「今」を生きる演劇 | 町亞聖オフィシャルブログ「As I am」Powered by Ameba

「今」を生きる演劇

舞台復帰を目指して闘病していた

吉右衛門さんの訃報が飛び込んできた

12月1日に幕を開けた十二月大歌舞伎。



それぞれの役者が吉右衛門さんへの
哀悼と感謝の想いを胸に舞台に立った


十二月大歌舞伎の猿之助さん演じる
「新版 伊達の十役」を観劇しました。


猿翁さんが1979年に「伽羅先代萩」を

大胆に作り変え復活させた伊達の十役を

猿之助さんが「新版」と銘打って初上演。




有名な伊達家のお家騒動を題材に前半では

若君を守るために息子を身代わりにする



乳人政岡の忠義と母性を押し殺した

演技でどうみせるかが見所の「奥殿」と



息子を犠牲にしてまで手に入れた連判状を

鼠に化けた仁木弾正に奪われる「床下」。



強く凛とした政岡という女性と極悪人の

仁木禅正の演じ分けだけでもすごいのに



後半では足利当主の頼兼から忠臣、腰元

傾城、悪坊主と見た目はもちろん性格も



違う十役を1人で演じている猿之助さんも

お見事ですが早替わりは裏方から吹替えの



役者までチームワークがとても大切で

早替わりがお家芸でもある澤瀉屋一門の

気合と真骨頂を見せていただきました。



そして弾正一派の栄御前を演じるのは

ドラマ「日本沈没」で怪演を見せていた

中車さんで第一声は少し力が入ったのか



女方としては骨太かなと思いましたが

場面が進むうちにスムーズになりました



でも貫禄は充分で歌舞伎でも欠かせない

役所を任されるようになった中車さんの

役者としての精進ぶりは本当に天晴れです。



母の言付けの通り毒が盛られた菓子を

食べて苦しむ政岡の息子千松を残忍に



なぶり殺す巳之助さん演じる禅正の妹

八汐が怖すぎて思わず息を飲みました。



「伊達の十役」はこれまでに海老蔵さんや

幸四郎さんが演じていますが十役という



早替わりの技だけでなく乳人政岡という

難しい役をここまでしっかり出来るのは

立役と女方も兼ねる猿之助さんだからこそ。



コロナ禍のためショートバージョンで

毒が盛られている可能性があるために

満足にご飯が食べられずお腹を空かせる



鶴千代と千松のために政岡が茶釜を

使ってご飯を炊く「飯炊き」や妖術を

あやつる仁木禅正の宙乗りなど今回は



上演されない場面がかなりありますが

制限がある中で新版としてチャレンジした



猿之助さんのその心意気が素晴らしく

ぜひ次は「伽羅先代萩」を観たいですクローバー



歌舞伎は2021年もコロナ対策により
客席を減らすだけでなく2時間ずつ3部制
という制約の中でこの機会だからこそ


出来ることをやってみようと創意工夫し
上演を続けてくれたことに心から感謝。


また去年から本当に画期的な歌舞伎の
初のオンライン配信となる図舞歌舞伎を
幸四郎さんが中心となってスタートさせ


その幸四郎さんが吉右衛門さんが演じた
鬼平犯科帳の長谷川平蔵を5代目として
引き継ぐこともすでに発表されています。


もう1日生きてみよう」猿之助さんは

芝居を観た人にこう思ってもらえるような

生きる力を届けたいと語っていました。



先代が命を賭け守ってきた伝統に新風を

吹き込む歌舞伎はまさに今を生きる演劇。




今年はこれで歌舞伎納めでしたが来年も
芸術の灯を見守りに歌舞伎座に通います音譜