平成米泥棒(Numeri日記より) | ヌメラーのヌメラーによるヌメラーの為のNumeri日記

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おもにNumeriでお気に入りのブログ転載します。Numeri知らない人はゼヒ読んでヌメラーになりましょう。
※私が書いてるのではありませんので悪しからず(^^)/

僕は走る、とにかく走る。まるで競走馬になったかのように走る。走る理由は人それぞれかもしれないけど、僕はとにかく逃げるために走る。腹が減っても走る。ただそれだけだった。

僕の職場にはブッチャーって女性がいましてね、こいつが微妙にパンチパーマ風のチリチリした髪型で、ほのかに大仏に似ていて仏教の香りがする子で、天竺にいそうな人なんですけど、おまけに本気で仏壇みたいな臭いがするもんですから、心の中でヒッソリとブッチャーって呼んでるんですけど、コイツがいちいちキチガイで困る。

本当は前の職場で職場バレした時のあのほろ苦い経験を活かし、あまり職場のパーソンをネタにしたくないんですけど、どうしてもこれだけはネタにしないと許せない。僕が許しても神が許さないってレベルの事件が起こってしまったんですよ。

あれは、世の中全てがグレーっていうかグレイ、むしろGLAYに見える地獄の給料日前の事でした。いよいよ手持ちの金も尽き、クレジットカードも停止、手持ちの食料もなくなってHoweverの一つでも歌いたくなり、いよいよこれまでかと焼け落ちる天守閣で覚悟した気分になった時でした。

「すまない、許しておくれ」

この手段だけは使いたくなかったのですけど、ついに大塚愛主演の「東京フレンズ」プレミアムDVDボックスを売りに出すことを決意した僕。DVD3枚が豪華なブックレットと共に封入されたこのボックスは、僕の宝だったし希望だった。そして、全宇宙だった。

しかし、背に腹は代えられない。まるでドナドナのような哀愁を漂わせて中古DVD屋の買い取りカウンターへ。すまない、僕が大富豪になったらきっと買い戻すから、そして二度と離れることないよう、何度も何度も再生してあげるから、今は耐えてくれ、頼む。

買い取りカウンターに置いた瞬間、走馬灯のように数々の思い出が蘇ります。最初はシンガー大塚愛がドラマだなんて笑っていたけど、見てみると結構良かったよ。あの衣装も、あの場面も、あのセリフ、全部が良かったよ。

いつの間にか妄想の中で僕は登場人物になり代わり、大塚愛の相手役として青春群像を描いていたのでした。さようなら、そして今までありがとう。そして、愛するものを手放さなければならなくなった自分の不甲斐なさを悔いたのでした。

けれども、決して無駄死にではない。君を売った金は僕の食費となり、僕の血肉となって生きるだろう。そう、僕らはずっと一緒なんだ。さあ、店員、買取額を教えてくれ。

「うーん、500円っすね」

ちょっとまってくださいよ、奥さん。500円ですよ、500円。僕の最後の希望、最後の果実、最後のキス、大塚愛の「東京フレンズ」プレミアムDVDボックスが500円。確か、値段は定かではないですけど買った時は1万6000円はしたはずだぞ、どうなってんだ。

「はい・・・それでお願いします・・・」

しかし、今やムシキングとかに夢中になってるその辺の小学生より所持金がない僕は、この提示額を受け入れるしかなく、ただただ世の理不尽さを嘆きながら500円玉を受け取るしかなかったのです。500円玉ってこんなに軽かったっけ。

とにかく、この大塚愛が与えてくれた500円でなんとか食い繋がねばなりません。早速ディスカウントショップに赴き、正体不明の訳分からない聞いたこともないようなメーカーの安いカップラーメンを5個購入します。で、それを本当に追い詰められた時の最後の果実として職場デスクの引き出しに隠しておいたのです。これで何があっても大丈夫、ラーメンが5個もあればきっと生きていける。

それから数日、なんとか塩を舐めて水を飲み飢えを凌ぐ日々が続きます。とても辛いのだけど、その後ろにはラーメン5個が控えてると思うと頑張れる。なんて心強いんだ。窮地のマウンドでバックが盛り立ててくれてるような心強さすら感じます。俺、一人で野球やってるんじゃないんだ、打たれたってバックが守ってくれる。最高の仲間達がな!

まあ、そんなことはどうでもいいとしまして、いよいよ限界と言うか、生命の危機、これはヤバイですな!と自分で自分を笑えるポテンシャルまで上り詰めた時、ついにこの時が来た!とデスクの引き出しを開けたのです。さあ、ラーメンを食うぞ。ここから巻き返しの時だ!

