孤島の鬼 |  へんくつマッキーの日向ぼっこ

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 偏屈オヤジが映画・小説・マンガ等について、
 独断と偏見に満ちた戯言を綴っていきます。
 暇つぶしになれば幸いです。

(創元推理文庫「孤島の鬼」より)

 

 私、25歳の箕浦金之助は、同僚の木崎初代と恋に落ちた。初代の語る身の上話では、自分は拾い子であり実の両親は知れないこと、幼少の頃赤ん坊の世話をしていたこと、その時に見た海の風景をスケッチの場所が生まれ故郷のであるらしいことを伝えてきた。そして婚約の証として、彼女が拾われたときに持っていた系図帳を私に贈ってくれた。そこには彼女の本名であろう「樋口」という姓が記されていた。

 

 婚約から間もなく、2人の前に諸戸道雄が現れる。諸戸は私の6つ上の友人であるが、かねてより私に同性愛的な愛情を寄せていた。その彼が初代の求婚者とて現れ、彼女の母親に取り入っているのだ。私はいぶかしく思う。諸戸は私を愛するあまり、彼にとっての恋敵である初代を私から遠ざける為に求婚しているのではないか・・・。

 

 その初代が怯えた様子を見せだした。三度も気味の悪いせむしの怪老人を見た、というのだ。怖がる彼女に、思い過ごしだ、と諭す私。だが本当に彼女の身に恐ろしいことが起きてしまう。密室状態の自宅で寝ている間に、胸を刺されて殺害されたのである。突然、愛する人を奪われた私は、彼女の復讐を誓うのであった。

 

 私には深山木幸吉という探偵まがいのことを生業としている友人がいる。深山木に初代殺しの犯人探しを依頼すると、早速、探偵が始まった。その結果、初代の家の隣にある古道具屋の店頭にあった2つの七宝花瓶が関係していることが判明する。そのうちの一つは事件前日に予約が入り、事件当日に引き取られている。また深山木は、初代の系図帳とスケツチを頼りに独自の調査を行い、何か手がかりをつかんでいるらしい。ところがその深山木が、人の溢れる海水浴場で殺害されてしまった。4人の子供たちと遊んでいる間に、胸を刺し抜かれてしまったのだ。

 

 一連の事件の中で、ちらほら姿を見せる諸戸。諸戸が事件に関係していると疑った私は、彼の元を訪ねることにした。私が諸戸の家に向かう途中、前を歩くせむしの怪老人に気がつく。初代の言っていた老人は、本当に存在していたのだ。しかも、その怪老人は諸戸の家の前で消えてしまった。不思議に思いながらも諸戸の応接に通された私は、そこに七宝花瓶を見つける。あの古道具屋で売っていた花瓶の一つである。そして、諸戸の家には曲芸団の少年が招かれていた。

 

 諸戸は彼なりに初代殺しを調べていた。そして初代と深山木殺害の犯人がこの曲芸団の少年であることを突き止めていた。少年は隣の古道具屋の床下から潜り初代の家に侵入し殺害、その後、再び古道具屋に戻り七宝花瓶に隠れていたのだ。そして花瓶の買主は、少年が隠れたまま花瓶を引き取って行ったのだ。また深山木は、海水浴場で遊ぶ子供達に紛れた少年によって刺殺されたのである。2つの事件は解決したが、肝心の少年は窓越しに銃殺されてしまう。

 

 手がかりがなくなったようであったが、深山木が隠していた初代の系図帳と雑記帳を発見する。諸戸が調べてみると系図帳には暗号らしきものが記載されている。そして雑記帳には、双生児の女の子の手記があった。その内容を読んだ諸戸は、そこに書かれている風景が自分が育った和歌山南端の島と一致するというのだ。実は諸戸は奇怪なせむし夫婦に育てられており、外科的技術の習得のため上京していたこと、初代に求婚していたのはせむしの父親の命令であったことを告白する。初代が見たせむしの怪老人は彼の父親であり、曲芸団の少年を操り、射殺したのではないか。全ての秘密は彼の育った島にある。諸戸と二人、島に渡った私は、そこで一夜で髪の毛が真っ白になる恐怖を味わうことになる。

 

 

 

 2件の殺人事件は物語の前半で解決し、双生児の手記を挟んで後半は孤島での冒険譚となる。暗号あり、洞窟探検あり、乱歩のサービス精神が伺えるが、やはり本作では同性愛的描写と人工奇形児のおぞましさが際立っている。筒井康隆や中井英夫などが高い評価を与えているが、個人的にはついていけない感が漂ってる。

 

☆☆・・・人生の1ページ これも経験