まさに時は来た! | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

まさに時は来た!

東京国際フォーラムにてミュージカル「ジキル&ハイド」を初観劇。今回は2012年から主役を務めてきた石丸幹二さんの「最後の変身」で3代目ジキルを引き継ぐ柿澤勇人さんの「実験開始」という大きな節目の公演。



ご存知の通り小説が原作の「ジキル&ハイド」は鹿賀丈史さん主演で日本での初演は2001年。鹿賀さんがジキルとハイドを初めて演じたのは51歳、石丸さんは46歳の時でした。



学生の時に鹿賀さんの初演を観ていたという柿澤さんは現在35歳。この役は大御所の俳優がやると勝手に思っていたので「まさか自分が演じるとは」とインタビューで話していましたが



科学の力で〈善と悪〉を分離できると自分の研究に自信を持つジキルは、研究に反対する権力者や腐敗した聖職者に対する義憤を抱く若き研究者であり、満を辞しての柿澤ジキルの誕生だと感じました。



石丸ジキルから加えられた原作の小説にはない、精神を病んだ父親を救うために薬を開発するという新解釈。ジキルの研究には彼なりの正義があり信念を貫こうとしますが



やはりジキルの中に「自分の研究を成功させて世界を変えてみせる」という若さゆえの功名心もあったに違いありません。



人体実験を申し出るも神への冒瀆だと病院の理事会で却下されてしまったジキル。親友で弁護士のアターソンがそんなジキルを宥めようと場末の売春宿へ。



そこで出会ったのが笹本玲奈さん演じる娼婦のルーシー。(真彩希帆さんとWキャスト)笹本さんはジキルの婚約者エマも演じていて2018年からルーシーを。



「東京ラブストーリー」でも共演している2人ですが今作で振り回されるのは笹本ルーシーの方。上流階級と下流階級の貧富の差が激しかった時代、ルーシーも抜け出すことの出来ない社会の底辺で喘ぎながら生きる女性のひとり。



「あの人は私に優しかった」は彼女のこれまでの人生を象徴している実はとても哀しい言葉です。身体は求められても本当の愛を与えてくれる人はいなかったことが分かります。



ジキルは人生のどん底にいるルーシーの一縷の希望となりますが、ジキルに惹かれながらもハイドの悪の魔力にも抗えない女としての哀しさを艶やかな表情で笹本さんは演じていました。



またルーシーがジキルを誘惑する「(私を)自分で試してみれば」という言葉が悲劇の始まりだったのも運命の残酷ないたずらか。



そして研究に打ち込むジキルを心から敬愛し支えようとする婚約者のエマをDream Amiさん(桜井玲香さんとWキャスト)



エマはルーシーとは対象的に恵まれた生い立ちの女性ですが、ジキルを非難する周囲の雑音に惑わされることなく、父親に対しても自分の意思をきちんと言葉にするなど



芯のしっかりとした包容力のある聖母のような存在。一途に恋をするルーシーと女性として自立したエマにも見た目とは違う二面性があるのも見所のひとつ。



ジキルの義理の父ダンヴァースを演じるのは栗原英雄さんで、柿澤さんが主演を務めた劇団四季「春のめざめ」ではナレーションを担当していたそう。



「飛躍していく役を見るのは嬉しい」と語る四季の大先輩の栗原さん。舞台ではジキルに振り回され娘の将来を心配する役柄ですが、柿澤さんを見守る気持ちがより伝わってくる演技でした。



そしてジキルの執事プールを演じるのは仲良しの佐藤誓さん。誓さんはPARCO劇場をはじめ本当に色々な舞台で活躍していて嬉しい限りです。



楽曲はドラマチックな音楽で聴く人の心を揺さぶり魅了するフランク・ワイルドホーン氏。彼の曲は「もう声が出ない」というほどキーが高い上に、さらに上をワイルドホーン氏は求めてくると柿澤さん。



限界を超えるからこそ観客に伝わるものになる。まさに全身全霊で歌い上げる自らを実験台にする場面の柿澤さんの「時が来た」は圧巻でした。



ジキルからハイドに変わる瞬間の演技や、ジキルとハイドが交互に現れる場面の表情や声音の演じ分けは本当に見事で鳥肌が立つほど。柿澤ジキルの誕生に立ち会えて幸せでした。



欲望を解放し自由を求め暴走するハイド。ですがジキルから〈悪〉だけが分離されたのではなく、ジキルの中に元々存在していた負の感情が表出しただけ。



何故ならハイドがターゲットにするのは全てジキルを厳しく批判していた人物ばかりであり、ルーシーへの欲望も実はジキルの中に潜んでいたもの。



ハイドがハイドのやり方で正義を貫くということは破滅の道を進んでいくということ。そして自分の中のハイドに気づいたジキルが悪の呪縛から自由になるために選んだ選択は。。。



「悪とは何か。。。」邪悪でドス黒い感情は私の心の中にも確かにあります。自分を認めてくれない人間に対して怒りや哀しみを感じたことは1度や2度ではありません。



善と悪は表裏一体。自分の中に巣喰う悪を意識し直視することで、人間はマイナスの感情に心を支配されないように必死に理性を働かせようとするのではないでしょうか。




ミュージカル「ジキル&ハイド」のバトンを石丸さんから受け取った柿澤勇人さん。柿澤ジキルの実験はまだ始まったばかり。役者としての進化をこれからも見守っていきたいですクローバー