もし夢が叶ったら。。。
細いストライプの入った白いスーツをスマートに着こなす坂本さんが演じるのは主人公のハロルド・ヒル教授。
マーチングバンドの先生のふりをして、大量の楽器や制服などを売りつけ、お金を持ち逃げする詐欺師。
舞台は1912年のアイオワ州の田舎町リバーシティ。大きくプロフェッサーと書いてある革の鞄も胡散臭く、街に到着したヒル教授は早速ビリヤードに目を付け
「ギャンブルの要素が大きく子供達に良くない。健全な少年少女の育成には音楽が必要なのでブラスバンドを作りましょう」と呼びかけます。
頑固で偏屈者のリバーシティの住民は始めは扉を固く閉じていますが、次第にヒル教授の口車に乗せられて、大人から子供までみんなその気になっていきます。
唯一、彼を怪しみ心を許さないのは花乃まりあさん演じる図書館の司書でピアノ教師のマリアン。生真面目で男性を寄せ付けない潔癖な女性。
かつての仲間で今は足を洗ってこの街に住んでいるマーセラス役を元純烈の小田井涼平さん。大柄な小田井さんは舞台に立つだけで存在感がありました。
市民の心を掴んでいくヒル教授を排除しようとする町長を六角精児さん。六角さんの方が胡散臭い気がしますが、坂本さんのように心にスッと入ってくる人だから詐欺師として一流なのかと妙に納得。
1985年の日本初演でマリアンの母役を務めていた森久美子さんが町長の妻ユーレイリー・マッケクニー・シン役を。六角さんとの掛け合いはまるで夫婦漫才。
「ヒソヒソ、コソコソ、ピーチクパーチク」と町長夫人を中心にゴシップが大好きな奥様達が歌う場面は癖になる面白さ。
ヒル教授の身元調査を命じられた部下達もいつもヒル教授に巧みに誤魔化され、カルテットで気持ち良く歌っている間に、お決まりのようにヒル教授に逃げられる始末。
詐欺師なので実際は楽器の演奏も楽譜を読むことも出来ないヒル教授は、子供達に「音符なんか気にしなくていい」と
頭の中で音楽を奏でる〈シンクシステム〉というもっともらしい練習法を伝授します。そんなヒル教授を最後まで疑っていたマリアン。
ゲイリー音楽院を卒業したという嘘も実は最初から見抜いていましたが、話すことが苦手で家族ともあまり会話をしなかった弟のウィンスレップが
新品の楽器を手に大喜びしヒル教授に心を開いていく様子を見て、いつのまにか自分も彼に惹かれていることに気づきます。
街のみんなが彼の話術と音楽の魅力に心惹かれ、楽器を載せた馬車が街に来るのを心待ちにするように。
そんな街にヒル教授のせいで商売上がったりのセールスマがやってきて、ヒルの正体をばらす手紙を町長に渡し詐欺師であることが知られてしまいます。
市民から激しく糾弾されてしまうヒル教授。ですが彼のおかげでリバーシティには活気が溢れ、人々が音楽やダンスを楽しむようになったと必死に訴えるマリアン。
嘘をついて人に叶わぬ夢を見させる詐欺師。ですがもしその嘘が真になり夢が叶ったら。。。目の前に広がる景色に1番驚いていたのはヒル教授自身かもしれません。
人の心を動かすミュージックの魅力満載の「ザ・ミュージック・マン」は日生劇場にて5月1日まで上演しています