儚く美しいライムライト | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

儚く美しいライムライト

チャップリン晩年の名作が原作の音楽劇「ライムライト」を観劇。主演を務めるのは2015年の初演から3回目となる石丸幹二さんです。



「演劇人として残したいメッセージをチャップリンは沢山この作品に書き記している」それを後世に伝えるのが私達の役目ではないかと語っている石丸さん。



舞台は1914年のロンドンの古ぼけたフラット。かつては一世を風靡した人気者でしたが、今は落ちぶれて酒浸りの日々を送っている老道化師のカルヴェロ。



ガス自殺を図った同じフラットに住むバレリーナのテリーを助け出して自分の部屋で看病をします。命を取り留めたテリーを演じるのは元宝塚娘役トップの朝月希和さん。



「生きている意味がない」と嘆くテリーを励ますカルヴェロの言葉が胸を打ちます。「大切なのは苦しみであり、苦しみがあるからこそ人は生きていることに気づく」は



名喜劇役者として活躍した輝かしい時代は過ぎさり、忘れ去られたただの"年老いた人"であるカルヴェロ自身が自らを鼓舞する言葉にも聴こえました。



母親を亡くし困窮する暮らしの中で自分にバレエを習わせるために、姉が街娼をしていたことにショックを受け足が動かなくなってしまったテリー。



「若者は命を捨てるが、年寄りは執着する」と呟くカルヴェロ。「希望がなければ、瞬間を生きれば良い。生きていれば素晴らしい瞬間だってあるのだから」と。



また闘うのに疲れたと言うテリ-に「自分自身と闘うのは苦しいけれど、幸せのために闘うことは美しい」と言葉を返します。



希望を失い絶望するテリーが今一度生きる気力を取り戻せるように、心と言葉を尽くすカルヴェロを丁寧に描く第一幕。数々の名台詞に唸らされました。



そしてやはりカリヴェロは売れていなくとも道化師であることに変わりはなく、少しのユーモアを混ぜてテリーを笑わせます。その姿が哀しくも愛おしかった。



「生きる意味を考えるのではなく欲望のままに生きれば良い。薔薇は薔薇になろうと望んでいる。岩は岩になろうとしてる。そこに意味はない」



また「人間には死ぬことと同時に避けられないことがひとつある。それは生きることだ」カルヴェロもきっと自分が生きている意味を1人で何度も考え、死を思った日もあったはず。



カルヴェロの言葉に少しずつ心を開いていくテリー。そんな中、カルヴェロは久々に舞台の仕事に挑みますが残酷な結果となり自信を喪失…。



打ちのめされたカルヴェロを励ますテリー。無我夢中になり思わず立ち上がっていました。人を想う気持ちが奇跡を起こすという余韻を残し第1幕は終了。



物語が動き出す第2幕。エンパイア劇場のオーディションに挑み見事に合格するテリー。このオーディションシーンでは仲良しの俳優さん植本純米さんが絶妙な合いの手を入れ笑いを誘います。



純米さんは演出家のボダリングをはじめ何役もこなしながら、登場する度にさりげなく爪痕を残し、悲哀が滲む物語にアクセントを加えるコメディアンの役割をしっかりと。



文具店で働いていた時にテリーが淡い恋心を抱いていた青年ネヴィルとも再会。楽譜用紙を買うにも困っていましたが今は作曲家として成功し、テリーは彼が作った曲で踊ることに。



ネヴィル役の太田基裕さんの若さが本当に瑞々しくテリーとお似合いですが振り向いてもらえず。前半では号外を配る新聞配達の役も。のちに徴兵されて戦地に赴くことに。



「若者は輝き、年老いた影は消え去る」という台詞通り、後半はどん底から未来に向かって羽ばたこうとするテリーと人生の黄昏を生きるカルヴェロがあまりにも対象的。



命の恩人であり生きる意味を教えてくれたカルヴェロにテリーが真っ直ぐに愛を打ち明けますが、素直にその気持ちをカルヴェロが受け止められるはずもなく…。



ネヴィルから愛ではなく憐れみだと言われますが、カルヴェロの優しさも悲しみも全て含めて愛していて、それは憐れみ以上よと言い切るテリー。



ですが前途あるテリーとネヴィルの前から姿を消してしまうカルヴェロ。お互いに絶対に無くてはならない存在になっているはずなのに本当に切ない。



カルヴェロへの想いを断ち切れないテリーとどん底にいても舞台への執着を持ち続けたカルヴェロ。テリーが必死に行方を探し再会を果たします。



そしてテリーの尽力と吉野圭吾さん演じる劇場支配人のポスタントの計らいで、カルヴェロはテリーと同じ舞台に道化師として立つことに。



カルヴェロの栄華と挫折を近くで見守っていたポスタント。ファンと喜劇の神様が見放しても自分達だけはと…昔のようにステージに送り出す場面が良かった。



またフラットの大家さんオルソップ夫人は昔の舞台仲間。始めはテリーのことを誤解していてカルヴェロにも若い娘を囲って…と嫌味を言いますが、事情を知りテリーの応援団に。



家賃を催促するなどのカルヴェロとの軽妙なやりとりにも情があり、ポスタントと共に最後までカルヴェロの味方であることにほろりとさせられます。



〈ライムライト〉はスターを照らすスポットライトのことで名声という意味もあります。スポットライトを浴びられる人は一握り。



そこに辿り着けない数多の役者達、そして名声を手にし喝采を受け光に包まれていたスターもいつか必ず舞台から去る時が来る…。



今年59歳になる石丸さん。初演から約10年が経ち自分自身も若手に役をバトンタッチする舞台もあり、今の石丸さんだから演じられるカルヴェロでした。



かつて自分がいた場所に立ち拍手で迎えられるテリーを見つめるカルヴェロ。命の灯火が消えようとしているカルヴェロを残しスポットライトと観客が待つ舞台に向かうテリー。



〈継承〉されていく舞台人の魂の繋がりに涙が止まりませんでした。2人を強く結びつけたのは愛を超越した魂の共鳴だったのかもしれません。



舞台の上で今この瞬間を生きることの喜び。永遠には続かないからこそ儚く美しいライムライト。その光を求めてもがく人間もまた美しい…。



〈ライムライトの魔力〉に魅せられて最期まで役者として生き切ったカルヴェロ。とても羨ましい生き方でした。人を導くのは人であり、人こそが〈光〉。



音楽劇「ライムライト」は日比谷シアタークリエにて今月18日まで上演していますクローバー