天晴れな歌舞伎役者 | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

天晴れな歌舞伎役者

藤原竜也さん主演の舞台「中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~」を東京建物 Brillia HALLにて観劇。大好きな花組芝居の役者さんが何人も出ていて大活躍で嬉しい限りラブラブ



中村仲蔵は一代で仲蔵の名を大名跡にした江戸時代中期に実在した人物。血筋がモノを言う厳しい階級社会の江戸歌舞伎界で、努力と才覚そして不屈の精神により、まさに"下剋上"を成し遂げた歌舞伎役者。



仲蔵の登場シーンで和太鼓のパーカッションに合わせて流れていたのは迫害の歴史から生まれたとされるフラメンコのカンテ。苦悩や悲しみ、生きる喜びや愛など喜怒哀楽を歌い上げる心揺さぶるカンテはスペインの伝統芸能です。



底辺から這い上がった仲蔵の苦悩と演じる喜びを表現するのにピッタリでしたし、日本の伝統芸能である歌舞伎との融合はお見事。ちなみに歌っているのはエル・プラテアオさんです音譜



14歳の時に舞台「身毒丸」で蜷川幸雄さんに見い出された藤原さん。劇中に「灰皿投げないで下さい」という蜷川さんへのオマージュを込めた台詞がありましたが、愛情を持って厳しく育てられたエピソードは誰もが知るところ。



もがき苦しみながら役者としてここまで這い上がってきた藤原さんと中村仲蔵が重なって見えましたし、今の藤原さんだからこそ演じられる役だと思いましたクローバー



「やりてえ芝居が出来ないなら、死んだ方がマシだ。」仲蔵の台詞ですが、苦しくても孤独でも舞台に立ち続けるのは、やりたい芝居をするためであり、演じる喜びを知ってしまった役者の宿命なのかもしれません。



木組みの大きな3階建のセットはそのまま役者の楽屋になっていて、階級制度が目で見てわかる仕掛けに。下から稲荷町、中通り、相中、名題と上がっていきます。



血縁ではないのに下っ端の稲荷町から座頭に上り詰めたのは、仲蔵と幕末の市川小團次の2人しかいないそう。振付師だった養母に引き取られた孤児の仲蔵。



幼い頃から厳しく養母から踊りを仕込まれていましたがその腕前を披露する場はなく、座頭の中村伝九郎の元で下働きをしていました。



そんな仲蔵の才能に目を付けた高嶋政宏さん演じる四代目市川團十郎が、彼を引き立てようとしますが厳しい序列がある歌舞伎界。



「俺達はどんなに頑張っても出世は出来ないんだよ」と嫉妬に駆られた同部屋の役者仲間から蹴られ殴られ「楽屋なぶり」に遭い、思い詰め川に飛び込み死のうとする仲蔵…。



市原隼人さん演じる侍の酒井新左衛門に助けられ命を取り留めますが、病の母を看病するためと1度は芝居の道を断念。ただ歌舞伎への未練を断ち切れないことを見抜いた母に説得され



1度は死んだ命なんだから、どんなことをしても芝居を続けると覚悟を決めた仲蔵は、再び芝居の世界に戻っていきます。



市原さんは他にも初代市川八百蔵役も務めていますが、全く演じ分けていない!?のも市原さんらしかったですが、楽屋ではずっと大きな声で台詞の練習をしていたそうです。



パンプアップさせた筋肉を惜しげもなく披露するシーンもありましたし、毎日撥を持って鏡を見ながら練習したという三味線の響きも素晴らしく



花組芝居の役者さんによると素人があそこまで弾きこなすのは難しいそう。死ぬ気で頑張ったという市原さんの役者魂を感じさせる三味線の生演奏は必見です音譜



良い味を出していたのは、芝居小屋の奈落に備え付けられた神棚に棲みついている神様コン太夫を演じる池田成志さん。「見える人にだけ見える」存在のコン太夫が見えるのは團十郎と仲蔵だけ目



第二幕で見事な「外郎売」を披露した仲蔵。一緒に出ていた花組芝居の役者さんに聴いたところ千秋楽まで、なんと藤原さんは1度も噛まなかったそうですおーっ!



他にも4代目市川團十郎の舞台で台詞を忘れてしまった仲蔵が、とっさに機転をきかせて團十郎のそばににじみ寄り「台詞を忘れました」と耳元で囁いたというエピソードも。



たった5年で名題役者に上り詰めた仲蔵を貶めようとしている立作者の金井三笑により、「仮名手本忠臣蔵」で割り当てられたのは台詞がたった一言しかない斧定九郎。



名題が務めるような役ではなく稽古でもあれもダメこれもダメと金井から演技を封じ込められてしまう仲蔵。黙って従うわけはなく自分らしく工夫しようと悩む仲蔵の前に現れたのが



黒羽二重の単衣に朱鞘の大小を差した 1人の浪人。蛇の目傘は破れていて月代も伸び落ちぶれてはいますが、背筋はピンと伸び凛とした佇まいで、濡れた着物の袂をゆっくり絞って雫を切る粋な姿にこれだビックリマーク閃いた仲蔵。



この浪人は実は命の恩人の新左衛門。落ちぶれているはずなのに、はだけた胸元が逞しいのはご愛嬌ウシシ破傘の斧定九郎は喝采を浴び、以来斧定九郎と言えばこの演技が定番となったそう。



この劇中劇で定九郎に殺されるお軽の父親与市兵衛役を演じているのが花組芝居の原川浩明さん。ちなみにセットの移動から藤原さんの化粧や白塗りも担当していて大活躍クローバー



ラストは市川團十郎の引退興行。歌舞伎界の理不尽さを最後まで表すように口上に仲蔵が呼ばれないことを仲間がやいのやいの言いますが、お祝いのために三番叟を踊る仲蔵。



仲間に混じりいつの間にか誰よりも自分の才能を信じていてくれた今は亡き養母の姿が。誰のために演じるのか、それは中村仲蔵を観に来てくれるお客様のため…。



先は見えなくとも真っ直ぐに伸びた芸の道を歩み続けた天晴れな歌舞伎役者の人生を描いた「中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~」今月末まで地方で上演中です音譜