「深海からの物体X」は、海洋ホラー映画で、1994年にイタリアで制作された作品です。


監督はアル・パッセリ。SF大作というよりは、低予算モンスター/B級ホラー寄りのジャンルに属します。  


物語の舞台は、フロリダ沖。主人公マイクを含む5人の男女が海上でボートを楽しんでいるところから始まります。やがて嵐に見舞われ、漂流状態に。そこへ偶然、一隻の船舶と遭遇します。


この船に乗り込んでみると、船内は異様な静けさに包まれており、乗組員はおらず、不気味な魚(あるいは深海生物)の標本や冷凍保存された実験室らしき設備が見つかります。  


探検が進むうちに、怪物との遭遇が始まり、状況はどんどん悪化。夜、恐怖がじわじわと襲ってきて、メンバーの間に不安や疑念が生じていきます。  


やがて「なぜこんなものがこの船に」「どうやって対抗するか」という非常手段を講じるしかなくなる、という展開です。  


典型的な海洋モンスターもののフォーマットを踏まえており、沈んだ船、孤立した環境、見えない恐怖、そして怪異の発生と脱出不能の雰囲気が要素として揃っています。


邦題からも分かるように、「遊星からの物体X(The Thing)」とのタイトルの類似を指摘する意見もありますが、内容・原題ともに直接の関係はありません。  


演技や脚本、特殊効果などにおいては「本格派」には遠く、どちらかと言えば粗が目立つ作りで、そういう点を含めて評価が分かれる作品です。  


感想

この映画を観て思ったことを、少し抑えめに、でも率直に。


まず、「設定」のポテンシャルは悪くない。


深海+漂流船+謎の生物という組み合わせは、人を鷲づかみにするホラーSF感がある。  


「何が起こるか分からない」不安感や、見えない敵が影のように迫ってくるという怖さはある程度成功していると思います。


ただ、その分「作り」の部分で惜しいところが多い。例えば演技。主演たちの演技力は決して高くない。セリフの言い回し、表情、リアクションなどが不自然だったり、緊張感を持たせるシーンでどうにも浮いてしまう瞬間がある。 


観客として、「ここは本当に怖がっているのか? それともただセリフを言っているだけか?」と感じてしまうことも何度かありました。


また、脚本の整合性という点でも穴がある。登場人物の動機付けや行動が唐突だったり、「そんなことするか?」と思わせる選択をすることがあり、そういう部分で没入感が削がれてしまう。


「怪物が襲ってくるから逃げよう」「どうにか対策を講じよう」という方向は分かるけれど、細かいところで「なぜそのルートを選ぶのか」とか、「なぜこのタイミングでその発言をするのか」が曖昧で、不自然な流れになるシーンもありました。


特殊効果、怪物デザインも評価が分かれる。低予算ゆえにリアルさや質感は限られていて、「本当に怖いモンスター」というより「見た目の奇妙さ」と「不気味さ」で勝負している印象。CG/特殊メイクのクオリティが高くはないので、リアルさを期待する人には物足りない部分が確実にある。


でも、一方でそういうチープさが逆に「B級ホラー」の味、と受け入れられる側面も少なからずあると思う。


ラストの展開も、「あ、こう来るか」という予想の域をあまり出ない部分がありつつも、モンスターとの対決・犠牲の悲壮感といった要素は十分に含まれていて、完全に飽きさせない。


終わり方も投げっぱなしではあるけれど、B級映画としての“悪くない終着点”という感じ。 


観終わったあと、「もっとこうならよかったのに」と思うところが多くても、「この映画ならこれで精一杯かな」という納得もできる範囲です。


この映画は「恐怖」「モンスター」「漂流する閉鎖感」などホラーSFの王道モチーフが好きな人には、一見の価値あり。


ただし、映画を芸術作品として、あるいは緻密な作品構造を求める人には不十分な出来。


楽しみ方としては、「ツッコミどころを楽しむ」「チープさを逆手に取る」「期待値を低めに設定して観る」ことが肝ですね。


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