
そして、我々が訪れた十一月には十二~十五メートルの巨木ジャカランダが紫色の細長いベル型の花をつけ、町中が紫の霞がかかったようにジャカランダの色と香りに満ちていた。十月から十一月にかけてはナイロビの町が最も美しい季節なのである。日本の花見のように公園にはたくさんの人が溢れ、芝生の上に横になって懐に手を入れ居眠りしている者もいる。
「やっぱりどこの国の人でも、男はオチンチンのところに手を入れて寝ます。そうすると安心します」
鶴さんの観察眼には独特なものがある。
仕事、私事に関わらず、海外の町を訪れたら、必ず、まず初めに市場を訪れることにしている。庶民の生活を知るには市場に行くのがいいのだ。
人と車でごった返すケニアの首都ナイロビの中心部に横たわる体育館のような建物「シティマーケット」は喧騒で溢れていた。彩り豊かな花や野菜に囲まれたナイロビの市場に漂う庶民の生活観。内外にひしめく五十以上の店で手に入らないものはない。ヴィクトリア湖やインド洋産の新鮮な魚、野菜、果実などの生鮮食料品から、花、土産物まで何でも揃うという。
「ジャンボ!NO高い!ノー高い!」
「ジャンボじゃないって!」
大林素子はこの「ジャンボ!(こんにちは!)」という挨拶が、嫌で嫌でたまらないらしい。子供の頃に「ジャンボ」という「あだ名」で呼ばれていたことや、大きすぎるが故の幼い頃の劣等感を思い起こさせるのだ。それにしても、「安いよ」「高くないよ」じゃなくて、何故「ノー高い」なのだろう?
市場の裏手に廻ると、屋台料理のようなもので溢れていた。主食のトウモロコシの粉をこねた「ウガリ」。肉じゃがのような味付けの「カランガ」。野菜のスープ「スクマウィキ」。白濁酒「チブク」。焼き芋のような「キャッサバ」。ケニア風焼肉「ニャマチョマ」。そしてヤギの頭を煮込んだ「???」ものまで。
「ゴメン!許して~」
撮影とはいえ、この決して衛生的であるとはいえない状況では、インド同様、貧弱な胃腸と軟弱な環境で育ってきた我々には手強すぎるのだ。(つづく)

