おぞましくも切ない。。。 | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

おぞましくも切ない。。。

創立35周年を迎えた花組芝居の四世鶴屋南北の「盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)」を下北沢小劇場B1で観劇。13年ぶりの再演です音譜



歌舞伎の狂言には「世界」と呼ばれる作品の背景となる設定があり鶴屋南北はいくつかの世界を組み合わせる綯交ぜ"という手法を得意としていたそう。



また有名な狂言を書替えて新しい作品にすることもよくあり「盟三五大切」は並木五瓶の「五大力恋緘」を書替えさらに「忠臣蔵」の世界と「東海道四谷怪談」の後日談を綯交ぜにして書かれた作品。



歌舞伎界では長く上演が途絶えていたそうで1976年に136年ぶりに復活。その時は孝夫時代の仁左衛門さんが三五郎役で玉三郎さんが小万を演じたそう。



さて花組芝居の「盟三五大切」はいきなりお通夜の場面から。役者はみんな化粧なしの喪服のスーツ姿。しめやかな雰囲気の中で通夜振る舞いが行われています。



前回は弔われる人を毎回ゲストが演じていたそうですが今回は私も大好きな役者さんだった劇団旗揚げメンバーで8年前に亡くなった水下きよしさんが優しく微笑む遺影が。35周年を一緒にと座長の加納幸和さん含め団員全員の粋な計らいクローバー



「盟三五大切」は歌舞伎ならではの"実は"のオンパレードで本質的な極悪人はいないもののほとんどの登場人物が殺されてしまうとても凄惨なストーリー。


 

そして忠臣蔵と言えば説明するまでもなく自分の命よりも主君へ忠義を尽くすことを優先し主君の仇討ちという大義のために生きた武士達の物語で主人公の源五兵衛もそのひとり。



盗賊に御用金を盗まれた咎で浪人になった源五兵衛は名誉挽回して仇討ちに加わるという使命を持っているにも関わらず、家財道具から畳まで全財産を売り払ってしまうほど芸者の小万に入れ込んでしまっています。



貴方に操を立てていますという証の"五大力"という刺青を自分の腕に入れて想いを寄せていることを示す小万ですが実は小万には三五郎という亭主が。



ちなみに五大力は江戸時代に流行っていた五大力菩薩信仰にあやかったおまじないで誰にも開封されずに相手に届くと願って手紙の封印に使ったり貞操の誓いとして簪や三味線など身近なものに彫ったそう。



源五兵衛からお金を騙し取ろうとしている2人。妻を芸者に出しても全く悪びれていない三五郎にも実はお金が必要な事情が。そして可愛いふりをして源五兵衛を誑かす小万も全ては亭主のためで性根はとても一途。



三五郎と仲間達は小万の嘘の身請け話をわざと源五兵衛に聴かせて伯父が源五兵衛のために工面した100両をまんまと奪い取り実は自分達は夫婦だと明かし嘲笑う。



忠義を捨ててまで惚れ抜いた女に裏切られ失意のどん底に突き落とされた源五兵衛。元々は善人だった男の変貌とその怨念は凄まじく三五郎夫婦には逃げられてしまうも居合わせた人々を滅多切りに。。。



辛うじて逃げ延びた三五郎夫婦が転居した長屋にはお岩さんの幽霊が出るという噂が。凄惨な殺しの場面を見た三五郎と小万にとって怖いのは幽霊ではなく源五兵衛。



幽霊の正体を突き止めたところ犯人は大家で店子を追い出して家賃を巻き上げようという魂胆。この大家は小万の兄で実は全ての因果のきっかけを作った人物。この"実は"は後ほど。


一度は2人を許したように見せかけた源五兵衛でしたがやはり憤怒の炎を消すことは出来ずに再び三五郎の家へ。「五大力」と書かれていたはずの刺青が「三五大切」になっているのを見つけ逆上。



この子だけはと懇願する小万の言葉に耳を貸すことなく小万の手に包丁を握らせ赤児に手をかける姿はまさに鬼。。。



歌舞伎では源五兵衛は小万の首を手拭いにくるみ懐に抱えますが花組芝居ではビニール袋に、そして白飯をレンジでチンするシュールさも。



物言わぬ小万にご飯を食べさせようとする場面からは忠義を捨てただ1人の男として仲睦まじく小万と暮らすことを夢見ていたことが伝わりおぞましくもとても切ない。



実は実はが続くクライマックス。三五郎が源五兵衛を騙してまで大金を必要としていたのは何故か。それは旧主の窮状を救うために金策に奔走する実父のため。



そして実父が仕えていたのは源五兵衛、実の名は不破数右衛門!?三五郎と小万の悪行も全ては実父の主の源五兵衛のため。。。さらにさらに数右衛門からお金を奪った盗賊はなんと小万の兄弥助!?



元凶はお前かと唖然とさせられますが罪は全て自分達が引き受けるから忠義の侍としてどうか仇討ちをと願う三五郎親子。全ての因果が紐解けたところで源五兵衛は不破数右衛門に戻りいざ仇討ちへ。。。



現代人の感覚では大量殺人を犯した罪が許されて正義の仇討ち!?と思ってしまいますが「矛盾があるのが古典の魅力」とかつて仁左衛門さんもインタビューで語っていました。



また不条理や理不尽が許されるのが舞台。「こんなに悪と自由とが野放しにされている世界にわれわれは生きることができない。だからこそ、それは舞台の上に生きるのだ」と鶴屋南北の世界を評したのは三島由紀夫。



奇想天外でありながらリアリズムも追及し誰かのためであっても欲望に絡め取られた人間はここまで堕ちるのかという破滅に毒のあるユーモアを綯交ぜにした鶴屋南北。



忠臣蔵などをパロディーにした作品をパロディーにする花組芝居35周年記念第一弾の「盟三五大切」は68日まで下北沢小劇場B1にて上演中。そして第二弾は三島由紀夫の「鹿鳴館」で11月に上演予定ですキラキラ