魔物の話が出たところで思い出したことがあります。

「くるみ割り人形」で、私は1幕でフリッツの役を頂きました。


私は、踊りはともかく「演技」は、好きこそものの上手なれというか、

早くから人間捨てていますから、(笑)その役に成りきることで

アドレナリンが出ることを知っています。


30代後半、小学生の子どもを持つ私にとって、

やんちゃ盛りの男の子の役は、とても不思議で、

でもなぜかすっぽりとはまり、とても楽しい役でした。


たまたま父親役のゲストの方が外国人の方で、

(顔ちっちゃあせる…背の高い紳士です。)

子どもを叱る演技の時なんか、顔から手まで真っ赤にして、

本気で怒って下さいますから、私も本気で舞台狭しとやんちゃします。



1幕の至福の舞台を経て、雪の情景(ここはクララ以外全員出演です。)

早替えは忙しくプレッシャーがかかります。

以前ここに書いた動物の時の早変わりさながら、

フリッツ→雪の精→…そして…。


お菓子の国は、チャイナ・お茶の精の役を頂きました。

私を知っている人は、ホントに今までお茶を踊ったことがないの?というくらい、

私のはまり役らしく、「今頃?」はい。その時が初めてです。


30代後半になって初めて踊る、お茶の精。

衣裳もかわい~ん。センスのバージョンか~。おっとなー。

  コホッ! 失礼---。


その頃のいつものパートナー、シンメトリーのMちゃんと、

そして、ゲストの若手ダンサー、Kさんと、3人ではじけます。


男性が目立つ振りではありましたが、

こんな本格的なチャイナは、嬉しくてテンション上がります。

他の苦手な踊りと違い、得意分野でしたので、技術の心配もなく、

…ある意味、たとえ転んでも誤魔化せるではありませんか。

いやいや、もちろん冗談ですが、そのくらい余裕があったのですよ。

自然と笑顔になります。

リハも順調で、本番踊るのを、とても楽しみにしていました。


 そこに、魔物の目がきら~ん、と光ったのですね。


前奏が始まりました。

男性が入っている大きな箱を二人で運んで来ます。

もちろん、タイヤが付いているので、すーっと滑らせて来るので

負担はありません。

さあ、私たちの踊りが始まります。

一節・二節…


 ぱっと箱を開けて、男性がジャーンプ!

 勢いよく、飛び出て来ます。かっこいーーーー!

 私たちは、両手を広げて、男性の登場を見せています。


   そこに魔物が来ました。


男性が飛び出た後、すぐに踊りはじめなければならないのですが、

何者かが私を金縛りにしたのです。

何故か私は前に出られない…、

一瞬、何が起こったのか解らず、私を理解不能の真っ白い世界に連れていきました。


ハッと気が付いたのが、ほんの0.2秒くらい後でした。

私にとっては、数分立ってしまっていましたけどね。


箱を止めていた金具に、私が持っていた『センスと手首を繋ぐゴム紐』が、

ひっかかっていて、引っ張られていました。

だから、私は前に進めなかったのです。

ほんの数拍の出来事で、私は「うまくごまかし、膝で調子を取りながら、

それも振りに見せかけて、万事うまくいった」と、思い込んでいましたが、

後で来たビデオを観ると、明らかに同様していますね。

挙動不審で、素に戻った私が、ちゃんと映し出されています。


 あー恥ずかしー。プンプン


そういうことがあっても、気にしないで次に進むのがプロでしょう。

瞬時に忘れて、切り替えなければなりません。


でも私は素人ですから、そういうわけにはいきません。

動揺は、最後まで続きました。

踊り自体は、その後ソツなく終わりまで踊りきることができましたが、

最後のペアテでは、3人の間隔を、どんどん縮めている…犯人は私。

なに力抜けてんのーーーっ!ビデオに突っ込む私が居ました。

右に寄ってるってことは、乗れてない。…ダヨネ。


最初、リハの疲れから、Mちゃんが「最後のペアテのダブル、回れない」

というので、先生にシングルにして貰った時、ダブル回れるのにな、と、

思ってしまいましたが、いやーーーーっ正解でしたよ。

シングルにして貰っといて、良かったー。



この件で、道具を作ったスタッフの方が、ものすごく怒られていました。

が、私は決して道具さんのせいだとは思っていません。

だって、リハーサルまでは何事も無く踊れていましたから。


これは、私のおごりに対するバツという名の魔物のせいだったのだと、

今でも思っています。

高くなりそうな鼻を、魔物は思いっきり折って行きました。


若い皆さん、おごり…まあ、バレエをやられている皆さんは

謙虚な方が多いので、おごりなどは無いとは思いますが、…、

でもどこかで息を潜めてじっと待っている魔物の存在を、

忘れてはいけませんよ。


なんて、老婆心からの忠告でございました。(笑)

どうぞ、突っ込んで下さいませね。