カルネアデスの板というお話があります。ある船が荒天に巻き込まれて難破し、乗組員全員は海に投げ出されてしまいます。命からがら波間を漂う船板にしがみつきます。そこにもう一人の乗組員がやってきて同じ板にしがみつこうとしました。まずい、この板は一人を支えるのがやっとだ、2人も掴まったら沈んでしまい二人とも死ぬだろう。
苦悩した男は板にしがみつきながらもう一人の男を突き飛ばし溺れさせます。結果、男は助かりもう一人の男は死亡します。生還した男は裁判にかけられることになりますが罪には問われなかった。
これは古代ギリシアの哲学者カルネアデスによって提唱された有名すぎる問題で、2人とも死ぬくらいなら1人を殺しても罪にはならない、もっとくだけていうと、やむを得ない場合は人を殺しても構わないということを言っているのです。
日本における法律においてもこの種の問題は定義されており、刑法においては刑法37条の「緊急避難」がそれに当たり、危機を回避するために何らかの法を犯したとしても一定の条件下でそれを免除する、というものです。
ここで大切なのは、もちろん他に手段がない場合に限るという条件付ですが、危機によって生じる損害と、回避するために生じる損害との大きさの比較です。上記のカルネアデスの板の場合、他に手段もなく、危機によって2名の命が失われようとしています。それを回避するために1名の命を消し去ったとしても、それは回避行動の方が損失が少ないので正当、ということなのです。
こういったお話は、そんなに社会生活の中で遭遇するものではなく、そりゃあ命の危機に直面することもないでしょうし、二人とも死ぬくらいならいっそ一人を殺して、などと苦悩する場面もそうそうありません。けれども、ミステリーの世界なんかでは結構あって、連続殺人の真犯人が
「5年前のあの海難事故の日、愛する芳江の命を奪ったあいつらに復讐してやったのさ」
「そんな高志君……」
「助けを求める芳江の手を振り払ったあいつらを法律では裁けない、緊急避難とかいって裁けない、だからおれが裁いてやったのさ!」
「天国の芳江さんはそんなこと望んじゃいないぞ!」
「遅いのさ、もう何もかも遅いのさ。俺はやっと芳江のところに行くことができる。じゃあな、名探偵!」
「まて!」
ズガーン
「なんで自殺なんか、なんで殺人なんか、それが芳江さんが望むことなのかよ!答えてくれよ高志君!」
「ハジメちゃん……」
ってな感じで殺人の動機に関わるコアな部分として結構な頻度で登場しますが、ふつうにに日常生活を営んでる分にはそうそう遭遇し得ないシチュエーションです。そりゃあ、助かるために人を殺すべきか、なんて苦悩する日常なんていや過ぎる。
数年前、車を運転していた僕は異常な脱糞衝動に駆られました。普通のウンコしたいって感覚を10とするならば、その時は4000万くらいだったんじゃないかっていう異常な脱糞衝動、漏らしてはかんわん、といち早くコンビニに駆け込もうとアクセルを踏みしめました。すごい普通の農道なのに100キロくらい出してたわ。それくらい危険が危ない状態だった。
まあ、そういう時って大抵間が悪いもので、思いっきりスピード違反取締りに引っかかっちゃいましてね、途方もない速度違反だぞって警察の人に怒られちゃいました。確かにスピード違反は良くないけどやっぱ何か釈然としないじゃないですか。そこで反論したんです。
「もうウンコが漏れそうだったのでついついスピードを出しすぎてしまいました」
「そう、よかったねー」
警察官の方には全く取り合ってもらえず、思いっきり違反切符をもらいました。見逃してくれるかもしれない、とか淡い期待を抱いた自分がバカだった。そのうち事情聴取みたいなの受けながら本気で漏れそうに、ってかちょっと漏れちゃいましてね、大変な騒ぎでした。
これも緊急避難に当たるんじゃないかとも思うのですが、スピード違反ってのは死亡事故などに直結します。自分が死ぬならまだいいですが、人を轢き殺すことだってある危険な行為です。ウンコを漏らすという損失よりも、そちらの方が損失が大きい、だから緊急避難にはあたらないと自分の中で納得したものです。
このように、日常生活でカルネアデスがあったとしてもせいぜいウンコレベル。そこまで深刻な場面に直面することなど今日の平和な日本社会ではありえないのです。けれども先日、そんな前提を覆す重大事件が起こったのです。
あれは週末のホットなひと時のことでした。明日は仕事も休みだし今日は夜更かししちゃうぞーとネットサーフィンに勤しんでいた時のことでした。
女性のアナルの中にウズラの卵を入れるっていう途方もない、文化大革命みたいなエロ動画を繰り返し見てたんですけど、そこでね、思ったんですよ。ほら、Numeriって下品って言うか下劣なるものじゃないですか。どっかの会社からは「下品」という理由でNumeriにアクセスできないようになってるらしいですしね。
