こんにちは、M&A会計士の澤村です。
前回、のれん償却年数は投資回収期間でというお話をしたかと思いますが、この回収期間に非常に大きな影響を与える事項があります。それは、
のれん償却が、税務上損金になるか?
です。
のれん償却が税務上損金になれば、その分税金による社外流出が減るわけですから、手元に残るお金は増えるわけで、当然投資回収も早くなります。
結論から言うと、税務上損金になるかどうかは、M&Aの手法次第です。
具体的に言えば、事業譲渡や非適格組織再編の場合は、損金算入できるが、それ以外の方法、例えば株式譲渡によるM&Aでは損金算入できません。
組織再編行為(合併や、株式交換、会社分割等)の税制適格云々の議論をすると非常に長くなっちゃうので、省略し、事業譲渡と株式譲渡に限定して説明します。
買い手単体でみた場合の買収の仕訳は、株式譲渡の場合は、支払った対価の額だけ現預金等が減少して子会社株式が認識されるだけなのに対して、事業譲渡の場合は支払った対価の額だけ現預金等が減少したうえで、買収した資産・負債の増加を認識するとともに、純資産(資産-負債)と支払った対価との差額である「のれん」も買い手で直接認識することになります。
買い手単体で直接認識している「のれん」は、税務上5年で損金算入が認められているため、事業譲渡ではのれんの損金算入が可能です。
一方、株式譲渡の場合は、単体ではあくまで子会社株式を持っているだけでのれんの認識はありません。あくまで、のれんが認識されるのは連結上のみです。税務は基本的に単体で計算するので、連結上ののれん償却は、算入されません。
このことは、投資回収期間のみならず、のれん負けの計算にも大きく影響します。
たとえば、営業利益5億円、当期利益3億円、資産負債ゼロの事業または会社を25億円で買収(すなわちのれん25億円)したケースで考えてみましょう。
のれんの償却を5年、実効税率40%として、株式譲渡の場合と事業譲渡の場合を比較してみましょう。
のれん25億円を5年で償却するのですから、年間5億円の償却費となります。この償却費は営業費用として処理されるところまでは、株式譲渡も事業譲渡も同じです。つまり、取得した営業利益5億円-のれん償却5億円=ゼロとなり、M&Aの連結営業利益へのインパクトはゼロです。
これが当期利益ベース、すなわち税引後ベースだとどうなるでしょう?
事業譲渡の場合、のれん償却の損金算入が認められるので、実効税率40%だとすると、5億円×40%=2億円の節税効果となります。なので、取得した当期利益3億円-のれん償却5億円+のれん償却税効果2億円=ゼロとなり、M&Aの当期利益へのインパクトはゼロで済みます。回収期間は、当期利益が丸々キャッシュインフローと仮定すると、のれん償却自体はキャッシュアウトがないので、25億円÷(取得した当期利益3億円+のれん節税効果2億円)=5年となります。
ところが、株式譲渡の場合、のれん償却の損金算入が認められません。なので、取得した当期利益3億円-のれん償却5億円=△2億円となり、完全にのれん負けしちゃいます。回収期間も25億円÷取得した当期利益3億円=8.33年とのれんの節税効果がない分長期化します。
このように、のれん償却が税務上損金算入できるかは、連結後の当期利益や投資回収期間の計算に大きく影響する要因になります。