16年間連れ添った愛犬とのお別れの日がやってきた。
僕の高校受験のストレス解消にと中学二年の夏、我が家にやってきた。
黒柴と洋犬の雑種で、顔は真っ黒、尻尾は茶色のふさふさ毛が特徴だった。
正直なところ、面倒はほとんどおふくろが看ていたのだけれど、いつも僕のこ
とを一番に慕ってくれていた。そうまるで弟のように。
近所のおばさま方にはすごぶる愛想が良く、たとえ苦手意識があろうとも
かならず顔を足元にこすらせて挨拶をしていた。
散歩中に出会う若い女性には、これでもかというほどお腹を見せてなでなで
をせがんでいた。
笑顔で近寄ってくる男性には・・・
性格も好みも飼い主と似るというのは本当に愉快で、一緒にいるだけで気持
ちが安らいだ。
高校、大学と進学するにつれ一緒に遊ぶ機会も少なくなった。
就職してからはもしかしたら目の前にいるのにほとんど目に入っていなかった
かも知れない。
思い返せばひと月に一度、半年に一度、頭を撫でてあげるのが精一杯だった。
「もう長くないかも知れない」
おふくろにそう伝えられたときも、何となく実感がわかず仕事に追われる日々に
身を任せていた。
夏が過ぎ、秋の気配が近づきつつある9月半ば。
仕事も落ち着きようやく正気を取り戻した頃、久しぶりに弟の頭を撫でると、すでに
骨と皮だけの死期が間近に迫った怖れを感じた。
ようやくその状況に気がついたときには時すでに遅く、芝生のある土手のふもと
の公園に連れて行っても、もう一歩も歩くことすらできなくなっていた。
亡くなる2日前、だいぶ前に逝ってしまったおやじの仏壇に手を合わせた。
「そっち行ったらよろしくたのむよ」
その日も都内の撮影へと向かうバイパスを運転しているところだった。
おふくろのすすり泣く声、「逝っちゃった・・・」。
「ありがとう」
涙は流さないよ。感謝の気持ちでいっぱいだから。