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 大草原の主役である野生動物と共に生きる誇り高きマサイ族。このマサイマラ一帯で、今も尚、気高く暮らしているマサイ族の村があるという。いよいよ我々の旅のクライマックスなのだ。果たしてマサイ族は我々を快く迎え入れてくれるだろうか。マジでロケハンや下見や打合せなどしていないし、電話がないからノンアポだし、当然言葉は通じない。頼りは「ケニア風へんてこ関西弁」という、パチンコか銀玉鉄砲程度の弱小武器を屈指するガイドのピーターだけなのだ。
 もし、村への立入拒否、撮影不可能なんてことになったら、無責任プロデューサーとはいえ何とかせねばなるまい。しかし、何とかって一体どうすんねん。マサイの社会は民主的で権威を嫌うというから、とにかく民主的に話し合って多数決かなんかで決めれば何とかなるかもしれない。それどころか我々のなりふりかまわぬ行き当たりばったり行動に激昂したマサイ族に襲われて大打撃をくってしまったらどないしょう。何が何でも、無我夢中、危険回避、支離滅裂。とにかく、番組を成立させる為には、槍をも恐れぬ勇気を持ってマサイ族の人達との交渉を成立させ、とりあえず仲良くならなければならないのだ。
遠くに赤いケープをなびかせながらゆっくりと数十頭の牛を放牧させているマサイの姿が見えてきた。我々のサファリカーはゆっくりと近づき、緊張の中、マサイ族の村を囲む垣根の傍らで車は静かに止まった。

 死をも恐れない勇気を持つ誇り高きマサイ族の村。こちらの出方を窺っているのか、一気に車を取り囲まれてしまった。彼らに容易にカメラを向けてはいけない。そんなことをすれば、いつ槍が飛んでくるかわからないのだ。一言二言、言葉をかわした後、絶対に車から降りないようにと言い残し、ピーターがマサイに連れ去られていく。ピーターの身が心配ではあるが、我々にはどうすることも出来ず、危険だとは知りながら密かにカメラをまわし、隠し撮りをする。
 交渉をしなければ村に入ることも出来ないし、まともに撮影も出来ない。褐色の肌にギラッと光る眼が我々を捕らえて離さない。緊張の中、時間だけが刻々と過ぎてゆく。
 漸く何人かのマサイに囲まれてピーターが戻ってきた。車のウインドウ越しにはピーターの表情が測れない。果たして結果はどうなのか。
「やった~!OK!ベリィベリィ難しかったけども、でも、降りてご覧になりましょう。交渉がつきました」
 ピーターも興奮しているのか。ケニア風へんてこ関西弁が、さらにへんてこ化している。
「本物ですよ。ニセモノじゃないねん。さっき言いましたように、何でも、何ちゅーか、ハートは心やねん」
 とにかく我々はマサイ族に受け入れてもらえることに成功したようだ。(つづく)

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「出た~!百獣の王ライオン!」
「やだ~。何か食べてる~」
 かつてこの豊かな草原を求め、草食動物の祖先たちが森林を後にし、そして、彼らを追って肉食動物達もここに集まった。彼らは自らの生命の維持に必要な分だけ狩りをし、それ以上は殺さないという。まさに「自然の掟」が目の前で繰り広げられている。雄のライオンの前に赤黒い肋骨だけになった獲物の残骸があった。
「雄のたてがみってのはいいね~」
 鶴さんが食い入るようにライオンを見つめている。
「しぐさは猫と一緒だね~」
 ネコ科の動物でありながらイヌ科のように群れをなすライオン。三メートルを超える堂々とした体躯、王者の風格を見せるたてがみはまさに百獣の王と呼ぶにふさわしい。
 彼らの群れは「プライド」と呼ばれ、一~六頭の雄に四~十二頭の雌と子供達で構成された平均十~二十頭の血縁の集団で生活しているという。日中はごろごろしていて、一日に十六時間以上睡眠をとる。主に夜行性で、狩りをするのは夕方涼しくなってから、雄はほとんど何もせず雌が狩りをする。獲物は主にヌーやシマウマ、インパラなどの大型有蹄類。ライオンの走るスピードは時速五~六十キロメートル程度で、獲物のほうが速く走ることができる。だから単独で行動するネコ科の動物には珍しく、チームプレーで狩りをする。獲物を追うもの、待ち伏せて襲いかかるもの、皆に役割分担があり、それぞれの仕事をこなすという。倒した獲物はまずは雄が独り占めにし、腹いっぱい食べてから雌や子供達が食べる。
「このアフリカで寿命を全うすることが出来るのはマサイ族かライオンぐらいだろう」
 両者に対する畏怖の念は、この地でずっと語り継がれてきた。
ライオンの雄は二歳半から三歳になると近親交配を防ぐために群れを追い出されてしまうという。放浪しながら成長し、六~七歳になって成熟期を迎えると、「プライド」の主と戦う。勝つことができれば、そっくりそのまま、その「プライド」の新たなる主として君臨する。そして、その「プライド」の子供達をすべて殺してしまい、自分のハーレムを築く。より強い種を残すため、食べては眠り、自分の血を残すことだけを考る。自分の地位を守るために「プライド」を守る。「プライド」のために「なわばり」を守る。狩りのしやすい場所を他のライオンから守るのだ。
 だから、天敵のいないライオンにとって、唯一の天敵がライオンなのだという。

