『霊幻道士』(原題:殭屍先生、英題:Mr. Vampire)は、1985年に香港で製作・公開されたチャイニーズアクションホラーコメディ映画です。


日本では1986年4月26日に公開され、20万人を動員するほどの大ヒットとなりました。


時代は19世紀中期から20世紀初頭の中国。監督はリッキー・ラウ、製作は香港映画界の巨匠サモ・ハン・キンポーが手がけており、主演のラム・チェンインを筆頭にリッキー・ホイ、チン・シュウホウ、ムーン・リー、ポーリン・ウォンらが出演しています。


本作は、中国古来の妖怪「キョンシー(殭屍)」を主軸に据え、香港らしいカンフーアクション、ホラー、コミカルな演出が絶妙にミックス。


いわゆる「キョンシーホラー」の先駆けとなり、後続の『幽幻道士(キョンシーズ)』などを始めとしたキョンシー映画ブームの火付け役になりました。


富豪ヤンから父親の改葬を依頼された道士カオ(ラム・チェンイン)は、墓地を掘り起こしてみると、20年間も埋葬されていたにもかかわらず遺体が腐敗せず残っていることに気づく。


生前の怨念や風水的な埋葬の失敗から、死体は「キョンシー」へと変異しつつあったのだ。


当然、手順通り処置しようとするのですが、カオの弟子たちのドジで遺体は完全にキョンシー化、街中で大暴れを始めてしまいます。


キョンシー化した父親に襲われたヤンは殺され、カオは殺人容疑で逮捕される。


それでもカオと弟子たちはヤンの娘ティンティン(ムーン・リー)を守るため、キョンシー退治に奔走。


途中、弟子の一人がキョンシーの毒にやられたり、女幽霊に取り憑かれたりとドタバタ劇を繰り広げながら、最後は道士の必殺技やお札、もち米などのアイテムを駆使して壮絶な戦いを繰り広げます。



感想

本作について語るとき、まず一言で表すなら「ホラー・アクション・コメディがここまで斬新に融合された映画はなかなかない」ということ。


霊幻道士はキョンシー映画の金字塔と言われているけれど、それも納得です。


自分が初めて観たときは、キョンシーって何?と思いながらも、あのジャンプしながら移動する硬直した死体・キョンシーの姿にすぐ夢中になってしまいました。


ラム・チェンイン演じる道士の渋さと弟子たちのコミカルなやり取りが絶妙で、ホラーなのに笑える場面が多い。


緊張と緩和のバランスが絶妙なんですね。 


映画としてのアクションも香港映画らしくキレがあり、特にワイヤーアクションでキョンシーが宙を舞うシーンは、怖さよりも幻想的な演出に転化されている。


子供でも見やすいホラーというか、ガチの恐怖より純粋に面白さと驚きが勝るんです。


劇中、もち米でキョンシーの毒を治したり、お札ペタペタ貼ったり、魔除けのアイテムがユニークで、観ていて楽しい。


テンポの良さも群を抜いていて、キョンシー退治のアイデアが次々飛び出す感じ、今観ても笑えてワクワクします。


もちろん、展開が唐突だったり、お話の伏線回収が緩い部分もあります。


ヒロインのムーン・リーはとにかく可愛くて、彼女を狙う警官たちや、弟子の恋バナがちょっと脇道にそれる。


それでも話としてまとまりがあって、「色々盛り込みました!」という香港映画のパワフルさをしっかり感じます。


お化けが唐突に出てきて本編が停滞することもあるけれど、「まぁお化けと妖怪と道士のバトルだよね」と納得してしまうのも、香港映画ならではの自由さじゃないでしょうか。


何度観ても飽きない、とレビューでも書かれていましたが、自分も同感。


配役のバランス、アクションとコメディの盛り方、香港映画の独特な“雑多感”がすごくいい。


家族で何度も観てますが、子供たちも爆笑するし、大人も昔を思い出して懐かしくなる。


エピローグが唐突に終わるところも、逆に潔くて印象に残ります。 


ほかにも、時代背景とか風水の話、キョンシーの伝承など知っているとより楽しめる部分が多い。


中国妖怪映画の入門としても最適ですし、1980年代香港映画のエネルギーが画面からビシビシ伝わってきます。


以後のシリーズはコメディ要素やアクションがより強化されるものの、物語のまとまりやキャラクターの面白さではやっぱり初代『霊幻道士』が群を抜いている印象です。


2025年8月現在

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