そういう下品なNumeriであっても「アナル」って単語は良くないと思うんですよ。今やインターネットって普通に当たり前で青少年とかも読んでしまう可能性がありますから、「アナル」って直接的表現はあまり良くない。できれば包み隠したオブラート的な表現はないかと模索し始めたんです。
で、色々と考えた結果、今度からはアナルのことをエイナルと呼ぼう、それだと語感もあまり失わないし、未来的でなんだかカッコイイ。そもそも英語の発音に近い。それに映画の題名になりそうな単語、浜崎あゆみの歌のタイトルになりそうな単語だ。うん、これからアナルのことはエイナルって言っちゃうよーって決意したんですよ。で、それが浸透していってYahoo!とかで「エイナル」で検索したら下のほうに「 アナル ではありませんか?」って出てくるくらいにならないかなーって夢想したその時ですよ。
「絶対にセックスできる出会いサイトです!」
衝撃的な謳い文句の宣伝が目に飛び込んできましてね、絶対にセックスできるとはまた豪気な、まあ、こんなもん今更驚くも何もない、絶対にセックスできずに架空請求とかされまくる詐欺サイトだと思うんですが、その時はアナルのことをエイナルって呼ぶって決めて興奮してたんでしょうね、女の子とエロいメールそつつサラッと「エイナル」って言ってみたい衝動に駆られてしまったんです。
早速、件のサイトにアクセスし、登録、掲示板の書き込みを見てエロそうな女を物色したんです。
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名前 アユム
書き込み 今から会える人とかいないかなー、エッチしか取り得ないけど
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ハッキリ言ってこれは反則ですよ、反則。僕ぐらいの魔王になるとこの書き込みから1000の真実を読み取ることができるのですが、「エッチしか取り得ない」なんてすごい強烈な破壊力じゃないですか。なんとなくドジでボーっとしてる天然系の女の子で、でもエロいことになると豹変して貪欲に求める、みたいなイメージがあるじゃないですか。この書き込みにはそれだけ深い意味がある。
ケロッグもう我慢できないって感じですぐさまメール出しましたよ。送る際のニックネームを「pato」にするか「タダシ」とか普通の名前にするか、それともエキセントリックに「色狂中年卍」とかにするか悩んだんですけど、天然系の人見知りする子だろうから、ちょっと控えめに「ネコ」とか訳の分からない名前で送っておきました。31歳の中年が「ネコ」もクソもないんですけど、とにかく送っておいた。
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名前 ネコ
エロい話とかできないかな?
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まあどうせ、こんなインチキ出会い系サイトですよ、会うとかそういうの絶対にあり得ませんからエロい話でもしてサラッとエイナルって言えたらいいやくらいの気持ちでメール出したんです。そしたら鬼のような速さで返信が届いてきましてね。
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名前 アユム
エッチな話より会ってエッチしたいな!
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おいおい、アユムちゃん積極的だな。ほんと、貞操観念とかどうなってんだ、けしからん!って憤るんですけど、どうせサクラが会話を引っ張ってポイントをせしめようとしてるんでしょう。ここは乗ってあげるのが大人のマナーってもんです。
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名前 ネコ
うーん、会ってもいいけど、どういうことしたいの?
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まあ、正直言うとこの時点で半分くらい面倒になっちゃいましてね、もうどうでもいいやって感じだったんですけど、それでもエイナルって言いたい!っていう欲求だけが僕を衝き動かしていました。
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名前 アユム
普通のエッチがしたいかな?
