命で奏でる輪舞曲 | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

命で奏でる輪舞曲

ヴァイオリンの新技法や超絶技巧があまりにも常識の範囲を超えていたため〈悪魔に魂を売った〉とまで言われていたヴァイオリニストのニコロ・パガニーニ。


そんな彼が本当に悪魔と取引をしていたという大胆な発想で創作された劇作家・藤沢文翁さんによる朗読劇をミュージカル化した「CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~」の再演を観劇音譜



苦悩する人間の岐路、つまり十字路に現れる音楽の悪魔アムドゥスキアスを演じるのは唯一無二の歌声を持つ中川晃教さん。血の契約を結んだパガニーニを〈自分が生み出した最高傑作〉と表現していますが



中川さんのアムドゥスキアスこそミュージカル界の最高傑作。歌声だけでなくビジュアルを含めてこの役を演じるために生まれてきたと思わせるほどのはまり役でした。



弱くて愚かな人間には悪魔の囁きが甘美に聴こえてしまうもの。大きな代償を払うことが分かっていながら、契約を結んでしまうのはその魅力に抗えないから…。



「自分には才能がないことが分かるくらいの才能」しかないと誰よりも自分の音楽の才能の限界を知っていて、母親や周囲の期待に追い詰められるパガニーニを演じるのは相葉裕樹さん。



「音楽を愛してるのに音楽に愛されない」とパガニーニの心をえぐるアムドゥスキアス。「私のために私が求めた時に」100万曲の名曲を演奏する音楽の才能を彼に与えます。しかも自らの命を使って奏でることを条件に…。



輝きを増しながらも堕落していくパガニーニを愛おしそうに見守るアムドゥスキアス。その恍惚感の表情はまさに音楽を司る悪魔。中川さんのこの世のものではない存在感に圧倒されました。



一方で喝采を浴びれば浴びるほど孤独を募らせていくパガニーニ。悪魔との契約は貧しい暮らしの中で自分の才能を信じ全てを注いでくれている母テレーザのためでもありましたが、音楽は彼の人生を縛り苦しめるものに。



葛藤する孤高の青年の顔からヴァイオリンを手にした瞬間の全能感など、繊細でありながらダイナミックに踊りながらヴァイオリンを弾く相葉さんのパガニーニも良かった。



魂を売ったパガニーニの前に現れる2人の女性。ひとりは加藤梨里香さん演じる流浪の民の少女アーシャ。パガニーニの純粋なファンで度々楽屋に忍び込び「劇場猫」と罵倒されながらも懲りずに現れます。



天真爛漫で太陽の匂いのする彼女にいつのまにか心を許すパガニーニ。音楽は人を差別せず「私に自由の翼を与えてくれる」と話すアーシャは彼にとって一筋の光に。



フランス皇帝ナポレオンの妹エリザを演じるのは元榮菜摘さん。兄に取り入るために自分に群がる人間を軽蔑する彼女もまた孤独な魂を持つひとり。そんな心の隙に忍び込むアムドゥスキアス。



「音楽の奴隷になれ」とパガニーニと出逢うように仕組まれ、彼を破滅に導く運命の女性〈ファム・ファタル〉に。後押しをすればするほど彼の命が削られていくことを知らないエリザはただ彼を愛しただけ…。



母テレーザを演じるのは春野寿美礼さん。彼女の過剰な期待がパガニーニの破滅の一因でもありますが「母親だから分かる」という息子の才能を信じる絶対の自信と無償の愛は揺らぐことはなく



パガニーニの演奏を隣同士で聴く〈悪魔対母親〉の場面でも、テレーザはアムドゥスキアスの囁きに惑わされることはなく、音楽の悪魔さえもたじろがせます。



パガニーニの執事アルマンドは私が観た回は山寺宏一さんでしたが、どんなに悪評が立ってもパガニーニに忠実に尽くし、時に厳しくもありますが父親のような慈愛を持って包み込む懐の深さを見せてくれました。



悲壮なやりとりが多い中で、パガニーニやアーシャと軽妙なやりとりで笑いを誘うのもさすがでした。アルマンドの前ではパガニーニもただの青年になれたのは唯一の救い。



引き返すことの出来ない道を進むことを自ら望んだパガニーニ。ただ心まで支配されていたわけではなく、母への愛と純粋に音楽を愛する気持ちが彼の中に残っていたことが最後に選んだ曲から分かります🍀



人と悪魔が命で奏でる輪舞曲「CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~」は日比谷シアタークリエにて5月12日(日)まで上演しています音譜