨めな思いはしなかったのに。ほれ見ろ、今じゃワシは独りぼっちで仕事もなくてな、カツラも付けたり外したりと惨めなもんじゃ」
老人はうっすらと涙を浮かべると、杖をつきながらヨボヨボとアパートの通路を歩いて去っていった。去り際に「自分を責めても始まらんの」と言いながら。
その瞬間、僕の目の前に茶色い天井が広がった。
どうやら、コタツに入りながら眠ってしまい、浅い眠りから夢を見てたようだ。どこかで見たような少年と老人が揃って僕を責めるというやけにリアルな夢を。
「夢か・・・それにしてもやけにリアルな・・・」
と嫌な寝汗を拭いていると
ピンポーン
とチャイムが鳴った。夢ではなく現実の世界で間違いなくチャイムがなった。まさか・・本当にさっきの少年と老人が・・・・と思いながら恐る恐るドアを開けると・・・
「ガス代」
とか言いながら、ふてくされたガス屋のお兄ちゃんが立っていた。
「今日ガス代払ってくれなかったらガス止めますから。溜まってる36000円払ってください」
というやけにリアルなガス屋のお兄ちゃんのセリフを聞きながら、コレも夢なら早く醒めてくれなどと思った。
その後、過去の自分と未来の自分、少しでもガッカリさせてはいけないとコタツでの二度寝をやめて遅刻しないように職場へと向かう僕がいた。ちょっとずつだけど頑張っていこう。
ガス代は払えなかったけどな。それ自体がガッカリだ。