僕はまあ、未だにミサンガとか10回10回クイズとかが大ブレイクしているクソ田舎に住んでるんですけど、この間、何を思ったのか一発奮起して東京に行ったんですよ。まあ、いわゆるオノボリさんってやつでして、イナカモンよろしくで魔都東京に行ってきたんです。
でまあ、何をしに行ったのかって言うと、言うまでもなくAKB48劇場に行って公演を見たいって気持ちがありましてね。何年か前にエレベーターを間違えて乗ってしまって劇場の裏手みたいな場所に無断侵入してしまって出入り禁止になったほろ苦い経験があるんですけど、まあ、そろそろ罪は赦されただろう、贖罪は済んだんだわ、という甘い考えのもと、とりあえず東京に行ってみたんです。
羽田空港に到着し、新しくできた国際線ターミナルを眺めながら「東京はおそろしかとこバイ」とか訳の分からないことを呟き、勝手に自分の中で東京スタイルだと思っている「電車の中でモンハンをする」という最先端のトレンドを体感しつつ、あれよあれよというまに秋葉原に到達しました。
僕が前に秋葉原に来たときってのは、まだ駅も小汚くて、駅前にはリストカット跡が無数についてるようなメイドが、まさに冥土と言わんばかりにチラシを配っていたんですが、なんかしばらく来ないうちに物凄く近代的になってました。こりゃもうオタクの町じゃねえよ、あの頃のナイフみたいな秋葉原はどこに行っちまったんだと呟きながらAKB劇場を目指します。
秋葉原駅から歩いて7分くらいでしょうか、ドンキホーテビルの8階にAKB劇場があります。久々にやってきたぜ、と意気揚々とビルに近づくと、何やら異変が。こう、なんていうんですかね、例えば軍人ってムチャクチャ訓練されてるじゃないですか。こう、ナイフとか出されてもシャシュ!って感じで簡単に捌いちゃうでしょ。そういった強さって明らかに軍人の魅力なんですけど、もっとこう、別の魅力があって、たまに訓練された軍人が初対面の相手に「こいつタダモンじゃねえ」みたいな気配を感じるシーンがあるじゃないですか。あれが死ぬほどカッコイイんですよ。
で、僕もそういった訓練された軍人みたいに、コイツ、タダモンじゃねえみたいな気配を感じ取るんですけど、とにかくその数が多い。タダモンじゃねえのがウジャウジャいやがる。なんかドンキホーテ前の歩道を埋め尽くすようにその道のプロみたいなオタクの方々がたむろっているんですよ。訓練された軍人も裸足で逃げ出すレベル。
なんでこんなオタクの方々がいるんだ、出待ちでもしてるんかいなと思いながら近づいてみると、みんな手に手に分厚い、それこそ鈍器のように人を殴り殺せるんじゃねえかっていう重量感のあるファイルを持ってるんですよ。で、そのファイルをウットリといった恍惚の表情で眺めながら仲間たちと口々に談笑ですよ。
「お、この写真いいね」
「いやいや、○○さん(なんかモイスチャーっぽい名前)の写真こそ」
会話を盗み聞きしているとですね、どうもAKB劇場で売りに出されているAKBメンバーの生写真トレーディングカードみたいなのを狂ったように見せ合ってるんですよ。いや、狂ったようにじゃなかった、ある意味狂ってた。だって、完全に歩道塞いで大人たちが生写真を見せ合ってるんですよ。もう意味が分からない。それならチンコでも見せ合ってたって方がまだ納得できる。
そんなこんなで、あまりに異様な光景にブルっちゃいましてね。早い話、その異様な光景にビビったし、その光景の横で普通に日常生活を営む東京の人にもビビったしで、早い話、東京に飲まれちゃったんだと思います。
で、あまりにも怖いもんですからちょっと離れた場所で、その剛の者たちの集団を眺めていたんですけど、ホントにみんな熱心に生写真をトレーディングしてるんですよ。あっちで交換、こっちで交換、望みの写真を手に入れて喜ぶ者、生写真を求めて右往左往する様はさくらの花びらのようで、桜の花びらたちが咲く頃、どこかで誰かがきっと祈ってるとか訳の分からないこと考えてました。
