いつか戦が消える日に。。。 | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

いつか戦が消える日に。。。

東京芸術劇場プレイハウスにてNODMAP25回公演『QA Night At The Kabuki』を観てきました音譜



時代も国境も超えた3つの伝説を新しい伝説として生まれ変わらせた野田秀樹さんはやっぱり奇才ビックリマークパンフレットでご自身も自称伝説の舞台と書いていましたキラキラ



誰もが知るシェイクスピアの悲恋の物語「ロミオとジュリエット」のそれからを伝説のロックバンド「クイーン」のアルバム「オペラ座の夜」の楽曲の調べに乗せながらなんと舞台を「源平合戦」に置き換えるという奇想天外な「Q」。



映画「ボヘミアン・ラプソディー」を観た方も多いと思いますが私はクイーン世代ではなく全ての曲を明確に把握は出来てないのですが



それでも〈 Love of My  Life〉や〈Bohemian Rhapsody〉などのメロディーがそれぞれの場面に見事にリンクしてコテコテな古典なのに今を生きる物語に見えてくるから不思議でした。



実はロシアとジュリエットは生きていた!?という新解釈から始まる第一幕。尼さんになった松たか子さん演じる〈それからの愁里愛〉の元に



30年の時を経て何も書かれていない白紙の手紙が届けられます。なぜ白紙なのか?なぜ30年も届かなかったのか?投げかけられるクエスチョン〈Q〉。。。



自分達の運命は変えられるはずと〈それからの愁里愛〉と上川隆也さん演じる〈それからの螂壬生〉が時空を超えて



それぞれまだ悲劇の運命を知らない広瀬すずさん演じる〈源の愁里愛〉と志尊淳さん演じる〈平の螂壬生〉の元に。



過去と未来が同時に存在できるのは舞台ならで特に愁里愛を演じる松さんと広瀬さんは一緒にいても全く違和感なし。



上川隆也さんと志尊淳さんは見た目は全然違いますが動きがシンクロする場面でハッとさせられました。2人の中の愁里愛への変わらぬ愛が見えたからだと思います。



まさかの友とまさかの乳母として若き日の自分達の身近に寄り添いながらシェイクスピアの「ロミジュリ」通りの悲劇にならないように物語を改変しようと奔走。



出逢った瞬間に惹かれ合う若きロミジュリ。キラキラ輝く初々しい2人を見守りながら回想するそれからのロミジュリ。



記憶が違うと口喧嘩する松さんと上川さんのユーモアのある掛け合いとは裏腹に舞台上には悲劇までのカウントダウン〈432000秒〉の数字が映し出され時を刻んでいきます。



螂壬生への愛を貫こうとする一途さを全身で表現していた広瀬すずさんが素晴らしく舞台は初めて観ましたが透明感が半端なく立っているだけでスポットライトが当たっているよう。



2人で一夜過ごし朝を迎えるシーン。広瀬さんが裾を引き摺るように身に纏った大きな真っ白な布が純白のウェディングドレスのようでした。



そしてベッドを覆う大きな白い布が翻るたびに2組のロミジュリが入れ替わり純粋な若きロミジュリの美しさに目を奪われたかと思うと



それからのロミジュリが現れて野田さんお得意の言葉遊びを繰り広げ二幕目へと繋がる「いつか戦が消える日に再会できる」という一言を松さんが。。。



みなさんもよくご存知の行き違いのために自らの命を絶つことになる若きロミジュリの悲劇の運命は果たして変えられるのかハラハラドキの第一幕。



それからの愁里愛に自撮り棒で殴られる法皇や陳腐なカラー風船を沢山身に付けて登場する源頼朝など大好きな橋本さとしさんが野田さんのおもちゃになっているのもツボに入りました。



また平清盛と平の凡太郎という正反対の役柄を演じ分けた竹中直人さんの大胆で繊細な演技に脱帽でしたし役者野田さんも相変わらずテンションが高く登場した瞬間から笑いをさらっていく狡さ。



