時代が証明する
福岡で開催された第20回日本臨床腫瘍学会が主催する市民公開講座のお手伝いをしてきました。この学会はがんの薬物療法を専門に行う医師を認定しています。
2000年始めから海外では普通に使われている抗がん剤が日本では承認されていないドラッグラグの問題を取材していた私にとっては実は縁のある学会です。
20年前の日本のがん治療は手術が中心で抗がん剤治療を専門に扱う医師は存在せず、主治医である外科医がそのまま薬物療法を担っていました。
取材を通してアメリカでは外科医しかメスを持てないように、薬物療法が出来るのは腫瘍内科医だけと決められていること、そして日本の医学部には腫瘍内科学の講座がないことも知りました。
手術以外の選択肢が必ず認められ必要とされる日が来ると確信した私は、ドラッグラグを解消するために命をかけて活動をしているがん患者さんと医師を追い続けました。
がんと共に生きる会の会長の佐藤均さんは進行した大腸がんで、今では当たり前に使用されているオキサリプラチンという抗がん剤の承認を求めていました。
同時に故郷の島根大学病院に腫瘍内科を設置して欲しいと嘆願した佐藤さんに、島根大学の院長は「あと10年待って欲しい」と回答。この時すでに佐藤さんの余命はあとわずかだということが分かっていました。
残念ながらオキサリプラチンが承認されたのは佐藤さんが亡くなった後でしたが、佐藤さん達の活動により未承認に関する検討会が立ち上がり、がん対策基本法も施行されました。
自分には薬が間に合わないことは分かっていた佐藤さん。それでも闘い続けたのは「心のタスキを会員ひとりひとりが大切に繋いで行って、日本のがん医療を変えて行くため」
がんと共に生きる会の活動は佐藤均さんの奥様である愛子さんに引き継がれています☞
市民公開講座で講演をした東京大学の腫瘍・総合内科教授の朴成和先生の専門は消化器で胃がんの薬物療法の最新治療について解説してくれました。
胃がんに対する薬物療法もこの20年で少しずつが進歩しています。大腸がんで承認されたオキサリプラチンが胃がんにも適用になったのは2015年。さらに2020年に免疫チェックポイント阻害剤が認められました。
また細胞の増殖に関わるタンパク質のひとつ〈HER2〉という遺伝子が、乳がん、胃がん、胆管がん、肺がんなど様々ながんで増えるということが分かっています。
このHER2遺伝子を持つ患者さんに効果のある薬剤が開発されていて薬物療法は新たなステージに入っています。これまで臓器別に同じ治療が行われてきましたが
こうしたバイオマーカーを調べることにより臓器別ではなくがんのタイプに合わせた、最も効果の高い薬物療法を選択するという個別化治療へと変わりつつあります。
20年以上前にドラッグラグを取材していた時は、報道局の仲間にもなかなか理解してもらえませんでした。それでもがん治療はひとりひとりに合わせて治療をする時代が来ると信じていました。
学会が立ち上がる前は日本には数えるほどしたいなかった〈がん薬物療法専門医〉は現在約1600人とのこと(2022年現在)。
がんと診断される人は年間100万人いますので、まだまだ腫瘍内科医の数が日本では足りていないのが現実です。
先日、国立がん研究センターが希少がんの治験をオンラインで実施すると発表しました。つまり地方在住の患者さんが東京に来なくても治験に参加できるようになるということ。
まだスタートしたばかりですが、なんとこのオンライン治験が受けられる病院のひとつに島根大学医学部附属病院が入っていました。
時間はかかりましたが佐藤さんの希望が叶い私も感無量でした。がん医療がより良い方向に変わっていくようにこれからも伝え続けていきたいと思います🍀