で、腹減ったんでどこかで飯でも食おうと思ったんですが、東京の店って怖いじゃないですか。東京は恐ろしい街で男でもレイプされることがあると聞きます。怖くて店とかはいれないので、結局コンビニでお茶とオニギリかって食いました。
腹が満たされると、まあちょっと勇気が出てくるというか、ここで怖気ついてちゃ7万円くらい払って飛行機に乗ってきた意味がありませんので、なんとかAKB劇場にいかねばという気持ちになってきたんです。で、ドンキホーテビルに近づき、オタクどもの結界をぶち破ってビル内に入り、ムリムリとエスカレーターを昇っていきます。
なんか、5階くらいにAKBショップみたいなのがあって、多くの人々がオイルショックのときのようにAKBグッズを買い漁っているのを眺めつつ8階に到着。8階にはビルの外以上にオタクな方々がひしめき合っており、もう熱気ムンムン、将棋倒しが起きそうな勢いで満員御礼の状態になってました。僕の住むミサンガ流行のクソ田舎にイオンができた時みたいな状態になってました。よくわからんけど。
で、そのひしめき合ってるオタクたちがなにやっているかというと、そうです、生写真の交換です。他にすることないのか。ただでさえクソ密集している場所なのに、アクロバティックにファイルを出してですね、
「○○さん(なんかキー坊みたいな名前)、まゆゆ余ってません?」
「ないよ」
「フヒヒヒ」
みたいな会話を展開してました。こんな満員電車みたいなところでやらずに外でやれよ、とか思っていたら劇場スタッフと思わしき人がやってきて「トレーディングは11時まで」とか書かれた紙を掲げて大声で叫んでるんです。
「トレーディングは11時までです。ファイルを閉じてください!」
とかなんか、トレーディングの時間は劇場側で決められているらしく、小学生レベルの注意を大声で言ってるんです。でまあ、小学生ならまだマシで注意を聞き入れてファイルをしまったりするんでしょうが、オタクどもはそうはいかない。あれだけ盛んにトレーディングをやめるように言われてるのに、聞こえてないと言わんばかりに熱心にトレーディングですよ。
そのうち、劇場スタッフの声も荒々しくなってきましてね。僕のようなトーシローはその益荒男ぶりに怖くなってブルってるんですけど、オタクどもは恐れない。むしろ劇場スタッフという体制に反抗する俺たち、レジスタンス、みたいな誇らしい顔してるんですよ。誇らしい顔しててもやってるのは生写真のトレーディングなんですけど。
結局、どんどん猛々しくなる劇場スタッフに、全く聞き入れないオタクという対立構造。それでいて満員電車並みにギュウギュウという訳の分からないシュールな状態に。
「しまってー!ファイルしまってー!」
「まゆゆ余ってますかな?」
最終的には、怒りがリミットブレイクした店員が人込みを掻き分けて接近してきて
「オラー!ファイルしまえ!」
ってまるで叱り付けるように怒鳴ってました。なぜか僕に。何もしてないのにいきなり怒鳴られた僕は、東京という町の暴力性に震えながら
「いえ、あの…」
とか、出入り禁止になった思い出がフラッシュバックし、マゴマゴしていると、何かしらない妙に正義感に燃えているオタクが僕の近くにいたみたいで、なおかつ、僕のことを劇場スタッフの指示に従わない悪質なオタクと勘違いしたみたいで、いきなり僕に掴みかかってきて
「オラ!ファイルしまえって言ってんだろ!」
と、目を合わせずに凄まれました。いや、ファイル自体持ってませんがな。
それにしても東京こえーと思いつつ、掴み掛かってきた正義感オタクの腕を見ると、ミサンガが巻かれていました。やっぱり東京は怖いところだ。
つづく