無様でもいいから。。。
「RENT」は死と隣り合わせに生きる中で愛する人に出逢い、喜びや同じ時を分かち合う幸せを知った若者達が〈生〉を強烈に意識し〈今〉を生きる姿を描いた作品。
初舞台から20年以上を経た今も多くの人を魅了してやまない「RENT」〈ニューヨークのボヘミア〉と呼ばれ自由奔放な若者やアーティスト達が暮らす街だったイーストビレッジは様変わりし高級化が進みつつあるそう。
そしてエイズも死に至る病ではなくなり過ぎ去った時代であるはずなのに、セクシャルマイノリティーや人種差別の問題に対する人間の意識が変わらない哀しい現実は今も存在しています。
古いロフトで暮らす映像作家のマークを演じるのは私が観た回は「ジャージー・ボーイズ」でも美しい歌声を聴かせてくれた花村想太さん。
家賃 (レント) も滞納中の貧乏暮らしのマークは登場人物の中でLGBTQでもなく薬物にも手を出しておらずRENTの中では実はマイノリティー。
「一番自由で寂しいキャラクター」だと花村さんはインタビューで話していましたが、常に傍観者であり自分を必要としてくれる人も見つけられずにいます。
ルームメイトで元ロックバンドボーカルのロジャーを演じるのは古屋敬多さん。HIVに感染したことを悲観した恋人が自ら命を絶って以来、心を閉ざすロジャー。
自身もHIVポジティブで死ぬ前にせめて1曲だけでも後世に残る名曲を作りたいとギターを手にとってロジャーが歌う「One Song Glory」
哀愁を帯びた古屋さんのロックな歌声からはロジャーの繊細さと音楽への情熱が伝わってきました。
そんなロジャーの心をノックするミミを遥海さん。2020年がメジャーデビュー、そして「RENT」が初舞台でしたがコロナのために思うように活動できなかったそう。
4オクターブの音域を誇りパワフルで圧倒的な歌声を持つ新たなディーバの誕生を目撃できました。違った個性を備えた2人が歌う「Light My Candle」は素敵でした。
ミミに惹かれながらもHIVポジティブであるために1歩を踏み出せないロジャー。素直になれない2人とは対照的に出会った瞬間に磁石のように惹かれ合うコリンズとエンジェル。
ともにHIVポジティブで常に死の影が隣にある2人。だからこそ今共にいる時間を大切にし真っ直ぐに愛を語りお互いを慈しむ姿は、誰かを想うからこそ人は強くなり優しくなれると教えてくれます。
名前の通り天使のように周りの人を愛で包むエンジェルを演じるのはRIOSKEさん。ドラァグクイーン姿は抜群にキュートで客席からは大きな歓声と拍手が。
またマークの元恋人でパフォーマーのモーリーンとその恋人のジョアンヌ。激しく求め合い愛し合いながらもいつも喧嘩ばかりの2人。パワフルなナンバー「Take Me Or Leave Me」は圧巻。
ブロードウェイ版のエンジェルが亡くなる場面は真っ白なシーツを纏い天に昇っていきましたが、日本版ではコリンズの手によりシンプルな白い衣装に着替えるという演出。
仲間がひとりひとりエンジェルへのメッセージや思い出を語るのを見守りながら静かにフェードアウトしていきます。
ブロードウェイ版は「人は何も持たずに生まれ死んでいく」というメッセージに受け取れましたが、日本版は「肉体は消えても心の中に魂は生き続ける」ということを表しているよう。
HIVや人種差別のリアリティを日本人が理解することは難しくとも、コロナ禍で突然日常が奪われる理不尽さや当たり前が当たり前ではないということを全ての人が経験しました。
リアルに人と集えない2年半あまりの年月。人はひとりでは生きていけない弱い生き物であり、人との繋がりの大切さを改めて痛感させられた時間でもありました。
「52万5600分という1年をどう数えるのか。夜が明けた数?笑った数?それとも愛の数?」2幕目の始めに役者が全員で歌う「Seasons of Love」が強く深く胸に響きます。
「夢を諦めないこと」「今を生きること」が大事だと分かっていても大人になるに従い、言葉にすることも躊躇われるようになり何かを諦めて生きていかざるを得ないのが現実。
キャンドルの火をロジャーに求めたミミ。抱える絶望が大きいほど手の中のキャンドルの小さな炎は闇を照らす彼らの光に。
そしてエンジェルが仲間の生きる力になったように、行く道を照らすのはやっぱり〈人〉なんだと思います。
自分達の弱さを認めながら前に進む若者達のように、その炎が燃え尽きるまで無様でもいいから希望や夢を諦めずに懸命に生きたい。愛する人と。。。
ブロードウェイ版に負けないパワフルでハートフルな歌声を聴かせてくれる「RENT」は日比谷シアタークリエにて4月2日まで上演しています