〈今〉と地続きに。。。 | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

〈今〉と地続きに。。。

2016年に亡くなった蜷川幸雄さんが彩の国さいたま芸術劇場で、1998年にスタートさせた〈蜷川シェイクスピア全37戯曲の完全上演〉のラストを飾る舞台「ジョン王」を観劇。



「ジョン王」は実は第36弾として、20206月に上演予定でしたがコロナ禍のため中止に。第37弾上演が先となり、とりあえずシリーズは完結したはずでしたが



蜷川さんから2代目芸術監督を引き継いだ吉田鋼太郎さんの「ジョン王」をやらなければ完全上演ではないとの強い思いから、仕切り直しの上演が決定したそう。



100年に1度のパンデミックとロシアによるウクライナ侵略。。。当たり前の日常が一瞬にして奪われるという事態に世界中の人が直面し、2年半前に予定していた演出プランを全部見直したと剛太郎さん。



400年以上前に書かれた戯曲で、ほとんど上演されることのないと言われている「ジョン王」ですが、領土を巡り血縁関係の王族同士がお互いに正統性を主張し合い



戦争を繰り広げる愚かな権力者達の姿は、羅針盤なき為政者が蔓延る現代にも通じるものがあり人間の精神構造がいかに進歩してないかを突き付けます。



無辜の民を巻き込みながらも、いったん始まってしまった戦争の終わりは誰にも分からず、味方の裏切りや寝返りは当たり前で、何のために闘っているのかさえ曖昧になっていく。。。



最終章となる蜷川シェイクスピアに16年ぶりに出演するのは小栗旬さん。演じるのは自分はジョン王の兄の私生児だと名乗り、言葉巧みに取り入り王族の一員になるフィリップ。



「〈私利私欲〉の誘いも自分はまだ得られていない」と利己主義に取り憑かれた王族を横目にこう呟くフィリップ。私利私欲を君主と仰ぎのし上がっていくのかと思いきや



「劇中の世界と客席をつなげる役割」と小栗さん自身もインタビューで語っているように、どこか一歩引いた立ち位置から曇りのない目で、事態の推移をシニカルに眺める狂言回し的な役割を。




舞台後方の搬入口を開放するのは蜷川さんお得意の演出でしたが、舞台とは別の時間が流れる渋谷の街からふらりと迷い込んできた赤いパーカーにジーパン姿で登場した小栗さん。



スマフォを片手に物珍しそうに、劇場内の写真を撮る様子に笑いを誘われながら舞台がスタートします。これも〈自分達と地続きに〉を常に意識していた蜷川さん流。



今回、急遽ジョン王の代役を務めることになった吉原光夫さん。玉座にポツンと座り歌を口ずさむジョン王。その頭上で大きな満月を背に舞を舞うのは



歌舞伎役者の中村京蔵さん演じる母親の皇太后エリナー。母親による支配とすでに悲劇と孤独を予感させる登場シーンでした。



長台詞に小栗さんもかなり汗を飛び散らせていましたし、中盤をすぎ声が掠れてしまっている役者さんもいましたが、吉原さんはシェイクスピア劇が初めてとは思えないさすがの台詞回し。



策略でイングランド王になったものの、本当にダメダメで聞くべき言葉に耳を貸さず、聞いちゃいけない言葉を信じて行動し、領土を失いローマ法王からも破門され、貴族にも裏切られてしまいます。


「悲劇も喜劇も共通項は人間の愚かしさ」と語るのは蜷川さんのシェイクスピアシリーズの翻訳を手掛け、個人による日本語全訳は3人目となる偉業を成し遂げた翻訳家の松岡和子さん。



その愚かしく弱き人間を否定しないのがシェイクスピア作品の魅力。だからこそ悲劇であっても肯定のエネルギーが横溢しているのだと思いました。



そして今作は全ての役を男性キャストが演じる〈オールメール〉公演で、大好きな花組芝居の植本純米さんが、白石隼也さんが演じるフランス皇太子ルイと結婚するジョン王の姪のブランシュ姫を。



いつもただただずるい純米さんおーっ!和睦のための政略結婚でありながら2人の間に愛が芽生えるシーン。ちょっとはすっぱな感じを醸し出しながら、立ち振る舞いも台詞も歌声も紛うことなき完璧なお姫様でした。



そして素晴らしい演技だったのは幼き息子アーサーを王にすべく奔走するジョン王の兄嫁コンスタンス役の玉置玲央さん。アーサーを失った時の慟哭と狂気は心震えました。



要所要所で頭上から降ってくる人形の音にビクッとさせられますが、舞台上のキャストは誰も見向きもせずに、無きものとして踏みつけていく演出や



反戦のフォークソングが流れるのは蜷川さんへのオマージュであり、鋼太郎さんから私達への平和を願うストレートなメッセージ。



誰よりも冷静に時代を見つめていたはずなのにジョン王亡き後、新たな体制に飲み込まれていくフィリップ。権力者の思惑に振り回され、400年前と変わらず混迷を極めていく世界。

生きる時代を私達は選べません。ラストでフィリップから小栗旬に戻ったように舞台から降りることは出来ない。だからこそ〈今〉起きていることと地続きに考えて考え抜いていきたい。。。



東京公演ではフランス王役の吉田鋼太郎さんは、この後はジョン王を演じるそうで小栗さんとの掛け合いも観たい音譜



蜷川シェイクスピアの集大成「ジョン王」は渋谷のBunkamuraシアターコクーンにて今月22日まで上演していますクローバー