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なんだよ普通のエッチって!と思うのですが、これはもう大チャンスで、ここで一気に決めてしまいましょう。
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名前 ネコ
エイナルをペロリとかしてみたいなあ
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よっしゃあ、いったああああ。もう満足、大満足。もうこれでおしまいでいい。って思ったんですけど、またもやアユムちゃんから鬼の速さで返事が来ましてね。
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名前 アユム
エイナルってなに?
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そうだよ、そりゃそうだよ。これが極めて普通の反応。ここでエイナルって言葉を脳裏に叩き込んでおいてですね、実はそれはアナルのことだよ、って教えることでウブな子なんかは赤面もんですよ。それを想像するだけでご飯3杯はいける。
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名前 ネコ
アナルのことだよ
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これでもうアユムちゃんはドン引き。顔真っ赤にして携帯電話握り締めてるに違いありません。そうではないかもしれないけどそうであると考えるだけで興奮する。もう最高だぜ。しかし、アユムちゃんの返事は予想外のもので
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名前 アユム
アナル舐めてくれるの!?お願いしていい?
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おいおい、どうなってんだ。すごい乗り気じゃないか。昨今の若い娘の貞操観念はどうなってんだ、けしからんな!などと思いつつも、アユムちゃんから得体の知れぬ本物のオーラを感じてしまい、省略しますが色々とメールのやり取りをしました。
するとまあ、アユムちゃんは会ってエロスなことをするのにたいそう乗り気でしてね、本気で待ち合わせ場所とか待ち合わせ時間とか指定してくるんですよ。こりゃもう、美人局か本当にエロスな女子が存在しているとしか思えない具体性でしてね、もしかして大変なことになるかもしれない、とこっちがドキドキしてきたんです。
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名前 アユム
じゃあ、9時に○○町のセブンイレブンの前で待ってる。こっちはジーンズに白のトレーナー着てるね
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もうね、ここまで言われたら行くしかないじゃないですか、行かないやつがいるのならばお目にかかりたい。行ってエイナルをペロリだぜ。ポケモンゲットだぜ!
早く行かねばならない。1分でも1秒でも早く到着しなければいけない。走れ!エロス!ってこれは前回の日記だった。とにかく、セブンイレブンの前では内気で人見知りをするアユムちゃんがドキドキしながら待ってるに違いない。こういうサイトで出会うのって怖いよぅ、殺されちゃったりする事件もあるし怖いよぅ、でも……エイナルをペロリされたい。恐怖とエロへの好奇心を天秤にかけるアユムちゃんの姿がそこにあった。そんな彼女を待たせてはいけない。急いでいかなければならない。
もう、緊急避難でも通用するんじゃないかって状況ですので、アクセルをブリバリに踏みしめてスピードを出します。もうアクセルペダル取れるんじゃないのって勢いで待ち合わせ場所に向かいましたよ。
するとね、まあ、予想はしていましたけど待ち合わせ場所に女の子はいないんですよ。微妙に寂しい場所にあるコンビニだったんですけど、アユムちゃんと思わしき女の子がカケラも存在しないの。あーあ、また釣られちゃったよ、すぐに釣られるダボハゼみたいな性質をなんとかしなきゃいけないなーとガックリと肩を落として帰ろうとしたその瞬間ですよ。
なんかポッチャリとしたっていうかデブな男性、年の頃は30歳前後でしょうか、品の良いザンギエフみたいな顔した男性がセブンイレブン前に佇みながらソワソワして腕時計見たり携帯見たりしてるんです。オッサンが普通にセブンイレブンの前に立ってるの。
いやいやいや、そんなね、品の良いザンギエフみたいなデブって点は愉快ですけど、そういう人がいたって何らおかしくないじゃないですか。普通にコンビニですし、人がいるのは当たり前。特段興味を惹く存在ではないはずです。けれどもね、そのザンギエフ、普通にジーンズはいて白いトレーナー着てるの。うん、アユムちゃんが言ってた服装そのままなの。
まてまてまて、落ち着け、落ち着くんだ。どういうことか分からないけどとにかく落ち着くんだ。もう冷や汗とかドカドカ出てくるんですけど、落ち着いて店内に戻って頭の中を整理します。そして一つの悲劇的仮説が。
もしかして、お互いがメール相手を女だと勘違いしてないか?
