バトンを受け継ぐのは… | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

バトンを受け継ぐのは…

蜷川幸雄さんの演出で1998年にスタートした〈彩の国シェイクスピアシリーズ〉私も何作も観ましたが、シリーズ完結間近で蜷川さんが亡くなり、バトンを引き継いだのが吉田鋼太郎さんでした。



満を持して今月から吉田さん演出による新シリーズ〈彩の国シェイクスピアシリーズ2nd〉がスタート。その記念すべき1作目は「ハムレット」で主演は柿澤勇人さんですキラキラ



2015年に観た蜷川ハムレットの主演は藤原竜也さん。長屋のセットやクローディアスを演じた平幹二朗さんの水垢離など意表をつく演出に溢れていましたが、吉田さんはド直球で勝負してきました。



舞台セットは天井に届くほどの高さの大きな柱だけで無駄なものを一切排除。舞台の奥行きをそのまま使うという非常にシンプルなもので音響も控えめでした。



またシェイクスピアならではの重々しい台詞を現代の日常会話に近づけることを吉田さんは意識したそうで、今までのシェイクスピアよりもすんなりと言葉が入ってきました。



イギリスには〈ハムレット役者〉という言葉があるほど役者にかかる負担は大きく、演じられる俳優はそう簡単にはいないと語っていた吉田さんが選んだのが柿澤さん。



「生半可な気持ちで出来るものではなく全身全霊で挑みたい」今までで1番過酷だったと言っていた柿澤さんですが、〈会話劇の真骨頂〉シェイクスピアの怒涛の長台詞を自らの血肉に昇華させていました。



藤原竜也さんは観客も息を吸うのを忘れてしまうぐらいに畳み掛けてきましたが、聡明でありながら青年の脆さと危うさを抱えたハムレットを力まずに、そして台詞も明晰で澱みなく演じた柿澤さん。



大人の事情や矛盾を許せるわけがなく、葛藤し逡巡しながら悲劇に向かっていく姿を丁寧に表現。迸る汗から全身全霊が伝わりましたし、全身からパッションが溢れていました。



ハムレットは復讐に囚われ苦悩する孤高の青年ではなく、実はもっと明るくどこにでもいるような優しい青年と吉田さん。新たなハムレットの誕生を観せてもらいました。



そして兄を殺し妻を奪い王の座についた叔父クローディアスと先王の亡霊の2役は当然吉田さん。平さんがかなり枯れた演技だったので全く違うクローディアスを。



肉親殺しに手を染めていながら堂々と君臨し、高橋ひとみさん演じる妻ガートルードを人目も憚らず愛でる姿は、エネルギッシュで野心も色気も感じさせました。



吉田さんと柿澤さんのタッグは2人芝居「スルース~探偵~」、吉田さん初演出の「ブラッド・ブラザーズ」を観ていますが、今後もどんな化学反応を生み出すのか楽しみですクローバー



白洲迅さんが若々しく真っ直ぐな人柄のハムレットの親友ホレーシオ役を好演。ハムレットの恋人オフィーリア役の北香那さんは前半のまだ幼く純粋無垢な少女からの狂気の演技は圧巻でした。



オフィーリアが手にしている黄色いミモザがモノトーンの舞台に唯一華やかさを添えていますが花言葉は〈秘密の恋〉。ラストに天井からミモザの花束が落ちてくる演出は蜷川さんへのオマージュ…。



蜷川さんから吉田さんがバトンを受け取ったように、気が早いですが次世代が生まれるのかも注目の新シリーズ〈彩の国シェイクスピアシリーズ2nd〉第1弾「ハムレット」は今月26日まで音譜