 マサイ族レンジャーのサイモンが言うには、このライオンのカップルは今が「ハネムーン」らしい。確かに、群れを離れ、雄雌二頭だけで寄り添っているところをみると頷ける。
雌が発情期を迎えると、ライオンは交尾のために群れを離れ一週間あまりの「ハネムーン」を過ごす。妊娠の確率が低いライオンは、一日に五十回以上も交尾を重ね、ひたすら子孫を残す使命にだけ打ち込むのだという。しかし、それはともかくとして、目の前の雄が雌に対して求愛のような素振りをしているのは間違いないようだ。
「なぁ~イイだろう。グルル」
「イヤやて、たくさんヒトが見てるやんか」
「オイオイ!そこのヒトたち、見世物じゃねーんだよ。ガォ~」
「そんなアンタやめときって」
「とにかく、オレ我慢できねーよ。ゴロゴロ」
「しつこいわね~イヤなものはイヤやて」
 我々の目の前で「愛の語らい」や「夜の営み」を見せつけられても困るが、滅多にないチャンスではあるので、拝見してみたい気もする。
「もし、我々が車から降りたらどうなるの?」
 鶴さんが唐突にピーターに尋ねる。
「すぐにアタックされます」
(シーン)
 思わずドアのロックを確認する。(つづく)

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 マサイマラ保護区内のサファリ・ゲーム・ドライブには、マサイ族のレンジャーが同行することになっている。現代のマサイ族の中にはこうやってガイドやレンジャーの仕事をしながら生計をたてている者や、観光客のためのロッジのポーターやコック、ウエイターとして住み込みで働く者も少なくない。しかし、我々が目指しているマサイ族。現代文明を拒み続け、真赤なマサイケープをなびかせてサバンナの草原を疾走し、槍一本でライオンをも倒すという誇り高きマサイ族。昔ながらの、正真正銘、老舗の元祖マサイ族もこのマサイマラ保護区の中で暮らしているという。
 我々のサファリカーに同行するレンジャーはマサイ族のサイモンさん。彼の視力は4.0以上、数キロ離れた山にいる動物まで見えるという。彼がいればビッグ5を見ることも夢ではないかもしれないのだ。
「バッファロー!」
 素ちゃんが叫ぶ。
「フニャフニャフニャ」
 マサイ族の言葉は日本語や英語とイントネーションや発音の仕方が全く違うのか、それとも単に耳慣れないだけなのか、何と発音しているのやらさっぱりわからない。喋っている言葉をカタカナに直すこともできないのである。ともかくサイモンさんが言ったであろうことをピーターに通訳してもらう。
「野生動物の中では一番凶暴です。今、彼が言うには、全然ライオンを怖がってない。ホンマにベリィストロング」
 単純に、百獣の王ライオンの強さがイメージに残る我々にとって意外な答えである。では、ライオンはバッファローのことをどう思っているのだろう?宿命の敵、ライバルではないだろうから、一目おく存在なのだろうか?それとも、厄介なイケスカン奴とでも思っているのだろうか?
「そんなに強かったのか。バッファロ~」
 鶴さんが唸る。
 キリンが首を高くしてアカシアの木の葉をついばみ、バッファローがのし歩く。インパラが大きく跳ね、しまうまが草を食む。ダチョウがキョロキョロ頭を振って周りを窺い、ヌーが群れをなして移動する。我々の目の前に、まさにジャングル大帝の世界が広がる。サlフアリカーはさらに地平線の向こう側を目指して走る。
「わっ、ゾウだ!出た~!」
 さすがにピーターも視力の良さでは負けていない。我々の進行方向、だいぶ先のほうにゾウの群れを発見し、あっという間に近づく。
「あっ、子供も~!すごい!近い!」
 感動する素ちゃんに鶴さんは
「曙」
 ゾウにまわしをつけるとしたらまわしの長さは何メートル位いるのかな?人間の何倍ぐらいの長さになるのだろう?アフリカゾウの体高は三~四メートル、体重は五~七トン。現存する最大の陸生哺乳動物で最大体重十二トンという記録がある。曙は身長二メートル三センチ、体重二百三十五キロ前後であるから体重で約二十五倍。まわしの長さに換算するには容積率を加味して算出するのだろうか、いやいや直接測ったほうが手っ取り早い。まあ、そんなことは数学者か動物学者にまかせるとして、ゾウの家族の撮影を続ける。アフリカゾウが象牙目的に大量殺戮された歴史的事実により、印鑑の素材としてその象牙の大量消費を手伝った日本人のことをあまりよく思っていない人々もいるという。まあ、そんなことも我々には難しすぎるので、とりあえず歴史学者や動物保護団体にまかせることにして、サファリカーはサバンナを突き進む。(つづく)