メール履歴を見て受け取ったメール、送ったメールを確認してみます。ふむ、僕はすっかりアユムちゃんのことエッチに興味津々な女の子だと思ってたけど別に男が送ってきていてもおかしくない内容だ。逆にこっちが送ったメールも女の子が送ってきていてもおかしくない内容だ。こりゃあ、本気でお互いに勘違いしていた公算が高いぞ。
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名前 ネコ
ごめん、遅くなって今から家出るんだけど、どんな服装が好き?
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ここでジャブ的メールを送信。すると時間を置いてザンギエフの携帯が光りだします。やっぱこのオッサンがアユムだ。で、ピコピコと返信を打つザンギエフ。すぐに僕の携帯にメールが来ます。
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名前 アユム
ミニスカートが好き
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完全に勘違いしとる。
おいおい、男同士で身の毛のよだつエロ会話してたのかよーと腰が抜けるどころか砕ける思いをし、さすがにアユム君のエイナルを舐めるわけにはいかない、と落胆。たぶんアユム君はアユム君で舐められたくないと思う。
もう相手が男なら会うもクソもないじゃないですか、ここでサッと帰ってしまおうかと思ったのですが、去り際にチラッとアユム君の姿を見たら物凄いウキウキしてて楽しそうでしてね、ほっぺとかちょっと赤くなってんの、多分すげえ勢いで風呂とか入ってきたんだと思うよ。その姿を見ていたら心の奥底がギュッと締め付けられる思いがしましてね、
「あのーすいません……。メールのアユムさんですか……?」
って普通に話しかけてました。
アナルを舐めてくれる積極的なメール相手の女の子、おいおい最近の女の子は過激だなーって思っててやってきたのが31歳の野武士だった。そりゃもう、アユム君の方の落胆もとんでもないものでしてね、
「どういうことですか!男には興味ありません!」
みたいなこと汗かきながらいってました。こっちも興味ないわボケ。
普通なら逆上したアユム君に殺されかねないシチュエーションなのですが、何故だか意気投合し2人で近くの喫茶店に行って飯を食うことに。そこで色々と事情を聞くと、どうやらアユム君は間違って女性が男性を募集するコーナーに書き込みをしてしまったようでした。その顔で「エッチしか取り得ないけど」とかかわいらしく書き込みしてんじゃねえよカス。
「トントン拍子で話が進むんでおかしいと思ってました」
とはアユム君の弁。こっちもおかしいと思ってたわ。
だいたい、アユムなんて名前だから勘違いするんだ、いやいや、ネコって名前の方が極めて悪質、女の子だと信じて疑わなかった、みたいな会話をしていたところ、そもそも本当に出会い系サイトで女性に出会えるのかっていう話になったんです。
「一度だけ会えたことあるんですけど、すぐにヤクザみたいな男が出てきて4万円取られました」
とはアユムの弁。そりゃねーよアユム、いくらなんでも不憫すぎる。1度目が美人局で二度目に男がやってきたなんて可哀想で目も当てられない。
「こりゃあいっちょ女を召還するしかないな!」
2人で召還魔法でも唱えて召還できるならいいのですが、現実世界ってそう甘くないですから、なんとか携帯電話を駆使して女性と出会おうと努力する2人。目の前にはエビピラフが運ばれてきていたけど手をつけなかった。
僕とアユムが出会ってしまうキッカケとなったサイトにアクセスし、2人で片っ端からメッセージを送りまくります。こいうメッセージのほうがいいんじゃないか、いやいやこっちのほうが好感をもたれるはず、そんな議論をしながら女性が引っかかってくるのを神妙に待ちます。すると、僕の携帯のほうにメールが!
