待ち受けるのは悲劇
舞台は1183年で英国王家の草創期。イングランドの初代国王となったヘンリー2世。彼を中心とした王位継承権争い、領土紛争、王妃と若き愛人の確執など中世に実際にあった史実が基になっています。
愛憎渦巻く中でクリスマスを迎えたシノン城。全ての人が愛を求めながらも望む愛を手にすることが出来ないがために、相手を時に騙し時に試し自ら執着、嫉妬、憎しみを増長させていきます。
50を過ぎてなお若き息子達をまさにライオンのように飲み込んでいくエネルギーに満ち溢れているヘンリー2世を佐々木蔵之介さん。
そして15歳でフランス王妃になるも離婚して広大な領地アキテーヌを持参してヘンリーと再婚しのちにヨーロッパの祖母と言われたエレノアを高畑淳子さん。
18歳の若きヘンリーを見初めた時はエレノアはまだフランス王妃で10歳以上年上でしたが領地を更に拡大し完全に支配するという2人の利害が一致したのだと思います。
ただ野心が強すぎるが故に若かりし頃に互いに激しく惹かれあったのが嘘のように何度も夫に反旗を翻したエレノアは10年以上(実際は16年)幽閉されてしまいます。
この夫婦は強欲で策略家なところが実は瓜二つで佐々木さんも高畑さんも夫婦漫才みたいなやりとりに注目してと話していますが
ウィットに富んた2人のやりとりは何が本当で何が嘘なのか全く分からずヒリヒリするぐらい刺激的でスリリング。高畑さんは佐々木さんを圧倒するぐらいの迫力で天晴れでした。
政争の具として扱われ悲しい運命を辿った女性がほとんどの時代。"また負けた"と悔しがるエレノアとヘンリーは夫婦という形を超えた対等の関係であり
リスペクトしているからこそ相手を出し抜きたいと騙し合う緊張感のある闘いを家庭内で繰り広げやがてそれが本物の戦争に。。。
支配欲の塊のヘンリーとエレノア。そんな2人に育てられた息子達は生まれながらに争う運命を背負わされていてある意味で犠牲者なのかもしれません。
エレノアが偏愛し後継者として全てを叩き込まれてきた3男のリチャードを加藤和樹さん。王としての強さという面では申し分ないですが戦いでしか満たされない人間として大事な部分が欠如した悲哀を抱えた王子を熱演。
ヘンリー2世が溺愛するのは浅利陽介さん演じる5男のジョン。本当に単細胞のジョンには国王の威厳のかけらもありませんがだからこそ彼に王座を譲り傀儡として君臨する策略が見え見え。
そんな跡目争いに幼い頃から巻き込まれている先代フランス王の娘アレーを演じるのは葵わかなさんでどす黒い陰謀が蠢く中に咲く一輪の花のよう。
ヘンリーとエレノアに育てられたアレーは美しい女性に成長しヘンリーの愛妾に。エレノアもそのことを知りながら息子リチャードとの政略結婚を迫る。アレーのヘンリーへの愛情は本物だと思いたい。
両親の愛情を受けられずに育った4男ジェフリー(永島敬三さん)とアレーの兄である現フランス王フィリップ(水田航生さん)の策略も絡んでいき混沌とした状況に。果たして王位と領土は誰の手に。。。
歴史上ではヘンリー2世はフランス王フィリップと息子のリチャードやジョンの裏切りにより失意の中で56歳で亡くなったとされています。
跡を継いだのはリチャードでしたが彼も戦死し小さな頃から無能と言われていたジョンが国王に。エレノアは息子が王になるのを見たいという欲望を叶え80過ぎまで生き天寿を全う。
飽くなき支配欲を原動力に生きるヘンリー2世と息子を国王にすることを唯一のよすがに幽閉されながらも強かに生きるエレノア。
"闘いは続くわよ"と言わんばかりに腕を組み不敵な笑みを浮かべながら消えていく2人。こんな骨肉の争いを実際に何十年も続けていたのかと思うと恐ろしい。
何故、人間は過ちを繰り返すのか。。。過去から学ぼうとせず権力に絡め取られた指導者を待ち受けるのは栄光ではなく悲劇であることは間違いありません。
舞台「冬のライオン」は池袋の東京芸術劇場にて3月15日まで上演しています