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 ケニアのサファリカーは、四角いバンのような形をしていて、前後が四列、天井が上がってオープンスペースから四方八方が見渡せるようになっている。
 以前に、南アフリカのサファリで撮影をしたことがあるが、そこでは、フルオープンのジープで、しかも、ボンネット手前、ドライバーの手の届くところ横向きにライフル銃が備え付けてあった。いざとなったらそのライフル銃で我々を守ってくれるらしいが、そんなことになって欲しくはない。それに比べて、冒険、探検、アドベンチャー指数は低くなるが、観光及びテレビ番組撮影しやすさ安心指数は非常に高いのだ。

 今回のサファリ・ゲーム・ドライブの目的はビッグ5を見ることだ。
「ビッグ5は、まず、ライオン、ゾウ、カワウソ、…」
 いきなり鶴さんがボケる。
「ノーランキング(笑)」
 とガイドのピーター。
「ちゃんと覚えてくださいよ!」
 と素ちゃん。再び、鶴さんが、
「ライオン、ゾウ、バッ…」
 と、素ちゃんにふると、
「バカ!」
「(笑)」
 素ちゃんまでが、ボケまくる。
 本来、ビッグ5とは「ライオン、ゾウ、バッフアロー、サイ、ヒョウ」。もともとはゲームハンティングの獲物として、危険が伴う大物ベスト5ということだったらしい。最近は動物を見るためだけのサファリなので、バッファローに代ってチータがその地位についているという。見たい動物、会えたら嬉しい動物ベスト5なのだ。
 
 ほんの二、三分。さすがにアスファルトではないが、しっかりと固められた道を行くと、いきなりキリンに遭遇した。ビッグ5ではないが、むしろ広大な草原の中で、サバンナ随一の長身、キリンに会った時のワクワクした気分は忘れられない。まさしく、現代に残された「ジュラシック・パーク」の世界なのだ。

 このマサイマラ自然保護区では、基本的に、車は決められた道路以外は走ってはいけない。過去に、野生動物を追い求めサファリカーが勝手に道なき道を行くことにより、地面が荒らされ、自然保護という観点において重大な問題となった。地面に残されたタイヤの後が自然に戻るには、数年間の歳月を要するというのだ。決められたレールの上しか走れないというのは、アドベンチャーを期待する我々にとっては好ましくないし、非常に遊園地感覚で楽しくないのだが、自然のためには、これも致し方ないのだろうか。
「キリンがあんな近くにいる!」
 そんな考えを打ち消す、純粋な叫びの主は大林素子だった。
「出ました!生キリンでございます」
 ガイドのピーターも大声をあげる。
「しかも、腹ボテでございます。妊娠しております」
「シッポがフワフワしてるね。あれ、いい筆になるだろうな。墨をいっぱい含ませたら、いい「書」を書きながら歩くよ」
 さすが鶴さん。ボケもアーティスティックである。(つづく)

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 サファリとは元々はスワヒリ語で「旅行」と言う意味だ。それが植民地時代には「動物をハンティングするための奥地行」を指すようになり、今では、ハンティングではなく「動物を自然の状態のまま観察する小旅行」という意味に使われるようになった。
 ケニアからタンザニアにかけての広大なサバンナには、ヒエやアワなどのイネ科の植物が生い茂る。かつて、この豊かな草原を求めて、ゾウやキリンをはじめとする草食動物の祖先たちが森林を後にした。そしてその後を追って、肉食動物たちもここに集まった。現在、アフリカのサバンナには、地上の動物種の二十二パーセントが生息しているという。
 彼らは生命の維持に必要な分だけを狩り、それ以上は決して殺さない。無言のうちに自然の掟を人々に語りかけてきたサバンナの動物たち。だからこそ、動物たちは今もなおこの大草原の主役であり続けるのだ。

