こんにちは、M&A会計士の澤村です。


icf問題の続きで、論点①いい加減なバリュエーションだったのか?の続き、評価手法の問題です。


今回の事件、大阪第一企画側の評価は、DCFオンリー、icf側の評価は市場株価オンリーとなっていました。


icf側が市場株価オンリーというのは、上場会社であり、かつ、株式交換対象との規模の差などを考えると、別に異常なものではないと思われますが、大阪第一企画側でDCFオンリーというのは、議論のあるところだと思います。


報道では


「実際には、債務超過の会社なのに八億の評価をつけた」


と書いていますが、別に債務超過であったことは開示上隠してはおらず、株式交換までに増資を行って債務超過を解消するとの記載があります。


その後の報道によると、増資のほうに見せ金の疑いがあるとの疑惑が浮上しているようですが、その点は別として、債務超過の会社を八億の評価をつけることが問題なのか?という点について


確かに、


非上場会社の株式の評価を時価純資産法しか認めない


とかいうのが、常識であれば問題かもしれませんが、このブログで何度か書いているように、最近はDCFやEBITDAなどが主流で、時価純資産はむしろマイナーというのが投資銀行が扱うクラスの案件では常識です。ただ、DCF一本でやるのは、DCFに主観が入り込む余地が強いので、EBITDAやPERで補完するというのが通常です。


時価純資産はみなくていいのかというと、投資銀行なら「清算価値なんかみない」っていうスタンスでしょうが、会計士あがりの私としては、まだそこまで言い切れるかとうと少し弱い。


非上場会社で会っても、ある程度の規模があって、所有と経営が完全に分離しているような会社であれば、将来の収益性だけ見ればいいだろうとは思うのですが、オーナー経営者がやっているような中小企業の場合は


M&A=オーナー経営陣の退任=会社には資産負債しか残らず、利益は新経営陣の力量しだい


という状況になることが多いため、買い手にとってはM&Aはその会社が生み出す将来収益を獲得するためというよりも、その会社が持っている現在の設備や取引関係を獲得するという意味合いが強く、時価純資産に意味があるという場合も多いわけです。

利益を見るとしても、よっぽど儲かっている場合は、慣性の法則がある程度働くと考えられる数年程度分を「のれん」として加算するという方法です。


今回のケースは、その辺の個別事情がよくわからない状況なのですが、ディール規模からすると、時価純資産を無視するのはちょっとつらいのではないかなとは思います。


結論からいうと、評価手法の選択という意味では、この事件でのDCF一本でのバリュエーションというのは、少なくともマルチプルでの補完を行っていないという点で、推奨できるものではないと思います。


このあたりは、投資銀行系の方からのご意見を欲しいところです。