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Awareness

「気づき」がすべて。

Be here now.

「今、ここに」を日々是実践。

岩肌からは、周囲を取り囲む山々の影のせいで、心地よい冷気が伝わってきた。穴は一回り小さくなったように見えたが、それは、僕の身体が一回り大きくなった証拠だった。この場所を唯一眺望できる山の頂から、こちらを眺めているときには、戦慄に近い緊張感があった。しかし、今ここに、この場所に実際に立ってみると、その緊張感は嘘のように晴れていた。僕の中のトラウマは今日ここに足を踏み込むことで雲散霧消したのだった。途中幾度となく引き返したいと思ったが、ここに来て本当によかったと思った。

「おい、これを見ろよ。」
元永の声がした。振り向くと元永がいない。

「どこだ。」
「ここだよ。」
穴の中から声がしたような気がして、思わずぞっとした。そのとき、岩によじのぼった側のちょうど反対側の方で、がさがさいう音が聞こえたと思ったら、そこからひょっこり元永の顔が現れた。

「何だ、そんなところにいたのか。穴にもぐったのかって思ったじゃないか。脅かすなよ。」
「そんなことより、ちょっと来てみろよ。」
僕は元永のいる岩の反対側に行ってみた。元永は、岩より一段下がった松の枝に座っていた。

「面白そうじゃないか。」
「そんなんじゃないよ。下をよく見ろよ。」
僕は、言われるままに、松と岩のわずかの隙間から、下の方をのぞいてみた。最初は何も分からなかったが、岩の上にうつぶせになって下の方を見ると、どうやら岩の横腹にいくつも穴が開いているのが分かった。しかも草で覆われていなければそれはかなり下の方まで続いているようだった。

「何だろう。」
「俺も最初は何だろうって思ってけど。この松のところから離れて見ると、どうやら下の方から、この岩の頂きに登るために掘った穴のようだよ。深い積雪の上を歩いたような跡が、岩の横腹に規則正しくついているぜ。」
「そこから下の方が見えるかい。」
「草でよく分かんないけど、何とかこの穴を使って下に降りてみると、何かあるかもしれないな。どうする。」
「よし、行ってみよう。ただし、岩の上でしっかりと準備してからだ。腹もすいてきたしね。」
「よっしゃ。」
そういうなり、元永は、松の枝から、僕のいる岩の上に飛び渡ってきた。
「ちょっと面白くなってきたな。」
「ああ。」
僕は、そう答えたとき、以前の嫌な経験の一部がちらっと脳裏をかすめた。しかし、そこにはもはや恐怖はなかった。