とか思ってガラリと開けるんですけど、なんかエロ本しか入ってないんですよ。ワンコイン人妻の濡れ濡れ痴態とかポップなフォントで書かれたエロティカルな雑誌しか入ってないんですよ。いやいや、職場のデスクにエロ本て!とか思う人は死んでください、問題はそんなとこじゃない。なぜ、ここにあった5個のラーメンが消えてるかってことだ。

とにかくパニックになっちゃいましてね、キャッツアイみたいな広域窃盗団が忍び込んでラーメンを奪い去ったかとキャッツカードを探しましたがありません。UFOによるキャトルミューテレーションの類かとも思ったのですがミステリーサークルらしきものも見当たりません。もうどうしていいのか分からなくなっちゃいましてね、途方にくれるやら腹が減ったやら、とにかく泣けてきたんですよ。

そしたらそこにブッチャーがやってきましてね、もうコイツはノックもせずに勝手に入ってくる無礼なアバズレですから、いつか不慮の事故を装ってオナニーでも見せ付けてやろうと思ってるのですが、とにかく、こんなブッチャーでも頼らずにはいられないほど狼狽していた僕は、ワナワナと震えながら、農場帰りにUFOを目撃したコロラド州のキャサリンさんみたいに相談したのです。

「デスクの中のラーメンが消え失せた!」

たぶん、狼狽しすぎて西の空にオレンジ色の光が、とか言ってたかもしれませんが、そんな僕の寝言をふんふん、と一通り聞いた後、ズッシリと、まるで大物組長みたいな貫禄でこう言ったのでした。

「ああ、それ食べちゃったよ。お腹すいてたし」

いやね、怒りのあまり言葉を失うとはこのことですよ。僕の大塚愛を売った500円で買ったラーメン、それを勝手に食いやがるとは、それよりなにより5個も食いやがるとは、それよりなにより勝手にデスク開けんなよ、おれよりなによりお前は何でそんな仏像みたいな顔してるんだ、とまあ言いたいことは山ほどあるのですが、あまりの衝撃に言葉が出ない。それよりなにより腹が減ってどうしようもない。本当は目潰しでもアイアンクローでもしてやりたかったのですが

「ああ、そうか・・・食べちゃったか・・・んー・・・美味しかった?」

と力なく言うことしかできませんでした。しかもブッチャーの受け答えが酷くて、

「うーん、イマイチだった」

という、まるで反省することを知らないふてぶてしい幼女レイプ犯みたいな回答ですよ。たぶん、僕が満腹だったら迷いなく頭の皮を剥いでた、間違いなく剥いでその皮を腰に巻いていた。それくらい怒ってた。

とにかく、最後の希望を失った僕は失意のまま仕事をしていたわけなんですけど、本当に悪いことってのは重なるもので、なんか深夜まで残業しなきゃいけない状況になってしまったんですよね。、もう、腹も減って希望も失ってるというのに、真っ暗な職場で一人黙々と仕事をしていたんです。

そしたら、とにかく臨界点といった按配であったまきちゃいましてね、なんで最後の果実まで奪われて一人で黙々と仕事しなくちゃならないんだって怒り出しちゃったんですよ。もう、夜の会社窓ガラス壊して回りたい気分だった。

で、ヒタヒタとそういった類の妖怪みたいに真っ暗な会社を歩き回ってですね、とにかくこの空腹をなんとかするしかない、松坂牛でも落ちてねえかなって感じで色々な部署を徘徊し始めたんですよ。

まあ、腐っても仕事する場所ですから、当然ながら食い物っぽいものなんか落ちてないんですけど、そこに、闇夜に浮かぶブッチャーのデスクが飛び込んできてのです。

元はと言えば、コイツが勝手にデスク開けてラーメン食ったのが良くないんだ。コイツさえいなかったら今頃ラーメンで満腹、バリバリと残業をこなしてるはず、あったまきた!コイツでのデスク漁ってやる!

まあ、明らかに人間的に最低、人間的に最底辺、その辺の生ゴミと大して変わらないんですけど、とにかくガラリと引き出し開けて漁ってやりましたわい。

「キレイメイク」とか書いてある訳分からない雑誌が出てきたり、なぜだか知らないけどルービックキューブが出てきたり、しかも全面揃ってるし、おまけに下の段の一番パワフルな引き出しには陶器の招き猫が入ってました。コイツは何を招きたいんだ。僕の人のことは言えませんけど、コイツは何しに職場に来てるんだ。頭の中に水死体でも詰まってんじゃねえのか。

とにかく、意味不明のパラレルワールド、具体的に言うと、ひょんなことから鏡の向こうの世界に行ったら自分がもう一人いて、そいつが真面目で勤勉で人々からの信頼も厚く、貯金も2千万くらいあって毎日料亭で食事、しかも株価の動向を分析するサイトをやっていたりするという別世界を垣間見たような意味不明な気分に陥ってしまいました。

おいおい、この招き猫、相当でかいぞ、と手にしようとした瞬間、その猫の横から衝撃的なものがゴソリと出てきたのです。

「米」

ビニール袋にマジックでそう書かれた物体、最初はテリーマンか何かかと思ったのですが、それは見紛う事なき米、ライスですよ、ライス。2合はあったでしょうか、宝石のように眩い光を放つお米たちが、「僕達を食べてよー」と言ってるように見えたのです。

