「マリさん。」
薄暗い税理士事務所で、 所長が静かに言った。
机には、 大量の別表。
コピー機は低いうなり声を上げ、 新人たちは魂の抜けた顔で入力している。
その中で、 一人の新人が震えていた。
「は、はい…。」
「別表6(1)の “配当等の計算期間” とは何か。」
新人マリの顔色が変わる。
(終わった…。)
第一章
“受取日を書いた女”
マリは震える声で言った。
「えっと… 配当を受け取った日です…?」
事務所が静まり返る。
カタカタ鳴っていたキーボードが止まる。
パートのおばちゃんが、 そっと天井を見上げた。
所長は目を閉じた。
「違う。」
ドンッ!!!
所長が法人税申告書を机に叩きつけた。
「それを書いてしまった税理士補助は、 毎年全国で散っていく。」
「ヒィッ!!」
第二章
“配当とは何か”
所長はホワイトボードに書いた。
会社
↓
1年間がんばる
↓
利益が出る
↓
「株主に配当出すか!」
所長 「つまり配当とは、 過去の利益の分配だ。」
マリ 「ほう…。」
所長 「では “配当等の計算期間”とは?」
マリ 「えっ…。」
所長 「その配当が、 どの期間の利益から出たかだ。」
マリ 「おおーーー!!」
第三章
“焼肉屋で理解する法人税”
所長 「マリさん、焼肉は好きか?」
マリ 「大好きです!!」
所長 「例えば焼肉屋が、 2025年4月1日〜2026年3月31日まで営業した。」
🥩「今年も頑張ったぜ!」
↓
利益発生
↓
配当を出す
所長 「この場合の 配当等の計算期間は?」
マリ 「2025/4/1〜2026/3/31!!」
所長 「そうだ。」
マリ 「うおおおおお!!」
隣の先輩社員が泣いていた。
「私は4年かかった…。」
第四章
“税務署は全部見ている”
マリ 「でもなんで、 そんな期間を書くんです?」
所長の目が光る。
「税務署は、 ズルを嫌う。」
ゴゴゴゴゴ…
所長 「例えばこうだ。」
配当直前だけ株を買う男
↓
配当だけもらう
↓
即売却
マリ 「うわっ!! 配当ハイエナ!!」
所長 「だから税法は確認する。」
“お前、 ちゃんと長く株持ってたか?”
マリ 「怖ぇぇぇ!!」
第五章
“受取日ではない”
所長 「新人最大のミスを教える。」
マリ 「ゴクリ…。」
所長 「受取日を書く。」
マリ 「ギャアアアアア!!」
事務所の奥から悲鳴からも悲鳴。
どうやら別の新人も 同じことをしたらしい。
所長 「違う。」
❌ 配当を受け取った日
ではない。
⭕ 配当の元になった利益の期間
だ。
マリ 「つまり…」
2026/6/20に配当受取
でも
対象利益が 2025/4/1〜2026/3/31なら
書くのは
2025/4/1〜2026/3/31!!
所長 「その通り。」
マリ 「今なら別表6(1)と 心が通じ合えそうです!!」
所長 「それは危険だ。」
最終章
“税理士として生きる”
夜。
誰もいなくなった事務所。
マリは一人、 別表6(1)を見つめていた。
「配当等の計算期間…。」
「お前、 受取日じゃなかったんだな…。」
窓の外では雨。
コピー機も静かに眠っている。
そこへ所長が現れた。
「帰らんのか。」
マリは笑った。
「なんか… 少しだけ法人税が分かった気がします。」
所長も笑った。
「そうか。」
「だが明日は 別表5(1)だ。」
マリ 「うわあああああああ!!!!」
— 完 —
