映画『黒いオルフェ』と「カーニバルの朝」
映画『黒いオルフェ』を初めて観たのは、学生の頃、ススキノにあった名画座でだったと記憶している。映像や音楽の美しさや異国情緒には魅かれたものの、主人公のオルフェやユリディスの運命の悲劇性とそれを形作るべきエピソードの情動性との関係がどうにもちぐはぐな感じがして、例えばフェリーニの『道』を見終わった後に感じたような深い余韻は残らなかった。
今回、『黒いオルフェ』について調べてみて、その理由がいくらかは分かったような気がした。
最初のヒントは、Wikipediaの記述にあった。
これによると、原作となった戯曲の作者ヴィニシウス・ヂ・モライスは、この映画の試写を観て「これは自分の作品ではない」と厳しく評した。また、歌手のカエターノ・ヴェローゾは、原作にあったブラジル社会やファヴェーラ(スラム街)の本質をこの映画は描いていないと批判したという。
この記述を手掛かりにして、原作と映画の関係について調べてみた。
ヴィニシウス・ヂ・モライスが原作戯曲に込めた意図は、ギリシャ神話の「オルフェウスとユリディス」の物語を、現代ブラジルのスラム街のアフリカ系住民の物語として語り直すことだった。つまり、そこに生きる人々の現実の生と死を、ヨーロッパ白人文化の根幹を成すギリシャ神話の悲劇に匹敵する強度と普遍性を持った悲劇として描き出すこと。…そのために、彼らの等身大の人間模様や生活、それらに根ざしたサンバの精神性とブラジル民衆の世界観を明確に描写する必要があった。ヴィニシウスが目指した「神話的悲劇」は、そのような表現無くしては支えきれないものだったに違いない。
しかし、映画『黒いオルフェ』では、フランス人監督の或る種植民地主義的な視線によって、スラム街の「生と死」が体の良いエキゾチズムによってファンタジー化されてしまった結果、「神話的悲劇の残骸」が逆に違和感の元になってしまったのではないだろうか。
一方で、皮肉な話だが、この映画のエキゾチズムが当時の世界での好意的評価の要因になり、その結果としてボサノヴァそしてブラジル音楽が広く世界に紹介される切っ掛けとなった。そして現在、誰もがこの映画の音楽を高く評価している。
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2005-08-04
"The Silver Collection"/ Astrud Gilberto
CD (Verve, 1990)
Astrud Gilberto (アストラッド・ジルベルト)の1stアルバム"The Astrud Gilberto Album"(「おいしい水」)(1965)と2ndアルバム"The Shadow of Your Smile"(「いそしぎ」)(1965)、そしてギル・エヴァンスのオーケストラとのコラボレーション3曲からなるコンピレーション・アルバム。
1~11曲目が「おいしい水」、13~22曲目が「「いそしぎ」、23~25曲目がギル・エヴァンス・オーケストラとの共演。なお、25曲目は3rdアルバム"Look to the Rainbow"からのカット。他の2曲はLPには収録されなかったがCD版の"Look to the Rainbow" (1990)には追加収録されている。
このCDを通して聴くと、1stと2ndではかなり印象が異なる。これらの曲がほぼ同時期に録音されているとはとても思えないほどだ。1stではかなり不安定な歌唱(というか既に音痴の領域)になっているのに対し、2ndでは多少は安心して聴ける出来になっている。どうも難しいアレンジでは伴奏についていけないようだ。そう考えると、ギル・エヴァンスの歌わせ方は絶妙と言える。
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「カーニヴァルの朝」/アストラッド・ジルベルト
アストラッド・ジルベルトの歌については、昔は結構聴いたが今では好みの順位はさほど高くない。「なんだよ、A. G.のCDはやたらと出ているくせに、マリア・クレウザは廃盤ばかりじゃねーか(怒)」と思う程だ。なのに、何故冒頭のCDを取り上げたのか? その理由は、この曲「カーニヴァルの朝」が収録されていることに尽きる。このCDには「イパネマの娘」が入っていないのでベスト版としてはどうかと思うが、個人的にはこの曲の方が優先順位が高い。
「黒いオルフェ」の別名でも知られるこの2分弱の短い曲。一本のギターの伴奏に寄り添われながら、彼女が甘い透明な声で呟くように歌う。この曲に限っては、これ以上の歌唱はもはや在り得ないとすら思われる。
微睡みから目覚めたばかりのけだるさと朝の気配、そしてロマンティシズム:
鳥たちが囀る声で、女は目を覚ます。
隣には寝息を立てて眠る男の横顔。
女は、そっとベッドを離れ窓辺に向かう。
外からは草の匂いと朝露の湿り気を運ぶ微風。
昨夜の熱の名残を肌に感じながら、女はそこに佇む。
白み始めた空の下で、
暑い夏の日の予感を秘めて眠るリオの街。
カーニヴァルの日が始まろうとしている。
YouTube:
Astrud Gilberto - "Manhã de Carnaval"
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誤解を避けるために付け加えておくと、アストラッド・ジルベルトのベストアルバムなどの音盤で聴ける曲は当然ながらしっかり魅力的に歌えている。もともと彼女はプロとしての訓練も経験もないまま、いきなりアルバム『ゲッツ/ジルベルト』(1964)のレコーディングで歌わされたのだが、このアルバムからシングルカットされた「イパネマの娘」が大ヒットしたため、急遽1stアルバムと2ndアルバムが制作されたものと考えられる。十分な準備をする余裕があったとは、とても考えられない。同じ頃、スタン・ゲッツ・カルテットと共演した『ゲッツ・オー・ゴー・ゴー』(1964)では普通にうまく歌えているので、上で書いたように伴奏のアレンジ次第だったということだろう。
ちなみに、映画『黒いオルフェ』のサウンドトラック盤では、エリゼッチ・カルドーゾ(Elizeth Cardoso)が歌った「カーニバルの朝」が収録されている。しかし、映画本編ではこの音源は使われなかった。リオの風景を俯瞰しながら流すと良さそうな歌唱なのだが。
YouTube:
Elizeth Cardoso - "Manha De Carnaval"
さて、今回の風景は、マリア・クレウザの記事と同じくイタリアの海岸リゾート





