『テリファー0』(原題:All Hallows’ Eve)は、ダミアン・レオーネが監督・脚本を手掛けた2013年製作のアメリカ発ホラーアンソロジー映画です。
後にカルト的な人気を誇る「テリファー」シリーズの原点として位置づけられ、殺人ピエロ「アート・ザ・クラウン」が初めて本格的に登場する作品となっています。
「0」というナンバリングは、本作がシリーズのエピソードゼロ――すなわち“発火点”であることを表しており、後の『テリファー』(2016)のインパクトの源流を味わえる一本です。
物語の舞台はハロウィンの夜。ベビーシッターのサラが2人の兄妹と共に留守番中、お菓子の袋から謎めいた古びたVHSテープを発見するところから物語は始まります。
兄妹の好奇心に押されてしぶしぶテープを再生したサラですが、映し出されるのは凄惨極まる3つの恐怖短編。
それぞれの話には共通して不気味なピエロ(アート・ザ・クラウン)が現れ、残虐な事件を引き起こします。テープを見終えた頃、家の中でも異変が連鎖し、現実と映像が曖昧になっていく――静かに、しかし確実に恐怖に蝕まれていくサラたちの運命に何が待ち受けているのか……。
アート・ザ・クラウンは無言・無表情で、人間離れした残虐性を持つピエロ。
言葉を発さない分、無表情ゆえの不気味さと視線に込められた恐怖が印象的です。
観る者は、「次はお前だ」と暗に告げられているような錯覚に陥ります。
映画はオムニバス形式の短編3本+現実パートで構成され、それぞれの短編ではさまざまな悪夢的な状況、しばしばグロテスクで予測不能な展開を見せていきます。
上映時間は約82分、R18+指定のバイオレンス・ホラー。シリーズ最新作(『テリファー 聖夜の悪夢』)公開時には、本作も初の劇場上映が行われ話題となりました。
感想
なかなかクセのある作品です。ホラー好きの中でも、この「テリファー」シリーズが好きな人は必ず原点であるこの“0”を押さえておくべき。ですが、シリーズ未見の人や、あまりホラーに耐性がない人は注意が必要かもしれません。
グロ描写や不条理な展開、理屈で片付けられない悪夢的な雰囲気が色濃く漂っています。
ただし、本作は後の「テリファー」よりゴアは少なめ。
その分、じわじわと忍び寄る恐怖、何が起きるかわからない不安感が強調されている印象です。
印象的だったのは、VHSテープを媒介する物語構造。
ホラーアンソロジーの形式(短編3本+現実パート)は、観客に“何が起きてもおかしくない”不安定さを与えてくれます。
しかも、そのテープ自体がどことなくチープなのに、だんだん現実とリンクし始めていく感覚――たとえば、登場人物の視点が“画質が荒れる”などの演出により、世界の境界が曖昧になっていくのが面白い。現実パートとテープ内の物語がシームレスに繋がり、不気味さを増していく構造は、一種のメタホラーとも言えるでしょう。
各エピソードも個性豊か。例えば、1作目はやや唐突な宇宙人パニック、2作目はかなりヘンテコな展開で正直「何だこれ」と思う部分もありましたが、どこかB級テイストで妙にクセになる。
ですが正直、2話目はいささか退屈、という意見もあるほど。
テリファーらしい要素、つまりアート・ザ・クラウンの圧倒的な狂気が爆発するのはむしろ3話目、そして現実パートです。
この辺から、シリーズファンが「これぞテリファー!」と叫びたくなるあの空気がしっかり立ち上がります。「アートさん、相変わらず無敵だな……」という絶望感もばっちり生きています。
アート・ザ・クラウンが何者なのか、動機は何なのか、一切明かされないまま、ただ無差別に人を傷つけていく。
そのひたすら無表情で不気味な佇まい、悪夢から抜け出せないような終末感があります。
そう、怖いのは何を考えているかまったくわからない。心の底から愉快そうに、人を殺めていく、でも理由なんてないのかもしれない。
言葉を発することすらないから、余計に不気味です。笑顔の仮面をかぶっているはずが、こんなにも冷たい。次は誰が犠牲になるのかと手が震えながら見守ることになります。
肝心のグロ描写については、シリーズ未見だと「もっとえげつないのが来るのかな?」と身構えるかもしれませんが、実際は後の作品より控えめ。
ただし、血みどろ演出やショッキングな場面は当然出てきます。
そして、蝋人形みたいな生首の造形など、チープさが逆に生々しさを引き立てている面もあります。
低予算ゆえのB級感、チープさ、それでいて終盤に向けてどんどん盛り上がる狂気のテンション。
観ている側もノリで楽しめる部分が少なくありません。
ラストにかけて、「救いのない投げっぱなしオチ」という指摘通り、何も解決せず、どんでん返しもない。
むしろ観客は余韻でゾッとさせられたまま終了。
「え、もう終わり?」と一瞬拍子抜けするけれど、その虚無感含めて“まともじゃない”世界観への没入感がたっぷり味わえます。怖いのは怪物ではなく「ここから日常に戻れるのか?」と感じる自分自身かもしれません。
同シリーズの後発作品(「テリファー2」など)に比べると、全体的なパワーは控えめ。
古びたVHS、ベビーシッターというお約束、アート・ザ・クラウンの神出鬼没ぶり――ホラー映画の“様式美”をきちんと押さえつつ、グロテスクな遊び心、B級特有のゆるさもご愛敬。
不気味だけど笑えてしまうシーンや、ピエロの無理矢理な侵入(例えば土中からの登場!)など、ツッコミどころ満載です。
もちろん冷静に観れば、雑な演出やパワーダウンした点も散見されます。
だが、こうした“低予算ホラーの力技”を楽しめるのも、テリファー0ならでは。
「物語の構造や演出は突っ込みどころ満載なのに、シリーズへの期待感が逆に高まる」――そんな作品です。
総じて、テリファーという伝説の始まりを知りたい人、異色ピエロに恐怖と笑いの入り交じる夜を体験したい人にはイチオシです。
2025年8月現在
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