出来ないに価値がある
分身ロボット「OriHime」の開発者の吉藤オリィさんと重度障害者を支援するアプリケーション「EyeMot(アイモット)」を開発した伊藤史人先生が登壇。
島根大学総合理工学部の伊藤先生が開発した「アイモット」は視線入力をゲームをしながら練習できるツールで、無料公開されていて全国のほぼ全ての特別支援学校で導入されています。
テクノロジーがコミュニケーションを可能にした事例を伊藤先生は紹介してくれました。重度障害のために周囲の人達は何も出来ないと諦めていて、ほとんど授業を受けていなかった小学6年の女の子。
ですが「アイモット」を使うと眼球運動は可能で認知度も高いことが判明。「実は本人は分かっていた」ということがコンピューターにより可視化されたのです。
「この子は理解している」とそれまでお母さんは思っていましたが、テクノロジーがその信じていたことを証明。客観化できたことで周囲がその人の可能性を信じられたと伊藤先生。
身体が動かせなくなっていたALSの女性はアイモットにより、視線入力を使ってまだまだやれることがあることが分かり
元気な頃にやっていた株取引を再開したり娘さんとLINEでやりとりしたり、さらに自分でヘルパーの事業所を立ち上げてお金を稼げるように。
ALSなどの難病や脊髄損傷、そして脳卒中の後遺症で言語障害になった私の母もそうでしたが、身体の自由を奪われること以上に辛いのは自分の意思が伝えられないこと。
もちろん1番もどかしいのは本人ですが、コミュニケーションが取れない家族もまた悩みを抱えています。伊藤先生が開発したアイモットにより
本人と家族が楽しみながら可能性を伸ばし未来を描けるようになることにも大きな意味や価値があり、お母さん支援にも繋がっています。
分身ロボット「OriHime」を開発した吉藤オリィさんが目指すのは〈人類の孤独を解消すること〉自身も小学生から中学生まで引きこもりを経験しているオリィさん。
重度障害だけでなく引きこもりや介護で外に出られないお母さんなどが自宅にいても「OriHime」を通じて働けたり社会参加することを可能にしています。
「OriHime」の特徴は自立型のロボットではなくあくまでも動かすのは人間であること。利用者を〈パイロット〉と呼んでいます。
「身体が動かなくなった時にどうやって働くか」は自分自身の課題でもあるとオリィさん。ですのでこれまで出会ってきた患者さん達は〈ねたきりの先輩〉だと言っていました。
「何も出来ないことは価値になる」とオリィさんは指摘します。何故ならその〈出来ない〉は裏返せば社会のニーズであり、課題を解決することで次の人の〈出来る〉に繋がるから。
日本橋に「分身ロボットカフェ」をオープンし「OriHime」を遠隔操作する働き方をすでに社会実装しているオリィさん。たまに体調が悪い時は自分もOriHimeを使い講演しているそう。
アイモットやOriHimeは当事者の困り事を知り解決しようと開発されました。「あったら良いな」という希望を叶え「出来る」を発見し可能性を広げてくれるテクノロジー。
オリィさんの言うように〈出来ない〉に価値がありイノベーションの源になっています。当事者の声なくしてイノベーションもソーシャルワークもスタートしませんので
大事なことは難病だから障害があるからと諦めないこと。人間の意識が変われば必ず他者も環境も社会も変えることが出来るとオリィさんと伊藤先生が実証してくれています。
私の母は残念ながらテクノロジーの進化に間に合いませんでしたが、だからこそどんな状態であっても生きることを諦めない社会をみんなで創っていきたいと強く思いました