雑誌クリッピング120

潮騒と汽笛と人の声が聞こえてくる

 

 

渡辺真知子の歌は、海のかおりを運ぶ。高速道路を走っている車の中や、波が打ち寄せる埠頭や、模様入りの石が敷きつめられている通りや、人々がにぎわう街のまっただ中で、ふっと漂ってくる潮のかおりである。

 

アルバム「WELCOME TO YOKOSUKA」は、そんな真知子の歌を凝縮している。

 

真知子の歌は、破局の恋であっても破滅しない。「夢の夢」のようにしっとり歌っても暗く落ち込まない。落ち着きと幅のある声と、美しい高音とが、温かく柔らかく小気味よく広がり、明るい。「現在・過去・未来…」で見せて以来の意外な発想と、軽快な語呂合わせと、独特のメロディーが、街の中で自然体をつくりだしている。

 

真知子27歳、8枚目のアルバムについての音楽評論家三橋一夫の文章だ。本人も原点回帰のつもりで作ったアルバムだそうだ。文章では、「男たち女たち」、「中華街で乾杯」、「夕暮れSTATION」、「SAILING NIGHT」について触れている。シングルカットされたのは「泣いてララバイ」。

 

今は30歳になってもミニスカートでアイドルしている子がたくさんいるが、この頃は大人にならなければ、おとなの歌を歌わなければ、という焦りのようなものがあったのかもしれない。

 

掲載雑誌:FM fan(1983年NO.18 8/15-8/28)