『テリファー』(Terrifier)は2016年に公開されたアメリカのスプラッターホラー映画です。


監督はダミアン・レオーネ。主演はジェナ・カネル、サマンサ・スカフィディ、そして本作最大の特徴とも言える殺人鬼「アート・ザ・クラウン」をデヴィッド・ハワード・ソーントンが怪演しています。


物語の舞台はハロウィンの夜。若い女性タラとドーンは仮装パーティーを楽しんだ帰り、ダイナーで奇妙なピエロメイクの男(アート・ザ・クラウン)に出会います。


トイレでの騒動がきっかけで彼は店を追い出されるが、その後、車のタイヤがパンクしていることに気づくタラとドーン。


助けを呼ぶため近くの古いビルに入ると、そこでもアートの執拗な追跡が始まり、登場人物たちに次々と残虐な運命が襲いかかります。


この映画は過激なゴア描写が特徴であり、アート・ザ・クラウンによる殺戮が圧倒的なインパクトをもって描かれています。


彼の行動は巧妙かつ狂気に満ち、一切言葉を発しない不気味さが観る者を圧倒します。


アート・ザ・クラウンは、近年のホラー映画界において“悪のピエロ”の象徴としてポップカルチャーアイコンにまでなったキャラクターです。


もともと短編作品の背景キャラとして生まれ、観客の反応を基に長編化された経緯があります。


彼は常に無言でありながら、どこか茶目っ気やユーモアも漂う一挙手一投足が強烈な印象を残します。


「ぷんぷん怒る」、「無表情でキレ散らかす」、そして「自分の愉しみのためだけに狂気の殺戮を繰り返す」そんな異質な魅力も。


ホラー映画にありがちな殺人鬼とは一線を画し、不気味さだけでなく、どこか“可愛さ”すらあるキャラクター性は本作の肝となっています。


『テリファー』1作目の最大の特徴は、何と言ってもそのグロテスクさ――ゴア描写の“振り切りぶり”です。ホラー好きの間でも「全米が失神」「吐いた」と話題になるほどの過激さで、公式がSNSで注意喚起するほど。


その一方で、物語自体は必要最低限の筋のみ、殺人鬼が犠牲者を追い詰めるスラッシャーホラーの王道を貫いています。


殺し方のバリエーションも豊富で、特に有名なのは女性を逆さ吊りにしてノコギリで真っ二つにする“ギコギコ”シーン。


観る者が痛みを想像せざるを得ないリアリティと、趣味の悪さが散りばめられています。


演出面では、閉鎖的空間を舞台にした緊張感の持続、サイレントなアート・ザ・クラウンによる異様な不気味さが全編を支配します。



感想

『テリファー』1作目、とりあえず言いたいのは「これ、普通のホラーと思って観ると軽く後悔するかもしれない」です。


正直、ストーリー的な“深さ”はほぼありません。


この手の映画ならではの“どう逃げるか・どんな風に殺されるか”の展開が続きますが、その分、アート・ザ・クラウンというキャラクターの存在感がひたすら際立っています。


なんだろう、静かにずっとこっちを見てくる不気味さ。普通なら「ピエロ=陽気」みたいなイメージがあるけど、彼の場合はその逆。


不気味さの向こう側に、独特な愛嬌が滲むというか……。言葉を発しない分、仕草や目線、動きで見せる表現力が巧み。


首を傾げたり、ちょっとしたコミカルな動作を挿んだり、でも次の瞬間には容赦ない暴力を振るう。


観ている側は、常に「この人間じゃない“何か”に何をされるのか分からない」不安を味わうことになります。


ゴア描写は、もう容赦なし。「これはさすがにやり過ぎでしょ」と思わせる場面の連続。


物理的な痛みを想像させるリアルな演出に加えて、「被害者の絶望を堂々と見せる」趣味の悪さが、逆に作品全体に“美学”を感じさせるのも不思議です。


面白いのは、アート・ザ・クラウンの殺し方が“職人気質”かと思えば、面倒になるといきなり銃を使ったり、かなり雑になったりするところ。


定番ホラーによくある「絶対斬新な殺し方をしなきゃ」みたいな縛りから自由になったような、制作者の遊び心も感じられます。


閉鎖空間の使い方も秀逸で、ビルという逃げ場のない舞台で延々と追い詰める展開は、観ているこちらも緊張感を維持したまま油断できません。


静と動の緩急、そして追い詰め方のバリエーション。その“逃げ切れなさ”が本作のスリルを最大限に高めています。


ホラー好きな人で「ゴア重視」の方は間違いなく楽しめるでしょう。


その一方で、ストーリー性やキャラクターの深堀り、心情描写などを期待するなら少し物足りなさを感じるかもしれません。


でも、それこそが『テリファー』の持つ潔さで、「この作品はこういうジャンルですよ」と全力で提示してくる。その思い切りの良さが、観る者の記憶に残る理由です。


アート・ザ・クラウンの魅力は言葉にしにくいんですが、「ただの悪役じゃなく、ちょっと可愛さすらある殺人鬼」っていう“絶妙なバランス”が、カルト的な人気へと繋がっている気がします。


彼がこの先、ホラー映画史にどんな爪痕を残すのか――もしかしたら“ピエロ恐怖症”を加速させた主犯格になるかもしれません。


とても推しやすい映画ではありませんが、観て損はないスプラッターホラー。


ショックだけじゃなく、どこかエンタメ性も感じる異端の一作。


ホラー初心者にはおすすめしにくいですが、刺激が欲しい方はぜひ挑戦してみてください。


2025年8月現在

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