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名前 ユミ
いいよ!いますっごい暇だし
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もうメッセージ送りまくってて誰に何て送ったのか分からないんで何が「いいよ!」なのか分からないんですけどとにかくエロスな提案に対する快諾だと判断。アユムと2人で興奮しながら返事を書きます。もちろん、「女だよね」とキチンと確認もした。
「マジで来たらすげーな」
「ドキドキしてきた」
やっとこさエビピラフに手をつけ始めた2人。そこでアユムのヤロウがとんでもないことを言い出すのです。
「今回は勘違いがあったといえ、女性が来ると思っていた僕のところに君が来た。いわば僕は被害者だ。これから来る女性がかわいかったら僕が貰うよ」
テメーは頭の中にニューカレドニアでもつまってんのか。ガックリきたのはこっちも一緒だわ。ザンギエフみたいな顔しやがってからに。
「ちなみにブスだったら…?」
そう質問してゴクリと唾を飲むと
「君にあげる」
こんな自分勝手なヤツみたことねー。なんなんだコイツ。太りすぎて死んだらいいのに。
もう圧巻としか言いようのないアユムの自分勝手さに触れつつ、早く来ないかなと喫茶店に置かれていた古いジャンプなんかを読みながら待っておりました。あまりにも遅いのでやっぱりすっぽかされたか、そもそもそうそう出会い系サイトで会えるもんじゃないよな、と思いつつトイレに行くと、携帯に着信があったのです。
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名前 ユミ
ついたよー、店の前にいるよ
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これはチャンスだ。トイレのために席を立った僕。この場には僕しかいない。アユムに気付かれる前にやってきた女性を確認すべきではないか。恐る恐る入り口近くに行き、窓から女性の姿を確認します。
ありえねー。
ホラ、ブスとかいるじゃないですか。男の子ってどうしても「アイツブス」とかそう言葉にしちゃう困ったちゃんじゃないですか。でもね、それってあくまでも人間を前提としたブスでしょ。「アイツブス」の枕詞として「人類として」ってついてるんですよ。稀に「ゴリラブス」みたいなのもありますけど、それでも生き物としてブスってのが前提じゃないですか。
でも、店の前にいるのが、暗くて明確には分からないんですけど、それでも人間の、いや生き物としての範疇を軽々とK点越えしたブスなんですよ。言ったら、無機物としてのブス。椅子とかあるじゃないっすか。椅子にもいろいろあって、捨てるしかないボロ椅子とか新品の高級椅子とか、そんな価値観の中での椅子としてのブス、みたいなのがソワソワと店の前にたっとるんですよ。椅子ブスがたっとるんですよ。
さあ、迷いましたよ。なんかブスなだけならいいんですけど、明らかに性に関して貪欲そうなブスがゲルルルルルルルって感じで店の前にいる。このままでは二人まとめて相手してあげるとか言われて僕もアユムも死ぬより辛い思い出をプレゼントされるかもしれません。
「なんて禍々しきオーラだ」
店の小窓から覗いて震えるしかない僕。こんなブスみたことない。づするべきかどうするべきか。
そこでカルネアデスの板ですよ。このままいったら発奮した椅子ブスに僕もアユムもやられてしまう。二人ともやられるくらいならいっそのことアユムを陥れて僕1人でも助かったほうがいいに決まってる。危機による損失が回避行動による損失を上回った瞬間でした。
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名前 ネコ
店の中にいるからー。白いトレーナー着てジーンズはいてエビピラフ食べてる。早く来て!ちなみにアユムって名前だから!エイナル舐めちゃうぞ!
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って送ってレジでエビピラフ代だけ払って帰りました。帰り際に椅子ブスとすれ違ったんですけど、やっぱり椅子ブスだった。店の中にあった木製の椅子のほうがかわいかった。
悲しい選択だった。仕方ないとはいえ、アユム君という尊い犠牲を出すに至った。それでも誰も僕を責めることなどできやしない。それこそがカルネアデスの板なのだから。
本来のカルネアデスであるところの、助かるために人を殺す選択とはどういうものなのだろう。それは僕には分からない。けれども、きっと苦しい選択であるはずだし、罪に問われないとはいえその後も本人を苦しめるであろうことは容易に想像できる。
そういった選択をしなくていい平和な日常をありがたいと思いつつ、さらに今回の椅子ブスの擦り付け合いみたいに自分を誤魔化して納得するためにカルネアデスを使えることに感謝しなければならない。
さあ、家に帰ろう。今頃きっとアユム君は椅子ブスにエイナルを舐められている。僕も家に帰って自分のエイナルにウズラの卵を入れて満足しよう。