北村薫『街の灯』 | 町田ロッテと野球散策

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いやぁ、野球って、本当にいいものですね。



奇しくもタレントのベッキーが大変な事になっている時に読む「ベッキーさんシリーズ」(笑)。もちろんベッキーとは全く無関係。

実はこのシリーズが大好きです。時代設定は昭和初期(著者曰く昭和7年)、「ベッキーさん」とはこのシリーズの主人公であり語り手であるミドルティーンの社長令嬢に突如付く事になった運転手・別宮(べっく)みつ子さんの事です。イギリスの有名な作家サッカレー(作家になるべくしてなった名前(笑))の不朽の名作『虚栄の市』の女主人公であるレベッカ・シャープの愛称が「ベッキー」で、「別宮」という名前から「ベッキーさん」と呼ばれる事になったのです。なお私もかつて読んだ事がある『虚栄の市』(なかなか入手しづらく、岩波の旧仮名版で読んだ記憶があります)、主人公のベッキーことレベッカ・シャープは上流階級が幅を利かす世において自由奔放に生き、それが過ぎたために学校や世間から煙たがられ、それでもブレることなく己に正直に生きた女性です。世の縛り、家の縛りが実に煩わしかった昭和の上流階級の女子にとってはまさにベッキーはアイドルだったかもしれません。
ただ本作(「ベッキーさんシリーズ」)における別宮さんは『虚栄の市』のレベッカ・シャープとは真逆の人。分を弁え、主人公英子の成長の糧となるべく実に貞淑な運転手として描かれます。しかし文学に詳しく、武術のみならず拳銃の扱いにも長けているというスーパー・ウーマン。これだけ才のある人がなぜ良家の使用人なのか…(これは知っていますが書かないでおきます)。
実はこのシリーズ、結びにあたる『鷺と雪』から読んでしまっていました。二・二六事件前夜で終わる切ない結びでした。したがってこの作品の登場人物を知った上で読んだ本作『街の灯』でした。これはまさにシリーズ第1作、主人公がベッキーさんと初めて出会うところから始まります。

実に忠実な運転手兼ボディガードであるベッキーさん、しかし忠実なだけではなく主人公であるご令嬢の成長にも資する存在でもありました。そして銀座の貧民を見た後、最後にやんわりと諭すのです。

上流階級の傲りを。

そこで昭和のレベッカ・シャープ的な面を見せ、日本の『虚栄の市』をぴしゃりとするのは流石。

ベッキーさんのような人が沢山いたら、歴史は確実に変わっていたでしょう。