夏の風物詩のひとつに「怖い話」があります。
特に、幽霊やおばけが出てくる怪談が多いですが、
何もそればかりが、怖い話というわけではありません。
今日はひとつ、怖い話を紹介しましょう。
あまりお好きでない方は、ご遠慮ください。
とある刑務所で、ひとりの女性が脱獄を試みます。
彼女は、ひとりの老人男性を抱き込みます。
彼は、獄内で死んだ者の処理をする墓場の管理人でした。
彼女は、死んだと偽って埋葬されたのち、
彼に墓を掘り起こしてもらい、逃亡しようと考えたのです。
計画を実行に移す日、彼女は彼の協力のおかげで、
まんまと生きたまま棺桶の中に忍び込むことに成功しました。
あとは埋葬され、掘り起こしてもらうのを待つだけでした。
どのくらい時間が経ったでしょうか。
棺桶が持ち出される直前、ふたが開けられました。
看守たちがあれこれ話しているのが聞こえました。
彼らに生きていることを悟られてはならないので、
彼女は息を殺し、ぴくりとも動かず、死体になりきりました。
ふたが閉められる直前、何かが入れられたのがわかりました。
それが何なのかを知りたいと思いましたが、
目を開けるわけにもいかないので、じっと堪えました。
ついに、棺桶が地中に埋められました。
脱獄は、もう半ば成功したようなものです。
彼女は、あの老人が助け出してくれるのを待ちました。
何も見えず、何も聞こえません。
急に、彼女は不安になってしまいました。
彼は、本当に掘り起こしてくれるだろうか。
重苦しい空気が、やがて恐怖へと変わり始めました。
そのとき、先ほど何かが入れられたのを思い出しました。
何なのかを確かめようと、ゆっくりと指先で弄ってみました。
ごつごつしていて、袋の中に入っています。
あちこち弄っているうちに、マッチを見つけました。
それが何なのか、どうしても知りたいと思った彼女は、
まるで急かされているかのように、マッチを1本擦りました。
彼女の目に飛び込んできたのは、彼の顔でした。
これは、アルフレッド・ヒッチコックのテレビ・ドラマのお話です。
ヒッチコックといえば、「サスペンスの神さま」と称され、
『サイコ』 『鳥』 『裏窓』 など、数々のスリラー映画を手がけました。
特殊メイクやハイテクを駆使したホラー映画の恐怖は、
裏を返せば、非現実的であるがゆえに、救いがあります。
一方、ヒッチコックの創り出す心理的恐怖は、
非常に日常的であるがゆえに、底知れず恐ろしいのです。
by スグル