新たな物語の誕生 | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

新たな物語の誕生

尾上松也さんが初演出を手がけた大人気ゲームを原作とした新作歌舞伎「刀剣乱舞〜月刀剣縁桐」期待以上に素晴らしい作品になっていましたビックリマーク



「刀剣乱舞」は名だたる刀剣を擬人化させた刀剣育成シミュレーションゲーム。さすがにゲームはやっていませんが、何年か前に髭切と膝丸を主人公にした2.5次元の舞台を観ていましたキラキラ



「刀剣男士」の役割は歴史を守ること。過去の出来事を変えることにより歴史改変を目論む「時間遡行軍」と戦うというストーリー。



今回の新作歌舞伎で登場したのは「三日月宗近」「小狐丸」「同田貫正国」「髭切」「膝丸」「小烏丸」の6振りです。



流石だと思ったのは幕開けの刀工の三条宗近が三日月宗近を鍛刀するシーンが丁寧に描かれていたこと。舞台にリズミカルに響く槌音。



刀剣が一振一振、丹精込めて作られていたのが伝わる演出でした。ちなみに宗近は平安時代に作られたと言われる国宝にも指定されている天下五剣のひとつ。



そして6人が揃って名乗を上げるつらねはまさに歌舞伎の真骨頂。原作を大切にしながら歌舞伎の舞台に相応しいビジュアルを考えたと話す松也さんが三日月宗近役。



同田貫正国役を中村鷹之資さん、膝丸役を上村吉太朗さんそして小烏丸役を2017年に劇団新派に移籍した河合雪之丞さんが。



何でもありも歌舞伎の良さで、刀の擬人化もなんだかすんなり納得。2.5次元の若手俳優ではなかなか醸し出せない歴史を背負う重厚感が伝わります。



舞台は室町幕府十三代将軍足利義輝が討たれた「永禄の変」。将軍が家臣に殺されるという歴史的事件を歌舞伎ならではの発想で大胆に脚色。



時間遡行軍が企むのは義輝暗殺の首謀者である松永弾正を殺害して、将軍を生きながらえさせて戦国時代の到来を遅らせること。


 

次期将軍の足利義輝を演じるのは尾上右近さんで小狐丸役と二役。妹の紅梅姫を中村莟玉さんがこちらも髭切役と二役。時折り居なくなるという会話をして笑わせるのも歌舞伎ならでは。



弾正を狙った時間遡行軍に襲われている元服前の義輝と妹のピンチを、未来世からやってきた松也さん演じる三日月宗近達が救います。



家臣になってくれないかと願い出る義輝に対して、宗近は私達は誰かに仕えることは出来ないと断りますが、そばで見守ることを約束。



実は三日月宗近は元々は義輝の愛刀で、主の苦悩や人柄を間近で見てきた存在であり、その哀しい宿命を誰よりも知っている刀。



「その時節(将軍になる)は必ず来ます」と義輝に告げる宗近。その言葉通り家臣の松永弾正の助力もあり無事に将軍になり都へ。



宮中で刀剣男士たちが舞を披露する場面もやはり歌舞伎ならではで、台詞がなくとも踊りだけで1人ひとりの個性がキラリと光るのは流石。



一方、義輝に取り入って日の本を我が物にしようと企むのが異界の翁と媼。戦が続く世の中に対する民草の恨みが形になった「禍獣(わざわい)」を使い義輝に呪いをかけます。



呪いによる病を祈祷により治して義輝の信頼を得た果心居士と雲居姫は実は異界の翁と媼。時間遡行軍とも結託した2人は義輝を暴君へと変貌させていきます。


 

そんな義輝を諌めるのが松永弾正の嫡男の松永久直。久直ともう一役の同田貫正国も質実剛健で、鷹之質さんの声の通りもよくはまり役。



危うく異界の翁と媼に陥れられ切り捨てられそうになった所を宗近に助けられる久直。宗近は自分達の正体と役割、そして父弾正が歴史の鍵を握ることを打ち明けます。



運命を背負いし親子は果たしてどんな行動をとるのか。歴史上では悪役のイメージですが今作では主君に尽くすという役目の弾正を演じるのは中村梅玉さん。松也さんのお父さんと同じ歳で仲が良かったそう。



「歌舞伎はその時代その時代で新しいものを作り上げ400年以上が経つ。古典歌舞伎だけが歌舞伎ではない」と新作に参加できて嬉しいと語っています。



そして刀剣男士と時間遡行軍や異界の存在との闘いの場面では、それぞれに見せ場があり大活躍で刀剣乱舞ファンも満足な立回りだったと思います。



刀剣の収集家だった義輝。階段上になっている舞台に突き刺さる無数の愛刀を次々と入れ替えながらアンサンブルを斬り伏せていきます。これは原作にもあるそうです。



禍獣を打ち破り呪いから解き放たれた義輝ですが、歴史を変えることは許されず宿命に従わなければなりません。その役目を果たすのは三日月宗近。。。



回り舞台を活用した一騎打ち。残酷な運命に向き合った右近さんの義輝と松也さんの宗近。切なくも美しい凛とした最後でした。



さらに秀逸だったのは闘いを終え刀剣男士が未来世に戻った後の演出。真っ暗な舞台上に静かに備えられた名刀の刀身の姿が。



「古典もかつては新作だった」まさに松也さんの言う通りで、原作を活かしながら見事に歌舞伎と融合させた新たな物語の誕生の瞬間に立ち会えましたクローバー



新作歌舞伎「刀剣乱舞〜月刀剣縁桐」は新橋演舞場にて今月27日まで上演しています。ぜひ劇場でご覧下さいキラキラ音譜