「ポッチャリとしたしまうまのおしり~」
「いやぁ~。言わないで~」
「美味しそうなおしり~」
 サファリカーの中で、ピーターが大林素子をからかう。
 インドからケニアに到着した晩、ナイロビ市内から約四キロメートル南東にある「ザ・カーニバル」というレストランで食事をした。この店は、観光客に野生動物の肉を食わせてくれることで人気の店で、もちろん正規ルートで仕入れているから許可が下りているらしい。自然保護の観点からからみれば、保護されている動物達の肉を食うということ自体「ん~」といった感じなのだが、たまたま食物連鎖のバランスのために間引いたものなのか、それとも病死、のたれ死にの類なのかなどと余計なことを考えてしまう。
 炭であぶられ、滴り落ちる肉汁の焦げた匂いが食欲をそそる。

素「何の肉かわからない」
ピ「クロコダイルでございます」
鶴「シッポがこーんなに長―い…」
(以下、「鶴」片岡鶴太郎。「素」大林素子。「ピ」ガイドのピーター)
素「尾長鳥?クロコダイルって何?Tシャツ?」
鶴「そりゃーメーカーだ」
鶴「こりゃーうまい!こりゃーめちゃくちゃうまいよ!日本でも支店だすべきだね。肉はワニ、ベルトもワニ全部ワニにしなくちゃいけないねー。バッグもワニ」
撮影とはいえ、鶴さんが夕食を食べるのは珍しい。ボクシングを始めた頃、減量をし、それ以来、夕食は食べない習慣になってしまったのだという。
鶴「柔らかそー。これいってみましょうか」
ピ「これはゼブラ。しまうまです」
鶴「でも、肉にぜんぜん縞が入ってないね」
素「も~お願いしますよ」
鶴「あ~しまうま。バカうま」
素「ライオンと同じものを食べてるんだよ」
鶴「ウマだもの。馬はよく食べるよ!」
素「ごめんなさい」
 シマウマを食べた人は、ライオンの気持ちがわかるらしい。(つづく)

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 大自然の懐に抱かれ、優雅に過ごすひとときは地球の素顔に触れる大切な時間でもある。
 ターザン映画に出てくるようなアフリカをイメージしたロッジで、暖かいシャワーを浴び、水洗トイレで用を足す。白いレースの蚊帳に囲まれたベッドで小鳥たちのさえずりを目覚し時計がわりに起きる。もともとヨーロッパ人がヨーロッパ人のために作り上げた宿泊施設なのだから当然といえば当然なのだが、大自然の中で快適にサファリを楽しんでもらおうという精神が隅々まで生きている。サバンナの真ん中なのにプールがある。西洋人にとっては日光浴と水浴はバカンスに欠かせぬものらしい。
 朝食はビュッフェスタイル。日本で言ういわゆるバイキングである。スープに新鮮なサラダ、淡水の生の地魚、ハム、チーズ、牛肉、ラム、チキン、カレーなどの煮込み料理、そして焼きたてのパン。アフリカのど真ん中にいるのに、高級シティホテル並みの食事がいただけるのは信じがたく有り難いのだが、こんなところにまで日光浴が楽しめるプールがあるのは、我々日本人撮影隊からみればバカバカしい感じがする。

「キリン発見!キリン発見!」
 朝食の後、レストラン棟のメインロッジとは別棟の部屋へ戻る途中、大林素子が大騒ぎしている。
「これって、同じ大地でしょ!」
「このまま行ったらいるんでしょ!」
「走って行けば、行けるよね!」
「こっち見てる!」

アカシアの木々に囲まれたロッジは、いつキリンが顔を覗かせてもおかしくない。大自然の懐に抱かれ、優雅に過ごすひとときは地球の素顔に触れる大切な時間でもあるのだ。皮肉にも雨が上がったテラスでサバンナの大自然を眺める。野生動物の生活圏にある自然のアトリエでスケッチをする。日常をすべて忘れ、夢のようなときが流れていく。
「危険であり、安全である。そういう危ういところにわざわざやって来る。その危うさというか、危険を味わうために…」
鶴さんがワインを傾けながら素ちゃんに語る。
「上野動物園で柵があって、その動物の前でワイン飲んでても、風情でも何でもないですもんね~」
鶴さんらしい比喩表現である。
「下の紫がきれいだね~」
 静かにアフリカの夕焼けが始まった。(つづく)