歴史を記憶する。。。
佐渡吟行2日目は「黄金の国ジパング」と謳われていた日本の中で、徳川江戸幕府の財政を支える重要な金山だった〈佐渡金山〉へ。
最盛期には1年間に金400㎏、銀40t以上が発掘された佐渡金山の歴史は古く、開山は江戸時代の1601年、1989年に閉山するまで388年間採掘が続きました。
坑道の総延長は400㎞になるそうですが、江戸時代初期に手掘りで作業をしていた〈宗大夫坑〉と、明治時代以降に開削された〈道遊坑〉の2つの坑道跡が見学できます。
江戸時代の〈宗大夫坑〉には採掘風景を再現した約70体の人形が設置されていて当時の様子がリアルに伝わってきます。
20㎝ほどの鑽(たがね)と鎚を使って手掘りで鉱石を掘る職人は「金穿(かなほり)大工」と呼ばれ、1日に掘り進められるのはわずか10㎝。1本の鑽は2日でダメになってしまったそう。
今はライトアップされていますが、江戸時代は松蝋燭や紙燭しかなく、わずかな灯りを頼りに石粉が舞う中での作業は危険を伴っていたことは言うまでもありません。
また金を掘る作業は「水との闘い」と言われ、坑道の中の水を排水する作業が重要でした。それもそのはずで海水面よりも深い所まで坑道は続いていて、掘れば掘るほど地下水が湧いてきたから。
排水作業を怠ると採掘が出来なくなりますので、「水上輪(すいしょうりん)」と呼ばれる水を汲み上げるポンプが1653年にはすでに使われていたそう。
この水上輪をいくつも繋げて深い坑道から水を汲み上げて外に排出する作業は、24時間休むことなく続けられたと案内に書かれていました。
この作業をする人は「水替人足」と呼ばれ始めは各地から募集されていましたが、人手不足が深刻になり、江戸などから「無宿人」と呼ばれる人が島送りにされ働かされました。
無宿人とは江戸時代に経済的困窮により無宿となり戸籍から名前が外されてしまった、主に年貢を納めることができなくなった貧窮農民などの人達のこと。
水替人足の作業は一昼夜交代制の厳しい作業で、1778年に初めて無宿人が佐渡金山に連れて来られてから、幕末頃の1861年までに1876人の無宿人が作業に従事したという記録があります。
10年働けば帰ることが許されたそうですが多くの人が2〜3年で命を落とし、10年間働いて生きて佐渡を出ることができたのはわすが1割。無宿人として佐渡の地に葬られた人々の小さなお墓もありました。
坑道の最後に佐渡金山で行われていた「やわらぎ」と呼ばれる神事芸能の様子も再現されていました。この「やわらぎ」は大きな金の鉱脈が見つかった時に行うもので
山の神様の気持ちを和らげ少しでも岩盤が柔らかくなるようにと願う儀式のこと。現実的にはいくら願っても石は柔らかくならなかったと思いますが。。。
そして坑道の外にはまるで斧で2つに割ったように見える〈道遊の割戸〉が。青々とした緑に包まれていても山が裂けているのがはっきりと分かります。
江戸時代に手作業による採掘で山をも砕き、巨大な岩肌を露出させた異様な姿からは、人間の執念や金への執着が伝わってくるようでした。山頂部の割れ目は幅約30m、深さ約74mにも達するそう。
少し高台に移動した場所から見えるのは古代ローマ遺跡のような「北沢浮遊選鉱場跡」と「シックナー」。大きなコンクリートの池のようなシックナーは選鉱を経て金銀の含有量が少なくなった泥鉱を
さらに鉱物と水に分離するための施設で現在も残っているのはこの1基だけ。かつては大小様々なシックナーが存在していたそうです。
「佐渡島の金山」は世界文化遺産への登録を目指していますが、戦時中に朝鮮人が強制的に働かされていたと韓国から非難の声が上がっています。
国は強制ではないと否定すると共に、登録理由は世界中の鉱山で機械化が進む中で、江戸時代の伝統的手工業による生産技術や高度な金生産システムが産業遺構に相応しいからとしています。
ですがその伝統的と表現する江戸時代の手作業を含めて、近代になっても多くの人達が過酷な環境の中で鉱山労働に従事したことは、今も残る坑道後や様々な歴史資料により明らかです。
世界文化遺産は多様であり核兵器の使用、大量虐殺、強制労働など人類が2度と繰り返してはならない普遍的な重要性を有するものも登録されています。
世界遺産への登録を目指すならば負の側面も含めて幅広い歴史的、文化的背景をきちんと示した上で、「歴史を記憶する」遺産としても存在価値があると国際社会から認められる必要があると感じました。
坑道を出ると真っ青な初夏の空が広がっていました。間歩(まぶ)と呼ばれた暗く酸素も薄い坑道で作業をしていた人達は、果たしてこの空をどんな思いで見上げていたのでしょうか。そんな佐渡金山にて。。。
〈踊子草 無宿の墓に 寄り添いて〉
〈光なき 間歩に槌音 病葉(わくらば)よ〉
〈旱空(ひでりぞら) 鑽(たがね)一打ち 山砕く〉
思い立ったら今年は旅に出よう〜佐渡吟行ラストへ続きます