やや苦い思い出である。不動産会社に入社した私は、二十六歳にして初めて二つの異世界に巡り合った。というか、巡り合わされた。
キャバクラと、合コンである。
ああ、「(笑)」をつけたい。キャバクラの話はまた日を改めるとして、今回はこの合コンの思い出としよう。いずれにしても二十六歳での「初めて物語」はあまりにも遅いであろう、きっと。
杉並区の事業所で漸く営業の仕事というのが掴めて、社用車でお客さんをご案内するようにもなった頃、三十代後半の先輩社員に連れていかれたのが、新宿の高層ビルの二十六階あたりだったか、ちょっとおしゃれなレストランだった。想像していた通りの「フィーリングカップル」のような「五対五」の座席、ああ、これが合コンというやつか。不動産屋というのは今の職場と反対で女子社員というものがほとんどいない。したがって女性に会うという機会もほぼなかった時のことであるから、内心は尋常ではなかった覚えがある。初めての合コンは言わずもがな、徒手空拳である。無茶だ。
その時のことはもう書くのも気が進まないくらい悲惨なものだったが、ほとんど喋ることもできず、その頃も当然弱かった酒を調子に乗って呷り・・・とんだ醜態をさらしたものである。
まさかその合コンで、女性陣にはとんでもない計算が繰り広げられていたとは!
辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』では、男が知らない女たちがふんだんに描かれる。見事だ・・・。その中で若い頃に合コンを繰り広げていた仲間たちが登場する(しかも山梨!)。ただここは本筋ではないのだが、人物に厚みを持たせる描写に効果的に使われている。とにかく、私の知らない女性がどんどん登場するのである。
男には、知らないことがあまりにも多すぎる。結婚、結婚式への想い。そして出産。女友達。不倫。そして・・・母と娘。解説には「女性の機微」という語があったと思う。
『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』という不思議なタイトルの意味は、物語の終盤に明らかにされる。ある母と娘の関係を象徴する語だった・・・これも、驚いた。
辻村作品、また読みたい!
なお上記の合コン、最初で最後の合コンであった。明らかに「フィーリングカップルの五番目に座る役目の人」となってしまった西暦二〇〇〇年の新宿。