マインドチェンジを!!
講師は「最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM」の著者で米国最大の老年医学センターであるマウントサイナイ医科大学で老年病専門医として活躍する山田悠史先生。
実は山田先生は在宅医療カレッジを主催する悠翔会で医師として働いていた経験もあり今回ニューヨークから帰国中の忙しい中でお話してくれました。
日本人の2021年の平均寿命が発表され10年ぶりにわずかながら短くなりましたがそれでも男性は約81歳、女性は約87歳。日本が世界一の長寿国であることは間違いありません。
ただし元気に自立した生活を送ることができる期間の〈健康寿命〉は男性は約72歳で女性は約75歳と最後の約10年間は何らかの支援や介護が必要となると言われています。
この健康でいられる時間を伸ばすことは出来ないかと考えた山田先生。きっかけは患者さんを診ずにカルテだけ見て80代なのに何でこの治療なのかというカンファレンスに疑問を感じたから。
年齢だけで治療を決めるのはおかしいですしさらに病気だけを診て退院後のその人の暮らしをイメージせずに行われる医療ははっきり言ってナンセンスです
そこで山田先生が提唱しているのは〈5つのM〉を指標にし科学的根拠に基づいてその人にあったケアを提供するということ。5つのMはこちら☞
●Mobility:身体機能
●Mind:精神・心
●Medications:薬
●Multicomplexity:社会的ニーズ
●Matters Most to Me:価値観・生き甲斐
この〈5つのM〉はカナダと米国老年医学会が提唱し「老年医学」の世界最高峰の病院が高齢者診療の絶対的指針としているものです。
ひとつひとつのMを丁寧に紐解いてくれた山田先生の話はこれまで在宅医療カレッジで学んできた多職種連携で出来る治療以外のケアと共通することばかり。
最初のMの身体機能に関しては高齢者に多い転倒を事例に〈未来の転倒〉を予想し予防するためのポイントを。杖を使うという方法もありますが山田先生が診るのは〈足と靴〉。
実は情報量が多く問診ではちゃんとやっていると言っていても靴下を脱いでもらい患者さんの足を診ると普段のセルフケアや靴が合っているかなどが分かるそう。
足の専門家の介入で転倒リスク減ったというデータもあり医師ではなくマッサージによるケアやリハビリの専門職がサポートできる場面だと思います。
またMedicationsのM薬に関するポリファーマシーはこれまでも在宅医療カレッジでは取り上げてきました。2015年に登壇してくれた神戸大学薬剤部の平井みどり先生は
おかしいと思っても薬剤師や看護師から医師に物が言えないもどかしい状況があると言っていましたが〈ポリファーマシーはミステイク〉とはっきり口にしていました。
飲み切れないほどの薬が処方されているポリファーマシーによる副作用なのに新たな病状と誤認されさらに薬が追加される処方カスケードの話が山田先生から出ましたが
ポリファーマシーも処方カスケードも薬害だということを医療介護に携わる専門職のみなさんには本当に自覚して欲しいです。
山田先生は雰囲気や年齢で止めるのではなくエビデンスに基づき必要な薬は残して不必要なものを止めると言ってましたがそれも当たり前のこと。
実は生活習慣病に対する薬は服用開始から効果が出るまでに年単位で時間がかかるものがあり寿命を超えてしまう場合もあるそう。薬の処方は医師法に基づいた医師の権限とされています。
であるならば診察室だけで患者を診ている医師には今一度マニュアル通りに処方してしまっていないかの確認をお願いしたい。また数値を下げれば良いわけではなくその人の状態に合わせた個別の処方も基本中の基本。
暮らしを支える介護職、訪問診療、訪問看護などとの連携で正しく服用されているかや副作用が出ていないかなどの確認は出来るはずですし
塩分を制限したり慢性疼痛にはリハビリで対応したりと薬剤以外の選択肢もあると山田先生が指摘していましたが
実際に患者さんが実行に移すには食事に関しては管理栄養士がまたリハビリは理学療法士などが力を発揮できる場面だと思います。
そして社会的ニーズのMについてはアメリカでも病院からケアへの移行の際にソーシャルワーカーが活躍するそうでまずは人間関係を把握してカルテにも記載。
家族のサポートがあるかや交友関係も在宅の問診でチェックしそれぞれの状況や環境に合わせたケアに繋げているそう。
最初に指摘した通り入院は退院が前提です。けれども日本の病院では病気を治すことが優先され足腰が弱り寝たきりになって
自宅に帰ってくるという事例や口から食事を摂れるのに高齢者だからと胃ろうを勧められたという残念なケースが後を絶ちません。
退院支援をする看護師が配置されている病院もありますがまだ人数が少ないのが現状です。家や施設に帰るために必要なケアや支援は何かを入院した時から地域と連携して考えて欲しい。
最後の価値観や生き甲斐のMについては山田先生は患者さんから最も大切なことや気がかりなこと必ず避けたい事柄を聴くそうです。
また治療の選択肢の提示に関しても単にAとBがあるとボールを投げるのではなく本人が希望する優先事項に合わせた最善の治療を判断すること
そしてエビデンスをきちんと説明するのは医師の役割だというのもその通りですし、納得して選択するためにはコミュニケーションが必要不可欠です。
治らない病気や余命がわずかと分かった時に本当は家に帰りたいのに家族に迷惑をかけたくないからと家族にも本音を言えないことはよくあることです。
人生会議は終末期に単純に医療をするかしないかを話し合うものではありません。沢山の専門職が在宅に携わっていますが本人が大切にしたいことや気がかりなことなど〈本音〉が語れるような存在になれているでしょうか。
「5つのM」を聴いて改めて多職種が連携しタスクシェアをしていく必要があると感じました。全てのMを医師ひとりで把握することは難しいですしひとりでやる必要もありません。
歳のせいでやもう歳だからと考える〈エイジズム(年齢差別)〉や〈アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)〉は専門職だけでなく患者さんや家族の中にもあると思います。
健康とは何か。。。重度の障害を負い車椅子生活だった母は右半身が動かせず失語症もありましたが心はとても健康で幸せな人生を送れたと思います。
母が母であることに変わりはなく病気になる前と同じように地域の中で当たり前の暮らしを送れるように介護保険も何も無い時代でしたが力を尽くしました。
本人がどう生きたいのかという意思を尊重することは年齢に関係なく当然のことです。当たり前のことが当たり前になるように1日も早い〈Mind change〉を
悠翔会の新しい新宿BASEで開催された「在宅医療カレッジ」やはりリアルだと新しい出逢いもありましたし雑談の中に新しい気づきがありました。また次回も参加をお待ちしています