なんでブッチャーのデスクに米が入ってるのか知りませんが、これは神が与えたもうたチャンスだ、米たちだって食ってくれと言ってる。なあに、もともとはブッチャーがラーメンを食ったのが悪いんだ。だれも咎めはせん。僕にはこの米を食べる権利がある。いや、食べる義務がある。

もうノーモーションで盗みましたね。30歳にもなって、平成の世になって米泥棒に手を染めるとは思ってませんでしたけど、とにかく盗みました。しかも、僕は職場でラーメンを作るため(炊飯器でお湯を沸かす)に炊飯器を持ち込んでるという好条件。お湯を沸かす以外にピッコロを封じ込めるくらいしか活躍の場がないと思ってましたが、まさかこんな形で生きるとは。とにかく、そっこうで炊いて食ってやりました。

久々に食う米は本当に美味しくて、何の調味料も要らない。オカズだっていらない。米自体が本当に美味しいんですよ。あんな涙しながら食った米は初めてだ。ありがとう、ブッチャー。仏教とホント素晴らしい。

さて、問題は次の日ですよ。

米でお腹が膨れた僕は残業を終えて真夜中に帰宅。次の日は少し遅めの出勤でいいよっていう上司の言葉を間に受け、本当に午後5時くらいの夕暮れ時に出勤したのですが、職場に行ってみると何やら様子がおかしい。なんか玄関のところでほとんどの同僚が並んでワイのワイのやってるんですよ。

なんだ、みんな揃って僕のお出迎えか、ういやつじゃ、と思うはずもなく、その様子を見守っていたのですけど、何やら様子がおかしい。

「おめでとー」

「幸せにね」

とか口々に言っていてお祝いムード一色。みると、なにやら同僚2人を囲んで皆が祝福してるんですよ。

たぶんですけど、かねてからまことしやかに、というかブッチャーが「○○さんと△△さんが結婚するらしい、素敵だわ」と噂していたように、彼らのオフィスラブの結果である結婚が発表された模様。△△さんのほうは寿退社するらしく、おそらくその最後の見送りかなんかだろうと思われるんですよ。

で、この一連のお祝いに一番躍起になってたのがブッチャーで、どうやって2人をお祝いするかとかずっと考えてたみたいなんですよ。

まあ、僕はこういったお祝いムードがクソのように苦手ですので、遠巻きにその様子を見守っていたのですが、あーあ、なんか若手男性社員でアーチみたいなの作って2人がそこくぐってやがるし、あー、なんか米みたいなのも撒き始めたぞ。結婚式でもないのに職場でこんなことするなんてコイツら頭狂ってるんじゃないか、と見ておったんです。

そしたらね、何か様子がおかしくて、ちょうど風が強い日だったんですけど、撒いた米が風に乗ってビュンビュン飛んでいってるんですよ。いくら風が強いからってあの飛び方はおかしい、ファミコン版ベースボールのバグみたいな変化球になってるんですよ。

で、近づいてみると、撒いてるのが米じゃなくてポップコーン。頭おかしい。欧米か。

いやね、結婚式の時などに米をシャワーのように新郎新婦に撒くライスシャワーにはちゃんと意味がありまして、「米のように実りある生活を2人で送ってね」という願いが込められてるんですよ。それがポップコーンて。弾けますよ。パンパン弾けますよ。

もう、新郎新婦に向かってポップコーン投げる同僚達、しかもそれが全然シャワーになってなくてあさっての方向に飛んでいくというシュールな絵図。これにはバウバウとバカ受けしちゃいましてね、群衆の中で「おめでとー」って感じになってるブッチャーに近づいて言ってやったんですよ。

「これ考えたのお前だろ?バカだなー、米くらい用意しておけよー」

そこまで言って気がつきましたよ。あれだったのか、と。

「なんか、引き出しに入れておいたお米がなくなっちゃったんですよ。だから急遽、マミさんが持ってたポップコーンで・・・」

というブッチャーの目をまともに見れませんでした。

「それはUFOの仕業かもしれない。地球の米をサンプリングするために」

くらいしか言えなかったのですが、ブッチャーはあまりに余所余所しいその返答でピンときたらしく、

「あ、お米食べたのpatoさんですね。そういえば炊飯器あるし、昨日、帰るまではお米は確かにあった。その後も残っていたのはpato酸だけですし、絶対そうだ!」

と、金田一ばりの名推理。

「いや、帰る時に西の空にオレンジ色の光がこうブワーッと」

と切り返したのですが

「なんなら炊飯器調べましょうか?どうせ洗いもしてないんでしょ?お米ついてたらすぐわかりますよ」

と野党のようなキツイ追求。これには僕も山下達郎ばりに「ごらん、パレードが行くよ」と存在もしないパレードを見るフリをして話を変えることしかできませんでした。

まあ、そんなの通用するはずもなく、烈火の如く怒ったブッチャーは地獄突きでもしそうな勢いで襲ってくるのですが、ただただ、僕は走って逃げることしか出来なかったのでした。

僕は走る、とにかく走る。腹が減っても走る。まるで競走馬になったかのように走る。あの名馬、ライスシャワーのように。