本堂の縁側に二人は座って待っていた。乾いた土埃の淡い香りの中に、線香の香りが時折混ざってくる。麓から寺の周辺まで蝉の大合唱がうねりのようにして上ってくる。寺の静と蝉の動が見事に混じり合う幽玄の妙。その中にいて、二人は完全に寛いでいた。
「お待たせましたのお。」
本堂の裏側から縁側を伝ってきた住持の姿に、声をかけられるまで二人は気づかなかった。そそくさ居住まいを正すと、二人は正座して、住持の方に向かって、おじぎをした。
「まあまあ、そんなに固くならないでよろしいでしょう。」
そういうと、住持は、二人の近くに腰を下ろした。そして、運んできた盆を二人の前に差し出すと、
「麦茶しかないのですが、いかがですか。」
と言った。
「はい、いただきます。」
二人がいっきに飲み終わるのを見て、住持は、
「あわてずに飲みなされ。」
といって、にっこりと微笑んだ。
「さて、あなたたちが所望しているものは、これですかな。」
そう言うと、盆の下に敷いていた大部の書物を二人に示した。
「墨書で続け字ですから、お二人にはちょっと分かりませんでしょう。」
差し出されたページを見て、二人は唖然とした。色あせた半紙のような紙の一面にびっしりと墨筆で文字が何百ページにもわたって書かれている。しかし、まったく読めないのだ。ところどころ、「引」のような字や「朱」らしき字を判読できる程度で、何を書いているのやら皆目見当もつかない。二人は思わず顔を見合わせた。
「心配せんでもええですよ。」
二人の困惑した顔を目の当たりにして、住持は笑いながら続けた。
「時間はたっぷりありますけん。ゆっくりとご希望の話をしてあげましょう。この中身のことはお経以上によく存じ上げておりますけんのお。実は、お経を読むより、こちらを読んでいた方が楽しいのです。こんなことを言うと、仏の道に仕えるものとして失格でしょうな。」
と言うと、からからと声を立てて笑った。
二人は、住持の笑いにどう反応してよいか戸惑ったものの、資料の内容が分かると知って少し安心した。