彼らが希望の光 | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

彼らが希望の光


新国立劇場にて世界中で愛される「ピーターパン」の誕生秘話を描いたミュージカル「ファインディング・ネバーランド」を観劇してきました。



ジョニー・デップ主演の映画「ネバーランド」を観た方もいると思いますが、2015年にブロードウェイで上演されたミュージカルの日本版です。



2019年に石丸幹二さんが演じる予定だったそうですが諸事情で中止に。今回満を持しての上演で「ピーターパン」の生みの親の劇作家ジェームズ・バリ役を演じるのは山崎育三郎さん。



舞台は19世紀後半のイギリス。新作しかもヒットする作品を求められるもスランプに陥っていたバリ。ある日公園で海賊ごっこをしている未亡人シルヴィアとその4人の子供達と出会います。



自分の舞台を観てくれているシルヴィアに次回作の構想を話すも先を読まれてしまい、これまでと変わらないありきたりのストーリーを書いてしまっていることを突き付けられます。



夫を亡くし女手ひとつで4人の兄弟を育てるシルヴィアを濱田めぐみさん。大変なこともあるはずですが、微塵も感じさせない母親の強さと、子供達を包み込む慈愛に満ちた魅力的な女性を熱演。



実は山崎さんと濱田さんが共演するのは初めてとのこと。少しお姉さんの濱田さんの隣に並ぶパートナーとして恥ずかしくないくらいには成長できたかなと



山崎さんは話していましたが素敵なカップルでしたし、なんと言っても2人の素晴らしい歌声が織りなすハーモニーが神々しいほど美しくずっと聴いていたかった。



想像力豊かなシルヴィアの子供達と触れ合うことにより、かつては自分も空想の世界で自由に遊んでいたことを次第に思い出していくバリ。



「自分が12歳で初めてステージに立った時のことを思い出したり、改めて自分にとって一番大切なものに気づかされた」と山崎さんもインタビューで語っていましたが



想像の世界では公園は湖になり、人魚が優雅に泳ぎ、犬は熊に変身する。。。「僕達はいつもやっているよ」1番小さなマイケルの言葉にハッとさせられるのはバリだけではないはず。



当時は演劇は上流階級だけのものとされ子供向けのファンタジーなんてもってのほか。武田真治さん演じる劇場主のフローマンや劇団員達からは大ブーイング。



悩めるバリを癒してくれるシルヴィアの子供達の中で、「公園はただの公園だよ」と冒険ごっこをする兄弟を冷めた様子で見ている三男のピーター。



「いつ大人になったの」とバリに問いかけるピーターは、父親を亡くしてから〈大人〉になろうと無理をして無邪気さを封印し純粋な心を閉ざしていました。



「大人になりきれないバリと大人にならざるを得なかったピーター」対話を重ねることでバリは冒険心や遊び心を、ピーターは子供らしさを取り戻していきます。



そして実はバリにも大人にならざるを得なかった出来事が。お兄さんが13歳で不慮の事故で亡くなり、その深い哀しみから母親は立ち直れずにいました。



自分を見てくれない淋しさや母親の中で永遠に子供のままの兄。「僕はあの時に大人になった。。。」ピーターパンは大人になりたくない大人ではなく



大切な人を失くし大人にならざるを得なかった経験をしている子供や大人になれなかった兄弟が投影された姿。バリやピーターの気持ちが痛いほど伝わってきて心震えました。



子供の頃からバリが心に描いていた〈ネバーランド〉バリの背中を押したのはそんなネバーランドの住人でありバリの一部でもあるフック船長。



帆を張った公園のベンチは海賊船に変身。勇気を出して新たな船出を決心するシーンは、まさにバリのイマジネーションの世界を具現化したもの。



フック船長を演じるのはフローマン役も務める武田さんで全く違うキャラクターの二役を。ミュージカル「ピーターパン」でもフック船長を演じた武田さん。文句なしのハマり役でしたが



「ピーターパン」の上演にはじめは反対するも「〈演劇〉も〈遊び〉も同じPLAYだ!」とバリを全面的にバックアップし成功の立役者となる



老獪なフローマンも、武田さんのミュージカル俳優としての覚醒を目の当たりしたと感じるくらい素晴らしい演技でした。



そして「夢見る力」や「信じる力」を思い出させてくれた2チーム8人の子役達。伸び伸びと舞台を飛び回る彼らを見て



車椅子生活になった母と一緒に「アニー」を観に行った時に、子役の演技に触れ母が号泣した場面がふと蘇りました。今を懸命に生きる彼らこそ希望の光。



4人の子供達はさらなる哀しい別れを経験しますが、そのそばにはバリが寄り添っていました。〈ネバーランド〉はこの世では逢いたくても逢えない人がいる場所。



お互いに心に傷を抱えながらも、大人の中の子供の部分と子供達の中の大人の部分を共鳴させ、前を向いて歩いていくバリとピーターの姿に勇気をもらいました。



自分に嘘をつかずに素直に生きていきたいと思わせてくれるミュージカル「ファインディング・ネバーランド」は来月5日まで上演しています音譜