"5日間の恋で終わらせたくない"という必死の想いが通じて運命を乗り越えたはずなのに4人はもうひとつの運命〈戦争〉に巻き込まれていきます。。。



第二幕は「ロミオとジュリエット」のそれからの物語へ。2組のロミジュリの立場が入れ替わり広瀬さんは〈愁里愛の面影〉そして志尊さんは〈螂壬生の面影〉となり愛する人のそばに。



命は取り留めた〈それから〉の2人ですがお互いが生きていることは知らないまま。後半では「ロミジュリ」の有名なセリフ「名前をお捨てになって」に忠実に従った



〈それからの螂壬生〉は名も無き兵士となり戦場に向かうことを決意し新たな悲劇に巻き込まれていきます。そして〈それからの愁里愛〉は尼寺へ行くことに。



物語を実際の戦争やリアルな出来事と置き換えていく野田さん。舞台はいきなりな感じですが源平合戦から第二次世界大戦へ、そしてシベリアならぬ「滑野(スベリヤ)」へ。



「ロミジュリ」という特別な物語が戦争により2度と故郷に帰れず愛する人と永遠の別れをすることになった名も無き兵士達の物語へと変貌していきます。



2019年の初演の時はまだロシアによるウクライナ侵略は起きてませんでしたが戦争は過去の話ではなく今やいつ何処で起きてもおかしくないリアルに。



捕虜となった螂壬生を敵方の兵士がみんなで殺害しようとする場面ではマザーテレサならぬ尼マザーッテルサ(羽野晶紀さん)が戦争が終わったらそれはただの殺人だと指摘。



「ボヘミアン・ラプソディー」の"ママ〜"に合わせて絶叫する兵士達。戦争で尊い命を散らした若者の多くが母親宛てに手紙を残していることを思い出し胸が苦しくなりました。



愚かな人間が始める戦争がもたらす皮肉で哀しい真実を突きつける第二幕。戦いは終わっても戦争は終わらない。何故なら人の心の中に憎しみが残るから。。。



極寒の滑野で終わりのない過酷な強制労働に従事させられている〈それからの螂壬生〉。出せども出せども検閲に阻まれ届かない愁里愛への手紙。



長い時を経て故郷への帰還が始まりますが名を捨てた〈それからの螂壬生〉の名前はなんと帰国者の名簿に存在せず。。。



非情な運命を前に絶望する螂壬生を見かねた平の凡太郎が自分が手紙を預かろうと申し出ます。ですが手紙は没収されてしまうので全て暗記して必ず届けると約束。



そして物語のラストで幕開けの問い掛けの答えが明らかに。一度は運命を乗り越えながらお互いの存在を知らずに〈面影〉と共に生きてきた〈それから〉の2人。



敵と戦っている時も滑野に抑留されている時も常に螂壬生のそばには〈愁里愛の面影〉がいることは観客には見えていますので絶望と孤独の中でもたった5日間の愛を胸に抱きしめていることが分かります。



そして30年の時を経て届いた手紙により螂壬生の愛を確信した〈それからの愁里愛〉。白紙の手紙を詠む〈それからの愁里愛〉を後ろから〈それからの螂壬生〉が抱きしめるシーンに涙腺が決壊。



螂壬生と同じように凍てつく大地シベリアから戻れなかった兵士ひとりひとりに名前があり届けたかった想いがあったはず。



紙飛行機となり舞台上を飛んでいく届かなかった無数の手紙。未だに争いが無くならないこの世界の空にも見えない紙飛行機が飛んでいます。



「いつか戦が消えた日に」と哀しい誓いをしなくていい平和な世界にしなければ本当の終戦は来ないと強く思った夏の夜になりました。



NODMAP25回公演『QA Night At The Kabuki』東京公演は911日まで。コロナで色々な舞台が中止になっていますがどうか最後まで駆け抜けて欲しいクローバー