それって正しくない! | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

それって正しくない!

トニー賞をはじめ世界各国で賞を受賞しているミュージカル「マチルダ」を観劇。原作は「チャーリーとチョコレート工場」でも有名なイギリスの作家ロアルド・ダール氏の「マチルダは小さな大天才」です。



主役のマチルダ役を演じるのは1000名以上が参加したオーディションを勝ち抜いたまさしく〈天才少女〉の4人。



自分で生んだ子どもを我が子と思えず子育てよりも社交ダンスの方が大事で娘を虫けら呼ばわりする母親。女の子は見た目が全てなのよと言ってのけます。



また中古車販売を生業にしている父親はマチルダの前で詐欺の話を平然とするダメ人間。さらに娘なのにマチルダを"ぼうず"と頑なに呼び



人を騙すのは「正しくない!」とはっきりと口にする娘にお前は馬鹿だなどと口汚く怒鳴りちらします。マチルダの才能に全然気づかない彼らの方がよっぽど愚か。



母親役は元宝塚トップスターの霧矢大夢さんと大塚千弘さん、父親役は体調不良でお休みしている田代万里生さんの代役で斎藤准一郎さんとトレンディエンジェルの斎藤司さんがWキャスト。



母親はショッキングピンク、父親はグリーンと毒々しい色合いで、2人が吐き出す耳を塞ぎたくなる罵詈雑言と共に〈毒親〉を表しているよう。



そんな両親から冷たく扱われ酷い仕打ちを受けてもマチルダはめげません。自分の部屋に戻って歌うナンバー「ちょっと悪い子」の



〈人生が不公平なら我慢より行動しなきゃ〉

という歌詞は子供だけでなく私達大人の胸にも鋭く刺さります。父親への小さな復讐も小気味良い。



マチルダが通う学校の校長先生ミス・トランチブルもマチルダの両親を上回る偏った大人。かつてハンマー投げのオリンピック選手で常に厳しい規則を守ってきた自分こそがルール。



子供達に対して厳しいお仕置きをするだけでなく、おさげ髪が気に食わないなど何もしてないのにイチャモンをつける理不尽さ。そんな怪物トランチブルに支配される学校はまるで監獄のよう。



ミス・トランチブル役はトリプルキャストで「北斗の拳」「メリー・ポピンズ」で好演していた小野田龍之介さんと大貫勇輔さんの回を観劇。



好青年だったり正義の側にいたこれまでの役柄のイメージを覆す本当に最低の教育者を2人とも見事に演じていました。



ハンマー投げで鍛えた大きな身体と卑屈な表情を浮かべながら子供達を従えて歌う姿は怖いけれど滑稽で学校だけでなく劇場全体を支配する小野田トランチブル。



高い身体能力を生かした華麗なリボン体操を魅せる大貫トランチブルはジワジワと怪物感が増していき怖かった。この人も屈折したまま大人になってしまったのかなと思わせます。



そんな非常識な大人だらけの中で唯一良心的存在でマチルダの良き理解者となる担任の先生ミス・ハニーを演じるのは昆夏美さん。



マチルダの才能に気づいたハニー先生は一大決心をして校長に最上級生のクラスに飛び級させた方が良いと提案しますが



マチルダは問題ばかり起こす悪ガキだと父親から聞いているし「例外は一切認めません」と申し出を一蹴されてしまいます。



校長室の扉を勇気を持ってノックする場面でハニー先生が見せる戸惑いにより、ミス・トランチブルの恐ろしさが際立ちますし



意を決しないと意見を言えないのは2人の関係性が影響していたことが後に分かります。そしてハニー先生も幼少期に辛い経験をしたことも。。。



マチルダ役が力量を発揮するのがいつも通っている図書館での場面。話し相手にもなってくれている司書のフェルプスに空想の物語を語るマチルダ。



私の観た回のマチルダは寺田美蘭ちゃん。彼女が語る世界一有名なサーカス団の脱出名人とアクロバットが恋に落ちる物語に引き込まれました。



2人は愛と名声も手に入れ幸せに見えましたが1番の望みである子供が授からず。。。子供のマチルダが創作しているとは思えないほどリアリティがあり



ハッピーエンドではないストーリーですが実はマチルダの味方になってくれているハニー先生と繋がっていて結末は舞台を観てのお楽しみ。



この場面でハッとさせられるのは親身になってくれるフェルプスに自分の親は善い人で愛されているとマチルダが嘘をつくこと。



物怖じせずに大人の間違いを指摘す賢いマチルダはまだ5歳。幸せな家族と偽る時の彼女の気持ちを考えるとあまりにも切ない。



親の悪口を他人には言わず、自分の境遇を上手く説明できない姿にやはりまだ5歳の子供なんだなと考えさせられます。



子供達が大人になったら叶えたい夢を歌うナンバー「いつか」。子役の中に体格の良い大人のキャスト(ギダルト)が混じって演じていますが、舞台上の4つのブランコを思い切り客席の方まで漕ぎ出し迫力満点。



はっきりものを言うマチルダに勇気をもらった生徒達は「もう言いなりにはならない」と暴力と恐怖で自分達を支配してきたトランチブルと戦うことを決意するシーンは聴き応えあり。



ブラックユーモアに溢れ風刺に満ちた台詞の数々。アフタートークでマチルダが母に向けて言う言葉には「本当に馬鹿ね」という想いが込められていたと母親役の霧矢さん。



また昆さんは日毎に成長する子供達は子役ではなく立派な俳優だと絶賛していました。そしてヒール役のトランチブルを演じた小野田さんは



相手は小学生だけれどもみんなヤンチャで一筋縄でいかない部分があり、自分なりの正義を貫くトランチブルはただ意地悪なわけではないと話していました。



アルファベットや音符が書かれた大小様々な積み木を組み合わせた舞台セットは想像力豊かなマチルダの脳内を表しているよう。照明の色が変わるごとに違った表情を見せます。



本を読むことが大好きなマチルダが紡ぐ物語の根底には「自分の人生を書き換えられるのは自分だけ」という強い想いが反映しています。



小さな体で「それって正しくない!」と叫ぶマチルダは決して無力ではなく自分の未来を切り拓いていく姿が本当に逞しいです。



私が小さな頃に舞台に触れる機会がありチャレンジする選択肢があったらなぁ。。。子役が活躍する新たなミュージカルの誕生ですし親子で楽しめる作品です。



マチルダと彼女を温かく見守るハニー先生の物語のエンディングはどうなるのか。日本初上演ミュージカル「マチルダ」は東京シアターオーブにて56日までクローバー