1982年に公開された『ポルターガイスト』は、トビー・フーパー監督とスティーヴン・スピルバーグ製作によるSFXホラー映画として名作とされる一本です。


ストーリーは米国郊外の新興住宅地「クエスタ・ベルデ」に住むフリーリング一家の日常から始まります。


一家は平和な生活を送っていましたが、次女キャロル・アン(ヘザー・オルーク)が砂嵐のテレビ画面に向かって話しかけるという奇妙な出来事をきっかけに、家の中で不気味な現象が次々と発生し始めるのです。


現象はエスカレートし、キャロル・アンが霊的な存在に誘拐されてしまう事態に。


一家は超心理学の専門家や霊媒師タンジーナ(ゼルダ・ルビンスタイン)に助けを求め、彼女の導きでアンを異次元から救い出そうと奮闘します。


心霊現象の原因は、宅地を造成する際に墓石だけを移し、本来埋葬されていた遺体を残した結果、土地に眠る霊が怒り狂って騒霊現象(ポルターガイスト)を引き起こしていた、というものでした。


『ポルターガイスト』の魅力は、平凡な家族の日常がいきなり超常現象によって壊されていく展開や、家庭に潜む未知への恐怖がエンターテインメント性たっぷりに描かれている点です。


家庭の平和を脅かす恐怖を、誰もが共感できる部分に落とし込むことで、見る者にリアルな恐怖感を与えました。


登場人物や家族の絆を軸に物語が進むため、ホラーでありながらファンタジーやアドベンチャー的な側面もあり、単なる怖さだけでなく、最後には家族愛・絆のドラマとして余韻も残します。


特殊効果や美術、当時最先端のSFXもふんだんに使われた、80年代ホラーを代表する一作です。



感想

この映画、冒頭からテンポが秀逸なんですよね。


砂嵐のテレビと交信するキャロル・アンのシーンは一気に不気味さが押し寄せてきて「これは何か起こるぞ…」と身構えさせられます。


ここでしか味わえない80年代的な雰囲気、ブラウン管テレビから特有の不安感が立ち込めるのも、この映画ならではです。


そして、騒霊現象のオンパレード。


椅子が勝手に動きだしたり、家具が宙に浮くなど、もはや“隠れる気ゼロ”の霊たちが家の中で好き放題。


家族全員がアクション映画さながらに大騒ぎし、観ているこっちは怖さ半分、面白さ半分といった絶妙なバランスで物語に引き込まれます。


個人的に印象に残っているのは、霊媒師タンジーナの登場以降の、異次元との対峙シーンです。ロープを通して家族が娘を救い出すアイディアは、まるで“救出作戦”のようで息もつかせぬ展開。 


特殊効果も派手で、光や風、物が空間をぐちゃぐちゃにする描写は、80年代ハリウッドの技術の粋を感じさせてくれます。


とはいえ、怖さの質が現代のホラーと違うのも事実。今観ると多少コミカルに映る部分もあって、全力の騒霊現象が逆にポップにも感じられる。


特に異常現象が調査隊の目の前でド派手に起こるくだりは、リアルさよりも“見世物”としての面白みが強調されていて、「ホーンテッドマンション」みたいな空気すら漂います。


家族愛の描写がしっかりしている点も、この映画の良さ。


キャロル・アンの奪還に奮闘する父母の姿は微笑ましく、絶望の中でも「絶対に諦めない」という強い決意と絆が描かれます。


「平凡な一家」に起きる非日常ということで、どこか観客自身の不安や恐怖も擬似体験させられます。

もうひとつ、この映画が怖さだけじゃなく“倫理観”の問いかけも孕んでいるところに気付かされます。


墓地を宅地にした会社の非道、ペットの雑な埋葬など、個人や社会の普通が、霊たちにとっては大きな怒りの種だったのかもしれない。


何気ない日常の習慣が、実は見えない誰かを傷つけているのかもと、見終えたあと不意に自分に問い直すような感覚も味わえました。


ラストシーンで家ごとブラックホールに吸い込まれていくくだりは圧巻で、思わず「家が追いかけてくるって何!?」とツッコミたくなるほどの展開。


ここまで来ると、怖さとアトラクション感が混ざり合い、純粋に映画として楽しく、心に残る体験をくれます。


全体を通して、当時としては画期的なホラー映画であり、今なおエンタメ性と家族ドラマ、社会的なメッセージが多層的に絡み合う不朽の名作だなと感じました。


怖さに身構えつつも、どこか懐かしさや温かさも感じる不思議な一本です。


2025年8月現在

プライムビデオ、U-NEXT、Hulu、TSUTAYAディスカスにて配信中