夢を守り続ける。。。
本当に待ちに待った「平成中村座」が浅草に4年ぶり戻ってきました今年は天保13年に浅草の猿若町に中村座が開幕してから180年ということで
「猿若町発祥 180年記念」と銘打ち今月来月と2ヶ月連続公演。古典から宮藤官九郎さん作・演出の新作歌舞伎もラインナップされパワーアップした平成中村座。
歌舞伎座、コクーン歌舞伎、平成中村座と全部に作品を書いているのは宮藤さんだけでしかも平成中村座で新作が上演されるのは初めて
観劇したのは第2部で35年ぶりの上演となる有吉佐和子さんが25歳の時に書いた舞踊劇「綾の鼓」と新作歌舞伎「唐茄子屋~不思議国之若旦那」
〈唐茄子屋〉の原作は浅草を舞台にした落語「唐茄子屋政談」。吉原遊びが過ぎて勘当され吾妻橋から身投げしようとしていた若旦那の徳三郎に手を差し伸べたのは叔父の八百八。
働く苦労を知れとかぼちゃ(唐茄子)売りを命じられた徳三郎が見知らぬ人達の情けに助けられ、自らも貧しい母子に出逢い何とかしたいと心意気を見せる人情噺。
それだけで終わらないのはクドカン作品。人情噺になんと「不思議の国のアリス」の世界を取り入れて蛙やあめんぼが登場し〈アナザー吉原〉に迷い込む徳三郎。。。
情けなくてどうしようもない若旦那を演じるのは中村勘九郎さん。どんなにダメな人間を演じても愛嬌があって何処か憎めない人物にしてしまう勘九郎さんは流石
遊び呆けて力仕事には全く縁のなかった徳三郎がふらふらしながら天秤棒を担ぎ、弱々しい声で初めての商いに挑戦する姿は可笑しみがあり思わず手を差し伸べたくなります。
そこに登場するのが獅童さん演じる大工の熊。口は悪いけれど困っている人を放っておけない情の篤い江戸っ子で、胸のすくような啖呵で行き交う人達に声をかけまくり唐茄子を売り捌いていきます。
大量の汗をかきながら怒涛のセリフを捲し立てる獅童さん。勘九郎さんも思わず苦笑してしまうほどの迫力でした。しかも本物のかぼちゃを取り出して客席にプレゼントというサプライズがありなんと私の友達が受け取りました
徳三郎が入れ上げた傾城桜坂と貧乏長屋で暮らす女房お仲の二役を演じるのは七之助さん。勘当された若旦那に情けをかけることなく気持ちよく見限る場面はクドカンさんの遊び心が詰まっています。
さらに叔父の八百八とあめんぼの二役を俳優の荒川良々さん。獅童さん主演のオフシアター歌舞伎「女殺油地獄」に出演して以来2回目となる歌舞伎の舞台。
「初めて観た歌舞伎が中村座でまさか自分がその舞台に立つとは」と話す良々さん。女殺も観ましたが全く違和感なく歌舞伎の世界に溶け込むだけでなく歌舞伎役者を圧倒する存在感でした。
番頭小辰と蛙ゲゲコを平成中村座には欠かせない片岡亀蔵さん、八百八の女房よしと蛙ゲコミの二役を中村扇雀さん、強欲な大家源六を大河ドラマでも注目された坂東彌十郎さん。扇雀さんにあんな姿をさせるなんて
さらに勘九郎の長男勘太郎くんがアナザー吉原に登場する小さな若旦那を、次男の長三郎くんが七之助さんの息子イチを演じていましたが2人とも本当に大きくなりました
勘太郎くんの天秤棒を使った立ち回りやしっかりと床を踏み締めて見栄を切る姿も決まっていました。物怖じせずに大人に物申す長三郎くんにも客席から笑いと温かい拍手が。
どんどん寛容性を失っている現代社会。。。「しょうがないな」と周囲が手を差し伸べる関係性やどこか欠けた部分がある人間をせめて舞台の中では生かしたいとクドカンさん。
そして有吉さんの「綾の鼓」も良かった。恋い慕う華姫に翻弄される年若い三郎次。鳴らぬ鼓を鳴らしたら願いを叶えるという華姫の言葉を胸にかつて白拍子だった秋篠の元で三郎次は修行をします。
秋篠と三郎次を演じるのは扇雀さんと虎之介くん親子。秋篠は生きていれば同じ歳だった我が子の面影を三郎次に重ねながら2人でただひたすらに鼓に向き合います。
凛々しく成長していく三郎次にいつのまにか惹かれていく秋篠ですがもう教えることはないので姫の元に行くように促します。
鳴らぬはずの綾の鼓を響かせるのは人を想う真心。。。季節の移ろいを屏風だけで表現するシンプルな演出で人間の心の共鳴をドラマチックに描いた作品でした。
勘三郎さんが亡くなって早いもので10年。"あっぱれな歌舞伎役者になって欲しい"と夢を託した勘九郎さんが七之助さんや孫達と守り続ける「平成中村座」ぜひ浅草まで足を運んで欲しい