映画『ポセイドン』は、2006年に公開されたアメリカのディザスタームービーです。
1972年の映画『ポセイドン・アドベンチャー』を現代風にリメイクした作品であり、豪華客船ポセイドン号が沈没する過程と、その極限状態の中で生存をかけて行動する人々の姿を描いています。
監督は「パーフェクト・ストーム」で知られるウォルフガング・ペーターゼン。特撮技術を駆使した水中シーンや大掛かりなセットは当時話題となり、ハリウッドならではのスケール感を存分に味わえる一作です。
豪華客船ポセイドン号は、大晦日の夜、パーティを楽しむ乗客たちでにぎわっていました。
しかし、突如として襲いかかる巨大な“ローグ・ウェーブ”(異常に高い波)によって船は転覆。数千人の乗客が一瞬で混乱と恐怖に飲み込まれます。船は天井と床が逆転した異様な空間と化し、生存者の多くは救助を待とうとしますが、そのままでは確実に沈没に巻き込まれる運命です。
そんな中、元消防士ディラン(ジョシュ・ルーカス)、母親エマ(ジャシンダ・バレット)、彼女の息子コナー、ニューヨーク市長を務める男ロバート(カート・ラッセル)、クラブ歌手のエレナ、そして乗客の一人で人生に絶望していた男リチャード・ネルソン(リチャード・ドレイファス)らは決断を迫られます。
彼らは沈みゆく船内を脱出し、生き延びるために「上を目指す」という選択をするのです。
そこから彼らのサバイバルが始まります。天井が床となった異様な空間、水で満たされていく狭い通路、次々に行く手を阻む危険。決断と犠牲、そして仲間との信頼が物語を左右していきます。
本作の最大の見どころは、やはりその圧倒的な映像表現です。2000年代半ばにおいて最新鋭のCG技術と巨大セットを融合させ、観客を「沈没する船の中」に放り込むような臨場感を実現しました。
転覆直後のメインホールの混乱シーン、逆さになったラウンジや廊下、水圧でガラスが破壊されていく瞬間などは迫力満点。ディザスター映画に求められる「映像の衝撃」はしっかりと満たされています。
また、群像劇としての面白さもあります。極限下で人間の性格や価値観がむき出しになる中、誰がリーダーシップをとるのか、誰が仲間を支えるのか、誰が利己的な判断を下してしまうのか。こうした人間ドラマは1972年版から受け継がれる本作の根幹です。
オリジナル版と比べれば人間描写がやや淡白だと指摘されることもありますが、それでも命のやり取りの中で小さな人間性がにじむ瞬間には観客を惹きつける力があります。
感想
この映画を初めて観たとき、映像的な迫力にはやはり圧倒されました。
観客に「この先どうなるのか」と息を呑ませる仕掛けが随所にあり、2時間弱があっという間に過ぎてしまいます。特に水没が迫る狭い通路を泳がざるを得ない場面などは、自分まで息苦しくなりそうでした。
ディザスター映画としての「体感型エンターテインメント」という点では、相当に楽しめる作品だと思います。
一方で、物語の厚みに関しては少し物足りなさを感じる部分もありました。群像劇と言いながらも登場人物それぞれの背景が深く描かれているわけではなく、ドラマ性よりも状況そのもののスリルに軸を置いている印象です。
オリジナル版『ポセイドン・アドベンチャー』が信仰や家族愛といったテーマ性をより強調していたのに比べると、本作は現代的なテンポのよさを優先しているように思いました。
そうした潔さは長所でもありますが、人物への感情移入を求める観客にはやや物足りなく映るかもしれません。
ただ、群像劇における「誰が生き残り、誰が犠牲になるのか」という緊張感はやはり見応えがありました。特に最後の方で、仲間を救うために命を賭ける人物の行動は胸を打ちます。
ディザスター映画は単なるパニックを描くだけでなく、「人間の本能や愛情が危機にどう反応するか」を映すジャンルだと思うので、その要素がしっかり盛り込まれていた点には作品の骨太さを感じました。
また、『ポセイドン』は2000年代前半のハリウッドらしい「豪華な見せ場の連続で観客を引っ張る」作り方が際立っています。
近年のリアル志向や暗いトーンのディザスター映画とは違い、あえて王道のエンターテインメントとして仕上げている点が個人的には心地よかったです。
大作映画を映画館で味わう醍醐味を思い出させてくれるタイプの作品であり、その派手さやスケール感を素直に楽しむのが正解だと思います。