一世一代"碇知盛" | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

一世一代"碇知盛"


久しぶりに歌舞伎座に観劇したのは二月大歌舞伎の第二部で仁左衛門さんが一世一代と銘打って臨んでいる「義経千本桜 渡海屋・大物浦」2017年以来、5年ぶりの仁左衛門さんの知盛でした。



通称碇知盛と呼ばれている「義経千本桜」は平知盛と源義経,敵同士の立場の違いはありますが共に滅びゆく身と知りつつも忠義に生きる2人の武士の悲しい物語。



壇ノ浦の合戦で滅亡したはずの新中納言平知盛は実は生きていたという設定で、知盛は大物浦の船問屋渡海屋の主人銀平として源氏への恨みを晴らすべく機会を窺っています。



花道から長い羽織を翻して堂々と登場した銀平の姿に惚れ惚れ。見納めかと思うと1秒たりとも目が離せません。



「刀は人を切るものではなく粗忽、狼藉を防ぐもの」と義経の行方を探す北条家の家臣に啖呵を切って追い払う姿もお見事。実はこの2人は味方です。



そしてその渡海屋では頼朝に謀反の疑いをかけられ追われる身となってしまい都落ちした義経一行が船出を待っています。



義経に亭主の自慢をする船宿の女房お柳を演じるのは息子の孝太郎さん。実は安徳帝の乳母の典侍の局でしっかり者の女房から上品な乳母に変わる難しい役どころ。



父の知盛が大きいので衣装が変わらないままで典侍の局が知盛よりも位が高いことをしっかり見せたいと孝太郎さん。



義経討伐のために出立する際の白装束に銀の烏帽子姿もため息。何と言っても大きな見せ場は全身血まみれ満身創痍の知盛の立ち回りです。



腹に刺さった矢を抜いた後に自分の血を舐めて「恨み晴らさでおくべきか」と復讐への壮絶な執念を見せる仁左衛門さん。



我が君の安徳帝の「仇と思うな、知盛」の一言により戦意を失う知盛。そんなになるまで1人で戦わなくても。。。と思って見守っていた私の身体からも力が抜けました。



そして必ず帝を守護すると約束する義経はもはや自分の敵ではないと悟り積年の怨みからも解放され安堵する知盛の得も言われぬ表情。



「戦さの虚しさや武士の潔さに伴う哀れさを大事にしたい」との言葉通りラストは大碇の綱を身体に巻きつけ潔く身を投げて海底へと消えていく知盛。ああ仁左衛門さ〜〜ん。。。


平家一門の怨念から解き放たれた知盛の魂が安らかであることを願う弁慶の法螺貝の静かな鎮魂の音が心に染み入りました。



これが見納めの仁左衛門さんの碇知盛。しっかり目に焼き付けました。三月大歌舞伎では仁左衛門さんは悪党でありながら弱者の味方でもある河内山宗俊を演じます。



来月は猿之助さんの「新三国志」に幸四郎さんの「石川五右衛門」もあってどれを観るか迷ってしまいます。



コロナ禍の影響はまだまだ続いています。きのうも観劇予定の舞台が急に中止になってしまいました。劇場に足を運ぶことでエールを送り続けたいと思います🍀