何が正義なのか。。。
![キラキラ](https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char3/079.png)
1928年に初演されたブレヒトの「三文オペラ」は差別や貧困、資本主義社会を痛烈に風刺した音楽劇の名作で舞台をロンドンの貧民街から
第二次世界大戦で破壊された大阪の兵器工場の跡地へと大胆に置き換え戦争の傷痕や貧困に喘ぎながらも貪欲にたくましく生き抜くアウトローたちの人間模様を鄭さんは描きます。
生田さんが演じるのはアメリカの空襲で廃墟と化し煙突だけが聳える工場跡地に眠る鉄屑など様々なものを盗んでお金を稼ぐ盗賊団アパッチ族の親分マック。
関西弁は初挑戦という生田さん。泣かせた女は数知れず口も悪く乱暴者だけれど頼り甲斐もあり"俺たちにはマックがいる"と男にもモテる通称マック・ザ・ナイフ。
うらぶれたトタン屋根のバラックが肩寄せあうアパッチ部落で開かれたのは盗品のテーブルなどで設えたマックの結婚。なんと相手はウエンツ瑛士さん演じるポール。
真っ白なスーツで決めた2人。マックが後ろからポールの肩を優しく抱きしめますが幸せだけど少し不安と呟くポール。。。
生田さんとウエンツさんは小学生の頃からテレビで共演していたいわば幼馴染みのような間柄。恋人役で同じ舞台に立つこんな未来が待っているとはと生田さんが話していましたが
分け隔てなく愛を注ぐ包容力のあるマックと真っ直ぐに気持ちを口にする純粋なポールは相思相愛の素敵なカップルに見えました。
そんな貧しいけれど幸せなワンシーンから始まった物語ですが物乞いを集めて金儲けをするポールの父親は息子の結婚を認めないばかりかマックのことを陥れようと企みます。
ポールの父親ピーチャムを演じるのは渡辺いっけいさんで母親シーリアを根岸季衣さん。戦争で全てを奪われた弱い者がさらに虐げられ金だけがモノを言う時代にのし上がったピーチャム。
息子を心配する気持ちよりも世の中や国への憎しみをマックに向けているようでいっけいさんの笑いも取るけれどザラザラとした老獪な演技はお見事でした。
また子供の頃から誰にも分かってもらえずようやく自分を大切にしてくれる人を見つけたという息子の一途な想いに触れ心情を変化させていく母親の根岸さんも良かった。
戦地で自分を助けてくれた恩がありマックの悪行を見逃してきた警察署長タイガー・ブラウンを福田転球さん。ブラウンとマックが分かち合った戦中の過去も物語の鍵になります。
そしてなんと言っても今回秀逸だったのはミュージカル「北斗の拳」で筋骨隆々なラオウを演じた福井晶一さんでマックの昔なじみの娼婦ジェニー役を。
艶やかな黒髪に黒いチャイナ服の福井さん。一度は情を交わしたマックへの強すぎる愛情から彼を破滅の道に導いてしまう哀しい役所。
福井さんが歌い上げる戦争に駆り出され抜け殻になった男達と戦争に愛する人を送り出した哀しい女達の歌があまりにも切なかった。
セリフなしでも足を組み替えるだけ、佇んでいるだけで目を惹く存在感と圧倒的な歌唱力のディーヴァ福井を堪能しました。
そして警察署長の娘ルーシーの平田敦子さんはドラマ「真犯人フラグ」の占い師役が記憶に新しいですが恋のライバルのポールとマックを間にした掛け合いなど笑いあり涙あり。
ポールの父ピーチャムの策略、娼婦ジェニーの愛憎、権力側にいる警察署長ブラウンの立場。。。全ての犯罪の責任を擦り付けられたマックの運命は果たして?
"一体、何が正義なのか?"理不尽に人の命と理性を奪う戦争は正義だったのか。罪と哀しみを背負いながらも逞しく生き抜こうと社会の底辺でもがく"マック"は当時たくさんいたはず。
沈む夕陽が照らすバラックや軍事工場跡地がたとえ消え去っても忘れてはいけない戦争の記憶。無惨に散った人達の魂は帰りたい場所や逢いたかった人の元に戻れたでしょうか。。。
ノスタルジックな響きのアコーディオンなど生演奏を担当しているのはこまつ座の「日本人のへそ」でもピアノ演奏者を演じていた朴勝哲さん。演劇に寄り添う朴さんの音楽も素敵でした
鄭さんワールドに引き込まれた音楽劇「てなもんや三文オペラ」は東京は渋谷PARCO劇場にて今月30日まで上演中