変わる勇気と変える覚悟 | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

変わる勇気と変える覚悟

在宅医療カレッジ年末特別企画「10年後の地域医療のカタチ」がきのう開催されました。本当は欠席の予定だったのですが当日参加が叶うという奇跡!?



パネラーは練馬光が丘病院の総合診療部門部長の小坂鎮太郎先生、日本総合研究所調査部副主任研究員の成瀬道紀さん、慶應大学大学院健康マネジメント研究科の堀田聡子教授、コミュニティヘルス研究機構理事長で看護師の山岸暁美さん。



在宅医療カレッジで私が常に専門職のみなさんにお伝えしているのはたったふたつのこと。〈当たり前のことを当たり前に〉そして〈おかしいと思ったことはおかしいと言うこと〉



専門職であるが故にそれぞれの職種の可能性を制限し限界を作ってしまっていると感じる事例がやはり今回もパネラーの口から飛び出しました。



例えば歯科医と連携しリハ栄養にも積極的に取り組んでいる練馬光が丘病院の小坂先生は「退院時に元の場所に戻したい」と言っていましたが



そもそも入院は〈退院が前提〉であり肺炎などの病気は治ったのに医原性サルコペニアにより寝たきりにしてしまう医療を平気でやっている病院や医師がおかしいです。



総合診療医の小坂先生が実践している「先を予測して入院診療をデザインする」ことが全ての病院で当たり前になって欲しい。



「社会と世界を見て現場から出来ることをする」とも語っていましたが病気だけでなく広い視野で患者や地域を見られる小坂先生のような総合診療医の必要性はますます高まります。



そして海外での病院勤務や国内では訪問看護にも従事し、さらに厚生労働省で在宅医療専門官も務め政策にも詳しい山岸さんからは在宅の現場で起きている訪問看護の残念な事例が。



訪問先の患者さんに脱水の症状が見られ医師に連絡して指示を仰いだところ新たに点滴が必要となりわざわざ何十キロも離れた病院に看護師が取りに帰らなければならないという不合理。時間のロスは何と120分。。。



診断や薬の処方は医師にしか認められていないためと看護師の手元に薬がストックされていないことにより臨機応変な即時対応が出来ないことがあまりにももどかしいと山岸さん。



アメリカには診断や薬の処方もできる「ナースプラクティショナー」という資格があり医師が不在の州では医療行為が出来るなど地域の医療事情に合わせて看護師が多様な働き方をしています。



既存のルールの中で何とか在宅でも看護師が薬剤を扱えるようにならないかと山岸さんは具体的な提案をしていましたが他の専門職からの抵抗がありなかなか進まないそう。



他にも医師が学会で遠方にいて薬の処方が出来ず訪問看護師がこれまた遠くの薬局まで薬を買いに行かなければならないというケースも。。。



置き去りにされる患者サイドから見たら絶対におかしいので専門職のみなさんは今一度〈自分達の当たり前を疑うこと〉をして下さい。もし自分が患者だったら疑問に感じませんかはてなマーク



日本総合研究所の成瀬さんは臨床の経験はありませんが薬剤師の資格を持っているそうで海外の事例などを紹介しながら薬局薬剤師は薬を調剤するだけでなくもっと幅広い役割出来るはずと指摘。



ですが処方箋には病名も検査値も記載がないためそもそも患者の情報が共有されていない現状があり薬局薬剤師の仕事は患者にお薬を手渡すまでの〈対物業務〉に留まってしまっています。


 

ここにも調剤行為は薬剤師の独占業務という専門職のジレンマが存在します。海外では対物業務を薬剤師とアシスタントが役割分担していたりすでに自動化されているそう。



薬学部が6年制になったのは2006年のことでせっかく大学で6年も勉強しているのに薬を渡して終わりではあまりにももったいない。



電子処方箋を導入すれば患者情報も医師と共有できますし軽症患者への対応や予防や公衆衛生や在宅医療でも薬剤師は力を発揮し活躍できるはずと成瀬さん。



2022年から「リフィル処方箋」という繰り返し処方箋が使用できる制度が始まっています。この新しい処方箋により薬をもらうために診察を受ける必要がなくなり通院負担の軽減や医療費の抑制の効果が期待されています。



6万件の薬局に24万人の薬剤師。20年の間の薬の進化は本当に目覚ましいのでぜひ薬のスペシャリストである薬剤師は調剤の先の薬を飲んだ後の患者さんのフォローまで領域を広げて欲しい。



タスクシフトやタスクシェアが大事と長年言われながら進まない理由はいくつかあります。医師の働き方改革というとても狭い視点で考えているからでありそれぞれの専門職が既得権益に固執しているから。



自分達の都合で領域の拡張を妨げている場合ではありません。高齢化の本番はこれからであり医療や介護の担い手が不足する中で地域医療ケアを維持するためには誰が見ても非効率で硬直的な業務は今すぐに改善すべきです。



11人が人間性を回復する」と堀田さんが言っていましたが山岸さんや小坂さんも同じことを指摘。専門職がより良い状態をキープしバーンアウトしないためにもタスクシフトやタスクシェアは必須です。



長く医療介護を取材してきましたが1990年から2000年は医療は外科医が主役で手術が出来なければ患者さんが行き場を失う時代でした。



2000年から2010年は〈患者が主役〉と言われるようになりがん告知やインフォームドコンセントが普及していきました。また介護保険もスタートし医療と介護が連携する時代に。



そして2010年から2020年は治らない病気と向き合う時代。「病気でなく病人を診る」という本来のあるべき姿である全人的医療という原点に医療がようやく戻ってきました。



また医療も介護も施設の中では完結しない時代でもあり在宅の普及が徐々に進み介護職によるケアの質も向上してきました。



今回のテーマであるこれから10年後の地域医療はどうなるのかのヒントは堀田さんの話の中に沢山詰まっていました。



認知症のみなさんの働きたいという願いを叶えるデイサービスを全国に100作ることを目標にしている前田隆行さん達がスタートさせた〈100BLG〉は私も応援していますが



この前田さん達が実践している当たり前の暮らしを続けられるようにすることは実は簡単ではなく100BLGを目指す事業所の研修には2年ほどかかっていると堀田さん。



何故ならお世話する側とされる側という思い込みやアンコンシャスバイアスがどちらにもあるから。ちなみに100BLGではお互いをメンバーと呼び合いますがそれが日常の風景になるにはお互いに意識を変える必要があるのです。



大事なのは〈双方の対話〉堀田さんは私達より先にチャレンジして生きている〈経験専門家〉である認知症の人からの聴き取りをまとめたナレッジライブラリーを紹介してくれました。



当事者の語りの中には多くの学びや気づきがあります。これからは専門職と住民が垣根を超えて対話を重ねることで地域医療ケアを〈共に学び育てていく時代〉だと私は思ってます。



さらに先を考えると私達はこれまで経験したことのない多死社会に突入します。「死」を喪失と捉えずに限りある命を生き切る患者の生き様からより良く生きる「智慧」を学ぶことが出来るかどうか。。。




山岸さんが全ての人が〈変わる勇気と変える覚悟〉を持てるかどうかだと投げかけてくれましたがすでに声を上げ行動を起こし医療やケアのカタチを変革した当事者がいます。



次は医療介護の現場で働くみなさんの番ですキラキラ1020年後の医療ケアの未来をイメージして〈今〉出来ることを共に実践に移していきましょうクローバー