
湯村温泉に住む友人の岩のようにゴツゴツした男からときおり電話がかかってくる。
どういうわけかたいていひどく忙しい時だ。ロケの本番中や、飛行機に乗る直前、翌日の本番の濃密な打ち合わせの最中、とにかくバタバタしているときにきまって朝野家の専務から山陰地方独特のまったりとした電話がかかってくる。
「あの~、師匠~」
私はこの男を弟子にした覚えなど全くない。
「お忙しいとは思うんですけど、お願い事って言うか~、日本海新聞にウチが持っている欄がありまして、あの~、いつも芸能人とかと旅をしてるでしょう~、タレントさんの裏話とか~、面白い旅のエピソードとか~、そんなのを書いてもらったらいいかなと~。お忙しいでしょうから~、月に一回ぐらいでもいいですから~、スンマセン師匠~」
良く分からん話ではあったが、たしかに、この6年間に渡って、実際、毎週、毎週、番組の撮影のためあっちこっちに旅をしている。ネタはあるし、まあよい機会ではある。
「そのかわり、特大の松葉がにを、大至急、宅急便で送るように」
この男の口車に乗って、騙されてみるのも面白いかもしれない。
年に二回の海外ロケ。自分が自分に課したノルマなのであるが、ここのところ達成にはほど遠い。
昨年春に放送した「TSURUTARO 動物の楽園アフリカでマサイの戦士になる」の撮影以来、仕事と称しての海外旅行?には行っていないのだ。底がわからぬ不景気の波や、ニューヨークのテロ事件の影響などで、放送局も金のまわりが悪くなったのか、在阪各局での制作費削減が相次いでいる。もっとも、放送局のお金で海外旅行?なんて甘い話はおいそれと転がっているものでもない。
鶴太郎さんとはここ数年間で、タヒチのボラボラ島、インドからアフリカのケニア、マサイ族の村、紀伊半島和歌山の白浜温泉と、一緒に旅をする機会が何度かあった。
京都でのドラマ撮影の合間を縫って、大阪南港にある検疫所へ向かう。黄熱病の予防接種を何としてでも鶴さんに受けてもらわなければならないのだ。インド経由でアフリカのケニアに入る場合、イエローカード(予防接種証明書)がないと入国できない恐れがあるからだ。
「先生。このワクチンの成分は何でできてるんでしょう?」
「主に、ゼラチンと卵白ですね」
「じゃぁ、例えば、ゼリーと生卵を飲めば黄熱病が直ると…」
(違うっちゅーねん)
時々、この人本当に俳優で画家なのかと疑いたくなるが、鶴さんらしい。(つづく)